女子校の文化祭で始まる恋(リライト版)【第4話】 手渡しの文通

「佐藤さん、おはよう」
「おはよう、大和くん。……これ」
安奈は鞄から可愛らしい封筒を取り出し、大和に手渡した。
「佐藤さん、これは……?」
「うん、電話だと色々話せないこともあるから、あのあと手紙書いたんだ」
「あ……ありがとう……」
「……大和君、返事ちゃんと書いてね」
「あ……あ、うん。分かった」
大和は安奈から手渡された封筒を、大事そうに鞄の奥の方にしまい込んだ。
気が気じゃない一日を過ごした大和は、放課後一目散に帰宅し、安奈の手紙を開いた。

そこには、彼女らしい文字が綺羅びやかに並んでいた。
−安奈の手紙−
大和君へ
昨日の夜電は、お父さんに叱られて途中で切っちゃってごめんね。でもさ、流石に長すぎたかもね。時間って経つの早いね。
ところで、毎朝あの時間まで一緒にいて学校には遅刻してない?
大和君の後ろ姿見てると、何となくギリギリの時間が判ってきたけど、私もあの後走ることあるんだよ。
こんなこと、お父さんたちが傍にいる電話だと言えないよね。だって、バレたらきっとお父さんが朝送るって言いだすから……。それに、大和君と会わせてくれなくなるかもしれないし……。
あと、テニス部の朝練ある時は会えないけど、大会が近くになると毎朝練習なんだ……。
そんな日は私から電話するね。
あと…試合の日、応援にきてくれますか?
明日、雨じゃないと良いね。
雨の日は、畑のあぜ道が通れないから遠回りするんだって言ってたでしょ?
だから、大和君、いつもより早めに学校に向かうから、朝、話せる時間が短いんだよね。
雨の日はレインウェアでの登校だよね。
風邪ひかないでね。
じゃあ、また。
安奈
長々とした手紙じゃない。いつもの佐藤さんが手紙の中にいる気がした。
ただ驚いたのが、手紙からほんのり甘い香りがした事だ。
夜、家族が寝静まった頃、大和は机に向かい、ペンを握りしめた。
−大和の手紙−
佐藤さんへ
手紙ありがとう。嬉しかったです。
まずは手紙の感想。
文字の色が鮮やかで可愛らしかったのと、字が綺麗だな〜って思いました。
あと、手紙から良い匂いがするのは、驚きました。
香水でもかけたの?(流石、世間に疎い大和)
俺の手紙は……黒だけで、ごめん。
さてと、
実は今日、生徒会の役員になることが決まりました。中学でもやらなかったので、初めての経験になります。
俺の担当は夏から秋までが多忙になるので、この期間は佐藤さんとの夜電の時間が、ヤバそうです。
だから、忙しくなる前に、また遊びに行っても良いですか?
それとも、俺んち……来る?
こちらも親の監視付きだけど。
あと、大会の応援は絶対に行きます。
今度、大会スケジュール教えて下さい。
大和
翌朝、大和は安奈への返事を手渡した。
「佐藤さん、これ……」
「ありがとう。今日、雨じゃなくて良かったね」
「そうだね、ちょっとだけ時間があるね」
手紙のやり取りが二人の会話を弾ませる。昨日までの会話とは少しだけ距離が縮んだかのように。
安奈は、大和と別れたあと学校で大和の手紙に目を落としていた。
手紙を見ながら、安奈は思わず小声でつぶやいていた。
「え、大和君、ゼブラボールペン【蛍光香り】知らないんだ? 男の子って皆んなそうなの?」
「え〜、大和くん、生徒会役員になっちゃうの〜。会う時間なくなっちゃうじゃないよ〜」
「え、また家にきたい? 大和くん、手紙だと言うんだ。いつもは鈍いのに……」
「でもどうしよう、お父さんに叱られたばかりだし、家は無理だよ……。でも大和君の家なら、それもありかな〜」
無意識にブツブツ独り言が漏れていたみたいで、友人に覗き込まれて慌てた。
「安奈〜! 何見てんの?ラブレター?」
「ち、違うよ! 電話で話せないことを手紙にしてるだけだから!」
「ふ〜ん。交換日記みたいじゃん」
「ち、違うってば!」
安奈は必死に誤魔化そうとしていたが、手紙のやり取りは、まさに『交換日記』そのものなのである。

ある朝、佐藤さんは焼いたクッキーと一緒に手紙を渡してきた。
「大和くん、これ……家庭科で作ったの」
照れる安奈を前に、大和はモゴモゴと小さな声で、礼を言うことしかできなかった。

その後も、二人の手紙のやり取りは続き、朝会えない時は、放課後に家のポストに投函したりもした。そうなると、手紙は休みの日にも投函するようになり、時には、安奈が大和の部屋で帰りを待って、手渡しすることもあった。
大和の古い平屋の家。佐藤さんは大和の部屋で一人で待っていたらしい。
そこに10kmの道のりを自転車を漕いで大和が帰宅した。汗まみれでボサボサ頭の大和に、『石川五右衛門』みたいだと、佐藤さんは腹を抱えて笑っていた。
その大笑いのおかげで、いつもより素直にいろんなことを話せた。
もし手紙という理由がなければ、安奈はわざわざ大和の部屋に来ることもなかっただろう。
二人の手には塩っぱい『煎餅』があった。大和の母親が慌てて出したものだ。
安奈が作ってくれた『クッキー』の甘さには程遠い味。それでもその塩っぱさを感じない二人がいた。

本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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