ズズラーとの静かなる戦い
ズズズズ〜〜〜。
耳障りな音が響いた瞬間、私は心の中で叫んだ。
(鼻を啜るんじゃない……!)
激しく毒づきながら。
周囲は足音すら聞こえない完璧な静寂に包まれていた。誰もが息を潜め、気配を消して自分の順番を待っている。
時折、奥の診察室から女性の優しい声が聞こえ、呼ばれた人がひとり、またひとりと立ち上がっては、奥の間へと誘われていく。そんな平穏な空間を、その音は突如として蹂躙した。
ズズズズ〜〜〜!
容赦なく、思い切り鼻を啜る音。しかも何度もリピート。
私は、咀嚼音を響かせる「クチャラー」と同じくらい、鼻を啜る、この「ズズラー」が猛烈に苦手だ。
こうなると、意識のすべてが音の主に向かってしまう。この密閉空間で「聞かない」ということは不可能に近い。遮断するための唯一の方法は、この場所から退避することだけだ。
あと僅かで名前が呼ばれるはずだし、あと少しの辛抱だ。そう自分に言い聞かせるものの、どうしても視線がその男性の方へと動いてしまう。
あまりガン見してしまうと喧嘩になりかねないが、もはや条件反射だ。音の鳴る方へ、私の目はどうしても向いてしまうのである。
思い切り顰めっ面で……。
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