女子高の文化祭で始まる恋(リライト版)【第13話】クリスマスのダンスパーティー 、安奈と最後の夜
安奈を駅まで送ってから一ヶ月が過ぎ、街が冬支度を始めた頃、夜に実家の電話が鳴った。

「はい、桂木です」
「あ、大和くん? 佐藤です」
「安奈?」
「うん、久し振りだね。遅くなったけど、あの日のお礼、まだだったから……」
「あ、ああ、休みだったし、構わないよ」
「……あのね……大和くんは今フリー?」
「え? フリーって彼女がいるかって事? まあ、そうだけど……」
「今度大学で、クリスマスのダンパがあるんだけど、プロムみたいにエスコートしてくれない?」
「それって……俺で良いの?」
「うん、大和くんにお願いしたいの……」
少し迷ったが、俺は誘いを受け入れた。
あの頃から、安奈の笑顔はいつも俺の心に残っていたから。もう一度、安奈と向き合ってみたかった。
当日。
車で迎えに行った安奈の胸には、あの時プレゼントした、スターリングシルバーのネックレスが光っていた。

「安奈、それ……」
「うん、大和くんに貰ったやつ……。大切にしてるよ」
「ああ、良かった。凄く似合ってる」
「ありがとう」
車の中は、文化祭で告白した時の話が飛びだした。
「あの時、本当は大和くんじゃなくても良かったんだ……」
「ええ〜」
「大和くんは、なんであんな事言ったの?」
「……中学の時から気になってたんだよ」
「じゃあ……、本気の告白だったんだ?」
「勘弁してよ…」
車内は、まるで恋人同士に戻ったような、そんな感覚に包まれ、弾んだ会話の中、安奈が通う大学に到着した。
大学の講堂は、カラフルなモールに飾られ、無数の紙のツリーとミラーボールがキラキラと光を放っていた。ホールでは汗と香水の匂いが混ざり合った熱気が溢れていた。
耳をつんざくようなディスコナンバーが流れる中、汗で濡れた安奈の髪は、ミラーボールの光を浴びて、まるで宝石のように輝いていた。

「安奈、踊り上手いね」
「こう言う時は、楽しまないと損だよ」
あの頃の、少し控えめな少女はもういない。
そこにいたのは、自信に満ち溢れた、大人の女性だった。
やがてDJの声が響いた。
「ラストナンバーです!」
照明が落ち、静かなピアノのイントロが流れる。ビリー・ジョエルの「Just the Way You Are」。
騒がしかった空気が嘘のように静まり、ペアになった学生たちがゆっくりとフロアに出て行く。
安奈が囁いた。

「……踊らない?」
ためらいながらも、俺は頷き、彼女の手を取った。
肩に添えられた手の温もり。
すぐそばで聞こえる、安奈の鼓動。
初めて触れる、彼女の温もり。
まるで時間が止まったかのように、世界には俺と安奈しか存在しないような、錯覚に陥った。
二人はほとんど言葉を交わさず、ただ音楽に身を任せて揺れた。
次第に身体を寄せ合う。彼女の両手が俺の首に回り、彼女の肌の柔らかさを感じる位になった時、安奈は言った。

「……大和くん、あの時はごめんね。真理が色々言ってきたから、どうしていいか分からなくなっちゃって。大和くんのこと、ずっと好きだったから」
「いや、悪いのは、ハッキリしなかった俺だから……。ちゃんとした告白もしないままだったよね。安奈、ずっと好きだった」
「今夜こうして踊れて、本当に嬉しかった。デートと言えば、登校前の短い朝デートだけだったから。ちゃんとしたデートらしいデートもしたかったんだ」
「うん、そうだね」
「……最後にやっと願いが叶った。ありがとう」
「え……」
「ごめんね。今日誘ったのはちゃんとお別れしたかったからなの。大好きだった大和くんとの高校時代。あのまま別れて嫌な思い出にしたくなかったから……」
「そうか、そうなんだ……」
安奈に涙はなかった。
彼女の言葉からは、新しい出会いや経験を経て、過去にとらわれず未来を見つめようとする意志が伝わってきた。

そして曲がラストのトランペットパートになった時、ふいに首に回した安奈の手に力が入った。そして引き寄せられるように、安奈の唇が俺の唇に重なった……。
「えっ?」
ほんの一瞬。瞬きするほどの短い時間。でも確かに唇の温もりを感じられた瞬間だった。
呆然とする俺を見て、安奈は少し寂しそうに、でも悪戯っぽく微笑んだ。
「大和くん、私たちのファーストキス。忘れないでね……」
「あ……、安奈」
「元気でね。大和……」
その時、ラストナンバーが終わり、辺りが明るくなった。
彼女はドレスをふわりと舞い上げ、人混みの向こうへ消えていった。
初めて触れた、彼女の温もりと柔らかさ。
それが、まるで砂のように、僕の手から零れ落ちていく。
安奈ともう一度……そう願っていた自分が、ひどく滑稽に思えた。
ホールの外に出ると、冷たい風が頬を打った。街にはイルミネーションが瞬き、どこか遠い世界のきらめきのように見えた。
その夜を境に、俺と安奈が再び言葉を交わすことはなかった。
さよなら、安奈。

安奈と過ごした最後の夜を振り返ると、最後のキスはあまりにも鮮明に残っている。
ただ未完成のまま終わった恋だからこそ、安奈の笑顔は、あのクリスマスの夜の温もりは、永遠に俺の中で生き続けるだろう。
あの時、もし……なんて、今更考えても仕方ないけれど、俺たちの未来は変わっていたのだろうか。そんなことを、今でも時々考える。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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