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女子校の文化祭で始まる恋(リライト版)【第0話】パンを分けてもらった日

あらすじ

始まりは、中学の教室で分け合った一枚のパン。1970年代、不器用な大和と安奈の恋は、女子校の文化祭での「公開告白」という鮮烈な再会から動き出す。

黒電話での長電話、朝の通学路での数分だけの逢瀬おうせ、そして手渡しの手紙に託した想い。二人の距離は近づいたかに見えた。しかし、安奈の親友の介入により、大和の若さゆえの迷いが、二人を引き離してしまう。

数年後、偶然の再会からダンスパーティーに誘われた大和。二人の身体が触れ合う中、安奈が残したのは「さよなら」のキスだった。

それから数十年。真夏の陽炎かげろうの中でふとすれ違ったとき、交わした視線と会釈。あの時の二人の恋は、数十年後の時を経て、今、お互いの人生を祝福する穏やかな思い出へと変わっていた。(全15話)


初恋のはじまりは、いつも気づかないうちに訪れる。1970年代、中学三年生のとき。給食の食パン一枚を分けてもらった小さな出来事は、まだ恋と呼べるほどのものではなかった。けれど、確かに心に残る温かい記憶となり、後に「女子校の文化祭」で再会する二人の物語はここから始まっていた……。

中学三年生の頃の大和は、とにかく食べても食べても足りなかった。運動部でもないのに、いつも腹ペコだった。

チャイムが鳴り終わり、ざわつき始める教室。給食当番が運んできたのは、食パンが二枚と、プラスチックの皿に少しのおかずだけ。牛乳はあるが、腹の足しにはならない。

おかずのおかわりは出来るが、寸胴に残った少ないおかずは、早く一杯目を食べ終えた者から山盛りにしておかわりしまうので、食べるのが遅い大和は中々おかわりにありつけなかった。

そんなある日、隣の席の女子が申し訳なさそうに一枚のパンを差し出してきた。

「大和君、食べる? 残すと先生に叱られるから」
「え、いいの? 給食足りなかったんだ。ありがとう!」

パンに付けるバターなんかない。大和は構わず口の中にパンを頬張った。空腹が少しだけ満たされた。そして、ふと思った。

「他にも居るんじゃないか……?」

大和は他にパンが余っている女子が居ないか声をかけた……。

それをきっかけに噂が広まり、気がつけば隣の隣のクラスの女子までやってきては、廊下から声をかけてくるようになっていた。

「私のもあげるよ」

いつの間にか、学校の給食時間だけでは食べきれない量になり、余ったパンをボストンバッグに詰めて持ち帰るようになった。

それを帰宅後のおやつ代わりにペロリと平らげ、それでも夕飯では丼飯どんぶりめしをおかわりする。今思えば、よくあんなに入ったものだ。

だからと言って太っていた訳じゃない。体重は40kg台で、どちらかと言えば痩せていた方だ。

そして、パンのやり取りの中で、隣のクラスの佐藤安奈とも少し話すようになった。

「あんなにいっぱい食べられるの?」
「帰ったらおやつ代わりに全部食べちゃうよ、それでも夕飯は丼で食べるからね」
「え〜凄い食べるね!」
「佐藤さんはパン一枚で足りるの?」
「うん……実はちょっと足りない日もある」
「だったら全部食べれば良いのに……」
「大和くんは、年ごろ女子の気持ちが分からないんだよ」
「……?」
「全部食べたら太るじゃんよ」

ただのやり取り。それ以上でも以下でもない。ただ、隣のクラスの女子との会話は、大和の心臓をドキドキさせていた。

放課後、白いテニスウェア姿でラケットを握る彼女を見かけると、目が離せなくなる。

同じ学年でもクラスは違うし、修学旅行も終わっていて接点は少ない。それでも、胸の奥に淡い何かが芽生えていた。

(安奈)
転校生の大和君は、廊下ですれ違うと笑顔で挨拶してくれる。よく食べるのに細くて、ちょっと照れくさそうに笑う顔が印象的。

自分が渡したパンを嬉しそうに食べてくれたことを思い出すと、なぜか気持ちがホンワカする。

他の女子が彼にパンを渡している姿を見ると、ちょっとだけ心の中がモヤモヤしたけれど、それを恋だなんて思いもしなかった。

ただ淡い記憶として、静かに胸の奥に残るだけだった。

やがて中学を卒業し、大和たちはそれぞれ別の高校へ進んだ。卒業式で第二ボタンを渡す事もなかったし、特別な言葉を交わすこともなかった。

けれど、あのパンを分け合った日々が、確かに二人をつなぐ小さな糸になっていたのだろう。

再び佐藤安奈と出会うのは、高校一年の秋……。女子校の文化祭でのことだった。


本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。


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