女子校の文化祭で始まる恋(リライト版)【第1話】 模擬店と二人の再会
中学を卒業して、約半年が過ぎた高校一年の秋、大和は街の郊外にある女子高の文化祭を訪れていた。
校門をくぐり、受付でプログラムを貰うと、大和は目を輝かせながら、模擬店が並ぶ構内をを歩き回る。
校舎に漂う微かな女の子の匂い。煌びやかな声が響く教室……。すべてが大和の通う男子校とは違う世界だった。
一方、その華やかさの裏で、安奈はひどく憂鬱な気分でいた。
高校生になって初めての文化祭。上級生たちは、「男子がいっぱい来る」とはしゃいでいたが、安奈たちのクラブの模擬店は、彼女にとって最悪の企画だった。……。
模擬店の名は「彼氏を連れて行く教室」。
下級生が男子を連れて行き、皆の前で真剣交際を宣言させるという、悪ノリに近いイベントだ。もし連れて来られなければ、次の大会のレギュラーから外されるだけでなく、先輩たちの絶対命令に従わなければならないという過酷な罰ゲームが待っている。
(どうしよう……。私にはそんな相手、いないのに)
焦燥感に駆られながら人混みの中を眺めていた安奈は、ふと、見覚えのある顔を見つけた。中学時代によく話をしていた、大和君だ。
「あ、大和君、文化祭来てたんだ?」
「あ、佐藤さん、久し振りだね」
「うん、今日は一人なの?」
「あ、ああ……、うん」
大和君の照れたような笑顔は、中学の頃と少しも変わっていなかった。でも髪の毛が伸びてちょっと格好良くなった。中学生の頃の温かい記憶が胸によみがえる。そして同時に、私の頭の中で、最悪の考えが閃いた。
大和君は彼じゃない。でも、彼なら助けてくれるはず。
「ねえ、大和君、ちょっと協力してほしいことがあるの。お願い」

安奈は返事も待たず、大和の手を握って駆け出した。
嘘だとバレれば先輩を怒らせるかもしれない。けれど、このまま罰を受けるくらいなら……。心の中で大和に謝りながら、彼女は必死に足を動かした。
佐藤さんに連れて行かれた教室の中は、少し薄暗い感じがしたが、紙テープやフラワーリボンなどが華やかに飾られていた。BGM にピンクレディーの『ペッパー警部』が流れていたが、模擬店らしい、特別な催し物は見当たらない。
周りには数名の女子生徒がいて、その最上位者であろう女子生徒の前に、佐藤さんと2人で並んで立たされた。
佐藤さんは、ひどく緊張してるみたいだ。
「何が始まるんだろう?!」と思っていたその時、その最上位の女生徒から、妙な質問がきた。

「君、安奈との関係は? 安奈のこと、どう思ってるの?」
「へ? 何の事?」
突然の質問に、大和はそれが何を意味しているのか判らなかった。
「お前、安奈の彼氏なんだろ?」
「えっ?」
「安奈。こいつ、彼氏じゃないのか?」
「え、えっと、あのですね……」
「ここは、お前たち下級生が彼氏を連れてくるって言うイベント会場なんだぞ」
「は、はい……」
先輩の鋭い視線に、安奈はうつむいたまま震えている。
(え、ええ~!? 彼氏を連れて?)
(さ、佐藤さん、どうして俺を?)
佐藤さんとは中学を卒業してから会った事すらない。当然付き合ってないし、ましてや中学の時に友達として話した程度だ。
しかも今日、この日、突然ここに連れ込まれたんだし……。でも彼氏を連れて……って。
かなり動揺していた大和だが、詰問されている佐藤さんを助けるため、その先輩の言葉を遮り、大和は喋り出した。

「彼女の事は大切に思っています。まだ彼氏じゃありませんが、これからそんな付き合いが出来たら良いなと思っています」
大勢の前での、堂々たる告白。
静まり返った教室は、一瞬ののち、割れんばかりの歓声に包まれた。
「キャ〜格好良い〜!」
「ヒュ〜ヒュ〜、やるじゃん彼氏くん」
大和の心臓は、喉から飛び出しそうなほど暴れていた。中学時代、テニス部の練習に励む彼女を遠くから見つめていたあの頃。伝える勇気がなかった想いが、まさかこんな形で口から出るとは自分でも驚きだった。
安奈は隣で硬直していた。
(え、え、大和くん、何言ってるの? だって、さっき偶然再会したばかりだよ?)
大切に思ってる? これから、付き合いたい?
確かに中学の時、廊下ですれ違うと笑顔で挨拶してくれてたけど、まさかあの時から私のことを?
嘘でしょ!
うわあ、顔が見られない、身体中が熱い。
私の気持ちなんか、もう言えなかった。
ザワついた教室の中、二人は無言のまま固まっていた。
一瞬の後、
目の前にいた中心の女子生徒が、口を開いた。
「格好良い彼氏じゃないか、仲良くするんだぞ」
満足げな先輩の言葉と拍手に送られ、二人はようやく教室を解放された。
教室の喧騒が背中に遠のいていく。午後の柔らかな光が差し込む廊下を、二人は無言で並んで歩いた。
「さっきの……本気?」
安奈が消え入りそうな声で尋ねると、大和は「うん」とだけ答えた。
その瞬間、佐藤さんの頬がほのかに赤く染まった。大和から視線を逸らして俯いた時、彼女の耳まで真っ赤になっているのが分かった。
逆光に照らされたその横顔が、やけに眩しく見える。……大和の心臓は、もう破裂しそうなほど暴れていた。


本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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