女子校の文化祭で始まる恋(リライト版)【第2話】父親が出る黒電話
佐藤さんが通う高校の文化祭で告白してから、佐藤さんとの距離は一気に近づいた。
ただ、当時は携帯電話がない黒電話の時代だ。メールもラインもビデオ通話もできない。会う以前に二人で話す時間が余りに少なかった。
話をするためには、まず彼女の自宅に電話しなくてはならない。これが男にとってはかなり大変なイベントになる。

何故なら、当時の唯一の連絡手段である「黒電話」は、どこの家庭も居間の片隅、テレビの横に鎮座していたからだ。俺が受話器を取れば、俺の家族の視線が一斉にこちらを向く。それは佐藤さんの家でも同じだったはずだ。
ダイヤルを回し、受話器を耳に当てると、向こう側でガチャリと音がした。

「はい、佐藤です」……出た。お父さんだ。
受話器越しに響く低い父親の声に背筋が凍りつく。
「あ、あの、佐藤さんのお宅ですか? 大和と言いますが……安奈さんいらっしゃいますか?」
「何の用だね?」
「え、ええと……、明日の事で話がありまして」
「……ちょっと待ちたまえ」
うあぁ、繋いでくれた……!
マ、マジ怖え~わ。
「はい、電話代わりました…、大和君?」
「あ、あぁ、うん、佐藤さん今話せる?」
「大丈夫だよ、お父さんお風呂入ったから」

あああぁ〜良かった〜。全身の力が抜けた。
そこから延々一 時間位電話で話すのだが、彼女が笑うたび、背後で茶碗を片づける音が聞こえる。その気配に、安奈の言葉はすぐ途切れた。
「その辺にしないと、お父さんに怒られるから」
母が優しく注意しながら、娘を庇う姿が聞こえてくる。
「ごめんね大和君……、また明日ね」
受話器を置いたあとも、胸の高鳴りは収まらなかった。言えなかった言葉は、翌朝の通学路で取り返すしかない。
夜、家族の前で話せなかった話は、翌朝の通学時、佐藤さんの家の近くで、遅刻寸前まで話しこんだ。

「おはよう、昨日は遅くまでごめんね」
「おはよう」
「お父さん、大丈夫だった?」
「ん〜、特にはなかったかな」
色々話していると、時間はあっと言う間に過ぎる。
「あ、もうこんな時間、学校行かなくちゃ」
「あ、そうだね、じゃまたね」
笑顔で手を振る佐藤さん。その一瞬の輝きに浮かれながら、俺は10km以上先にある高校に向けて必死に自転車のペダルをこいだ。
遅刻ギリギリの朝が、俺たちの小さなデートの代償だった。
俺達の街には、洒落たカフェなんてない。24 時間のコンビニも、ゲーセンも、まだ影も形もなかった。
俺が通う高校の下校時間から、地元に戻るまで30分〜1時間は必要だった。
彼女にも部活があり、安奈と俺が夕方に会う時間はなかった。だからこそ、朝の短い時間が唯一のデートになっていく。
この時点で、佐藤さんに彼氏ができたらしい、と言うのは完全に親バレしていた。
そうなると、どこの馬の骨とも分からぬ男が、夜な夜な何回も電話すること自体が、その逆鱗に触れる。
「佐藤さんのお宅でしょうか? 大和と言いますが、安奈さんはいらっしゃいますか?」
「また君か、今日は何の用だね?」
「え、ええと、その〜」
「用はないんだな」
言い終わるや否や……ガチャリと、無情に切れる受話器。
仕方なく時間を置き、再度ダイヤルを回した。今度は味方であるお母さんが出てくれることを祈って…。
でもお父さんが出る事もある。
「君もしつこいね。何時だと思ってるんだ!」
ブチ切られながらガチャ切りされ、俺は心の中で冷や汗をかいていた。


ちなみに、お母さんが出た場合は繋いでくれる。大和と安奈にとっては女神的な存在だ。
「あ、大和君ね、ちょっと待って」
受話器の向こうから佐藤さんの声が聞こえた瞬間、全ての緊張が溶けていった。
本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。
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