DSC(Dsystem Cycle)──現場の判断を、次の成長へつなげる育成モデル
「経験を積めば成長する」は、半分だけ正しい
障害の一次対応は終わっていました。
手順書に沿って確認し、必要な連絡も済ませた。担当者として、やるべきことは進めている。
ただ、顧客から「で、利用部門にはどう伝えるのがいいですか」と聞かれたとき、少し言葉が止まりました。
システム上で何が起きているかは説明できる。けれど、影響をどう整理するか。誰に、どの順番で、どこまで伝えるか。そこには、手順書だけでは答えられない判断があります。
SESで働いていると、「まずは経験を積もう」と言われることがあります。
これは間違いではありません。顧客との距離感、障害対応の優先順位、報告のタイミング、手順書に書かれていない例外への向き合い方。実務でしか身につかないことは、確かにあります。
ただ、同じように数年の経験を積んでいても、任される範囲が広がる人がいる。一方で、案件を変えても、同じところでつまずき続ける人もいます。
この違いは、経験年数だけでは説明できません。
経験をしたかどうかではなく、その経験を次の判断へ変えられたかどうか。
そこに、数年後のキャリアを分ける差があります。
現場では、一度立てた答えがそのまま通用しない
AIの世界では近年、一つのタスクについて最初から長く考え抜くよりも、途中で状況を確認し、判断を修正できる回数を増やす方が重要になる場面がある、と考えられています。
現実の仕事も同じです。
顧客の優先順位が変わる。担当者が異動する。利用部門から想定外の質問が来る。障害の影響範囲が、調査を進めるほど広がる。
最初に立てた計画や仮説だけで、最後まで進む仕事はほとんどありません。
だから現場で求められるのは、最初から完璧な答えを出すことだけではありません。途中で情報を集め、前提を見直し、必要なら報告や対応を変えられることです。
人材育成も、本来は同じだと考えています。
研修を受けた。目標を決めた。評価面談をした。
それだけで人が育つわけではありません。
実務で試す。迷う。振り返る。次は少し違うやり方で試す。その結果をまた見直す。
この往復があることで、人は「教わった通りに動く人」から、「状況を見て考え直せる人」へ変わっていきます。
同じ失敗を繰り返すのは、能力が低いからではない
たとえば、顧客との認識合わせがうまくいかなかった場面を考えてみます。
こちらは対応内容を説明したつもりだった。しかし顧客は、影響範囲や次の対応を知りたかった。話した内容は間違っていないのに、相手が判断に必要な情報を渡せていなかった。
こうした経験は、ITの現場では珍しくありません。
問題は、その後です。
「次はもっと丁寧に説明しよう」で終わると、同じような場面でまた悩みます。丁寧に説明すること自体は大切ですが、何をどう変えるのかが曖昧なままだからです。
一方で、経験を次に活かせる人は、少し違う振り返りをします。
なぜ認識がずれたのか。
顧客は、その時点で何を判断したかったのか。
自分は、確認済みの事実と推測を分けて伝えられていたか。
次に同じ状況になったら、どの順番で話すべきか。
ここまで整理できると、失敗は単なる苦い経験ではなくなります。
次に使える判断の型になります。
経験は、そのままでは資産になりません。振り返り、言葉にし、次の仕事で試せる形に変わって初めて、本人の力になります。
DSCは、日報を提出させるための仕組みではない
ディーシステムでは、DSC(Dsystem Cycle)という取り組みを続けています。
日報や週報、顧客からの評価、案件での成功や失敗、本人の成長過程などを蓄積し、現場で得た経験を次の成長につなげていく仕組みです。
ただし、目的は日報を提出させることではありません。
経験を蓄積するだけでも足りません。
本当に目指しているのは、現場で起きたことを振り返り、その人が次に何を変えればよいかを具体的にすることです。
たとえば、インフラ運用・保守の現場で、アラート対応は正確にできている社員がいるとします。
しかし障害時の報告では、経緯の説明が長くなり、顧客や上位担当者が「結局、今どうなっているのか」を把握しにくいことがある。
この場合、「もっと分かりやすく報告しましょう」だけでは、次の仕事は変わりません。
確認済みのこと。
未確認のこと。
顧客への影響。
次に確認すること。
この順番で伝える。そうした具体的な型まで落とし込んで初めて、本人は実務で試せます。
そして、次の報告で実際に変化したかを見る。うまくいかなければ、また振り返る。
DSCは、こうした小さな修正を繰り返すための循環です。
最初から正しい答えを渡すのではなく、現場で判断を修正できる回数を増やしていく。その積み重ねが、本人の成長と、顧客への価値の両方につながると考えています。
顧客の変化は、現場の小さな違和感から始まる
ディーシステムでは、製薬業界やインフラ領域をはじめ、長く顧客の現場に関わってきました。
日々やり取りをしていると、顧客から寄せられる相談の内容が少しずつ変わっていくことがあります。
SAP権限管理の見直し。GxP監査への対応。データ基盤の整備。電子承認プロセスの構築。クラウド運用設計。
一つひとつを見ると、個別の案件に見えるかもしれません。
けれど、複数の現場を横断して見ると、共通する変化があります。
企業は、単にシステムを導入することではなく、増え続ける業務、データ、規制、承認プロセスをどう管理し、どう改善するかに向き合っています。
その変化を最初に見ているのは、営業資料でも市場レポートでもありません。
毎日、顧客と会話し、問い合わせを受け、障害に対応し、運用の不便さに触れている現場の社員です。
だからこそ、現場で起きていることを、単なる作業報告で終わらせてはいけません。
「最近、この種類の問い合わせが増えている」
「この運用は、特定の部署に負担が集中している」
「この承認プロセスは、業務が変わった今の運用に合っていないかもしれない」
こうした小さな違和感は、顧客への改善提案にも、次の事業機会にもつながります。
現場経験は、個人のキャリアをつくるだけではありません。顧客の変化を捉えるためのセンサーにもなります。
AIは、フィードバックの代わりにはならない
AIを活用すれば、日報や週報、問い合わせ履歴、評価コメントなど、大量の情報を読む負担は減らせます。
傾向を見つけることも、変化の兆しを拾うことも、以前より早くできるでしょう。
ただ、AIが出した要約や評価を、そのまま本人に渡せば育つわけではありません。
「報告に仮説を入れましょう」と言われても、どの場面で、どの程度の仮説を置くのかが分からなければ、次の行動にはつながりません。
フィードバックは、回数だけ増やしても意味がありません。
本人が次に何を変えるのか。
現場で試せる大きさになっているか。
試した後、また見直せるか。
そこまで設計されていなければ、フィードバックは単なる感想や指摘になってしまいます。
AIが担えるのは、情報を集め、整理し、変化の兆しを見つけるところまでです。
そこから何を伸ばすのか。どんな経験を次に渡すのか。顧客の現場にどう還元するのか。
その判断は、人と組織が担うべきものです。
成長が止まるときは、本人が怠けているときとは限らない
日々の業務は安定している。大きなミスもない。顧客との関係も悪くない。
それでも、数か月前と比べて、報告の質が変わらない。確認する範囲が広がらない。自分の担当領域の外に目が向かない。
こうした状態を、「本人の意欲が足りない」と決めつけるのは早すぎます。
むしろ、今の仕事の中では、次の成長につながる課題を見つけにくくなっている可能性があります。
問い合わせ対応に慣れたなら、次は問い合わせ履歴を見て、同じ問題を減らす提案をしてみる。
障害の一次対応ができるようになったなら、次は影響範囲の整理や関係者への報告まで担ってみる。
定常作業を安定して行えるなら、次は手順書の改善や自動化の余地を考えてみる。
成長の停滞は、評価を下げるための材料ではありません。
次にどんな経験を渡すべきかを考えるための予兆です。
ここを早く捉えられるかどうかで、本人が停滞に苦しむ時間は変わります。
月20営業日、年間240回の小さな修正
育成というと、年に数回の面談や研修を思い浮かべるかもしれません。
もちろん、まとまった面談や研修にも意味があります。
ただ、人が変わるのは日々の実務の中です。
月20営業日なら、年間で約240回の仕事があります。
その240回の中で、毎日少しずつ視点を変える。
次の報告では、結論を先に伝えてみる。
次の障害対応では、原因だけでなく影響範囲も確認する。
次の問い合わせでは、回答だけで終わらせず、再発防止の可能性まで考える。
次の会議では、決定事項と次の担当を整理してみる。
一度の面談で大きく変えるのではありません。
今の本人が越えられる少し先の課題を渡し、実務で試し、また振り返る。
その積み重ねが、数年後には大きな差になります。
経験の差は、案件数ではなく「次に活かせる判断」の数で決まる
SESのキャリアは、どの案件に入ったかだけでは決まりません。
その現場で何を見たか。
何に気づいたか。
誰とどのように関わったか。
失敗から何を学んだか。
次に同じ状況で、何を変えられるようになったか。
経験年数は、過去にいた時間を示します。
けれどキャリアを広げるのは、その時間の中で増えた判断の数です。
ディーシステムでは、現場経験をただ積ませるだけではなく、本人が次の役割へ進むための材料へ変えることを大切にしています。
過去に誰かが経験した成功や失敗を、次の人が遠回りせずに活かせるようにする。本人の成長が停滞しているときには、次に越えるべき課題を考える。顧客の現場で生まれた気づきを、本人だけの経験で終わらせない。
成長するのは、最終的には本人です。
ただし、本人だけが何年も試行錯誤を繰り返さなければ成長できない組織である必要はありません。
現場の知見を使い、今の自分に必要な課題に挑戦できる環境があれば、経験の意味は変わります。
DSCは、社員を評価するためだけの仕組みではありません。
現場で起きた経験を、次に試す行動へ変える。人と組織が何度でも判断を修正できる状態をつくる。そして、その成長を顧客への価値へ戻していく。
ディーシステムは、その循環を育てていきます。
さらに詳しく知りたい方へ
ディーシステムの人と育成|株式会社ディーシステム|note
