「幸福」「幸せ」という言葉はいつ頃生まれた?その起源
私は「従業員幸福度(EH)」の向上をライフワークと決めて、それに関わる調査、コンサルテーション、研修等を仕事にしていますが、noteを始めたばかりですので、当面の記事で私の「幸福」に関する基本的考え方いろいろ述べておきたいと思います。
「幸福」という概念の本質について最初の考察は前に述べました。
記事→『幸福とは何か?-その本質』
※またいろいろ複数の記事で書いていきます!!
今回は「幸福」「幸せ」という言葉の起源を述べます。
「幸せ」という言葉の起源
「幸せ」の語源
「幸福」あるいは「幸せ」という言葉は、日本ではいつごろ生まれたのでしょうか。
「幸せ」という言葉は語源をたどると「為合わせ」という語が由来と言われています。
「しあわせる(為る+合わせる)」の名詞形として、室町時代に生まれた言葉だということです。
江戸時代以降「しあわせ」のみで「幸運な事態」を表すようになったとされています 。
「幸」は「手枷」刑罰から逃れる僥倖?
なお「しあわせ」に「幸」の字があてられるようになりましたが、日本では漢字の「幸」は、古代の「手枷」を意味し、刑罰から逃れる僥倖に恵まれることから「幸運」の意味を指すようになったという説が広く流布され、今や定説と言って良いほどです。
「幸」が「手枷」とする根拠はない
しかし、私見ですが、この説は、どう考えても不自然な感じがします。実際「幸」が「手枷」とする根拠はないという指摘があります 。
(出典:平 春明「『幸』の字源は枷の形ではないの論」http://akarinoya.blog.fc2.com/blog-entry-42.html.)
「幸」の字を「手枷」とする説が日本では広まっていますが、漢字発祥の国、中国ではそのような説は認められておらず、明確に断定できる根拠がないようです。よって私は
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「幸」の語源を「手枷」とする説を支持しない
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という立場を取ります。
「幸せ」の起源は「幸運」へのめぐり会い
「幸せ」の「幸」の字源はさておき、もともとは「幸せ」とは「幸運」な出来事にめぐり会うことであり、そこに人間の能動的行動の介在する意味は希薄であることは注目に値すると考えます。
今日「幸せ」とは人間の能動的意思が介在し実感するもの、主体的行動の結果としてもたらされるものという意味合いが、多く含まれると考えるからです。
「幸福」という言葉は意外と新しい
「幸福」は明治初めHappinessの訳語で定着
「幸福」という言葉はいつ頃生まれたのでしょうか。
江戸時代までは「幸福」という言葉の使用は確認されていません。
「幸福」は中国由来でなく日本で生まれた
「幸福」は漢字ですから、中国から輸入された言葉ではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
中国では「福」という言葉は古代からありますが「幸福」という言葉は近代以降使われるようになりました。
日本の「幸福」という言葉が中国に逆輸入され、定着したものと考えて間違いはなさそうです。
明治期以降、中国に逆輸入された和製漢字は多く「中華人民共和国」という中国の国名の「人民」「共和国」という言葉も日本製です。
「幸福」という言葉は、明治の初めに造語、創案されたと考えられます。
日本で初めて「幸福」という言葉が登場したのは、山田孝雄によれば、西(にし)周(あまね)が明治5~8年頃に起稿した「幸福ハ性霊上ト形骸上相合スル上ニ成ルノ論」が最初ということです 。
(出典:山田孝雄『世界の幸福論』大明堂、1979年、pp.5-6.)
西周によれば、
明治8年頃には「幸福」という言葉が、
既にかなり一般的に用いられていたとのことです。
同じころ西周が書いた論文に
「人世三宝説」があり、その中で
「最高善は一般福祉」(アリストテレスの影響がうかがわれます)「最大福祉モストグレートハピネス」とあり「Happiness」の訳語として「福祉」を当てています。
これらのことから
「Happiness」の訳語に、最初「福祉」
という言葉が用いられ、その後、
新語「幸福」に替えられたものと推察されます。
同時期に陸奥宗光が、功利主義の始祖として知られ「快楽説」幸福論の大家、ジェレミー・ベンサムの「道徳及び立法の諸原理序説」(An Introduction to the principles of morals and legislation)を「利学正宗」の表題で翻訳、出版しています。
出版は明治16年ですが、陸奥が翻訳を完成したのは、西南戦争に呼応した罪で入獄していた明治10~15年、獄舎内でのことであり、訳本では「happiness」を常に幸福としています。
西周、陸奥宗光は、当時流行しだした
「幸福」という言葉を「happiness」の訳語
として当てはめたのか、それとも
「happiness」の訳語として造語、創案したのかは明らかではありませんが、
この時期に「幸福」という言葉が生まれ、急速に普及していったことは間違いありません。
西欧文明における幸福の語源
「幸福は最高善」アリストテレスが嚆矢
幸福の語源は、日本以外の国々ではどのような起源を持つのでしょうか。
西欧文明の起源である古代ギリシアでは、ヘレニズム時代にエウダイモニア(εὐδαιμονία)という言葉が、幸福の意味で使われるようになったようです。
アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において「幸福は、あらゆる善のうち、最上のもの」 と規定しました。
語源的には「δαίμων=daimōn」(「精霊」「精神」といった意味)という言葉に「εὐ=eu」(良い)という意味の接頭辞が付加されたことで成り立った言葉です。
ちなみに「δαίμων=daimōn」が、英語のデーモンの語源ともなっています。さらに「δαίμων=daimōn」の語源は「δαίω」(配分する)であるらしく「(良い)運命を分かつ精霊」といった存在を指す意味になると思われます。
ラテン語「felicitas」が西欧の「幸せ」の源
西欧文明の起源として、古代ギリシア文明の継承者である古代ローマの言語、ラテン語では「幸せ」は「felicitas」と言います。「幸福」「幸運」という意味の他に「肥沃」という意味もあり、日本語の「幸」という言葉が「幸=さち」とも呼び「食物」「獲物」「収穫」という意味を持つことと共通性を感じます。
幸福または「至福」を意味するフランス語の「félicité」(幸福、至福)、イタリア語の「felicità」、スペイン語の「felicidad」、ポルトガル語の「felicidade」は、いずれも、このラテン語をルーツとしています。英語の「felicity」の語源ともなっており、こちらも一般に「至福」「慶事」「幸運」と訳されます。
「Happiness」の語源は日本同様偶然の機会
ちなみに英語で一般的に「幸せ」を指す「Happiness」の語源は、古ノルド語(古北欧の言語)の「happ」(機会)とされており、「happen」(起きる、偶然出くわす)という動詞も起源は同じです。
日本語も英語も「幸せ」という言葉の語源は、偶然の機会を指すというのは興味深いですね。古代ギリシア語も「運命」的な意味を語源とするようです。はじめは偶然の機会としての「幸運」を指していたものが、だんだんと人間が自ら作り出すものという、主体的意思を込めた意味が付加されていったものでしょうか。
まとめ
「幸せ」の起源は「幸運」へのめぐり会い
「幸福」は明治初めに日本で生まれHappinessの訳語として定着
西欧ではアリストテレスが「エウダイモニア』(幸福)が最高善としたのが最初
ラテン語「felicitas」がヨーロッパ語圏の「幸せ」のルーツ
日本の「幸せ」と西欧は「幸=さち」や偶然の機会という点で共通の起源
今回の記事をお読みいただきありがとうございました。
次回記事では
「『幸福』はHappinessそれともWell-being?」
ということについて述べたいと思います。
イーハピネス株式会社 代表取締役 松島紀三男
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