見出し画像

「自己実現」て何?マズローの創案でないが幸せの中核

「自己実現」は「幸せ」特に「働く幸せ」を得るための中核的要因である。「自己実現」は幸福度、とりわけ「働く幸福度」に対して最も強い影響力を持つことが私(イーハピネス社調べ)の調査でも統計的に確認されている。
「自己実現」(Self-actualization)という言葉は広く流布され、一般名詞として定着した観がある。
「自己実現」はマズローの欲求5段階説をきっかけとして広まったが、マズローの創案ではなく、精神科医Goldsteinによって提起された。
精神医学の分野でどんな契機から自己実現という概念が生まれ、マズローによってどのように発展、適用分野の拡大がなされたか、マズローの理論の概要、臨床的研究結果と「働く幸福度」の関連について述べる。


「自己実現」は働く幸せの中核

「自己実現」(Self-actualization)こそは働く幸せ、
人が幸福を得るための核心です。
私の「従業員幸福度調査・EH調査®」でも
常に幸福度に強い因果関係を示しています。

「自己実現」はマズローが作った言葉でない

「自己実現」という言葉は広く普及していますが
マズローの「欲求5段階説」を通じて
お知りになった方が多いと思います。
私もそのひとりです。

確かに「自己実現」という言葉の普及は
マズローの研究がきっかけ
となっていますが
この言葉を創案したのはマズローではありません。

「自己実現」は精神医学用語として誕生


「自己実現」(Self-actualization)という言葉は
Kurt Goldsteinによって創案されました。

Goldsteinはドイツの神経内科医
および精神科医であり、
ナチスの迫害を逃れて米国に亡命しました。

米国で著した『TheOrganism』(1934年)の中で
「自己実現」(Self-actualization)という言葉を
初めて用いています。*下の写真↓

高かった(^^;)でも洋書もAmazonですぐ届く時代になり便利

「自己実現」(Self-actualization)という概念
を生み出す契機となったGoldsteinの研究は、
精神障害、特に統合失調症と戦争外傷の患者、
および中枢制御の喪失を再調整する彼らの
体の能力
に焦点を当てたものです。

人体への彼の「全体論」的アプローチ
(Holistic approach)は
個人の人格を統合する道を最大化して決定する
原動力として「自己実現の原則」
を生み出しました。

「自己実現」概念を発展させ
飛躍的に有名にしたA.H.マズロー

「自己実現」(Self-actualization)という概念
を発展させ、この言葉を飛躍的に有名にしたのは
A.H.マズローです。

マズローは
『人間性の心理学- モチベーションとパーソナリティ-』
の中でこう述べています。*下の写真↓

これも高かった(^^;)

この言葉は、人の自己充足への願望、すなわちその人が潜在的にもっているものを実現しようとする傾向をさしている。
この傾向は、よりいっそう自分自身であろうとし、自分 がなりうるすべてのものになろうとする願望といえるであろう。
これらの欲求が実際にとるかたちは、もちろん人により大きく異なる。(中略)この段階では、個人差は最も大きい。
この欲求は通常、生理的欲求、安全欲求、愛の欲求、承認の欲求が先立って満足された場合に、そ れを基礎にしてはっきりと出現するのである。

A.H.マズロー『人間性の心理学- モチベーションとパーソナリティ-』小口忠彦訳,産能大学出版部,昭和62年,p73

「自己実現」が現代の中核課題となった背景

「自己実現」(Self-actualization)という考え方が
現代において人間の中核的課題となった
のには二つの背景があると考えます。

第一には近現代の哲学における
「自我」概念の発展です。

近現代の「自我」の概念
中世的宗教思想下による「天職(Calling)」
観念から脱却
を図りました。

ニーチェ「神は死んだ!」とし
超人の思想を提起し、
実存主義(サルトルら)の思想
が展開されました。

人間は予め定められた生の目的など無く
突然「生」の中に放り出される
「人間的生の不条理」を負っており、
****************
自らの生きる意味、人生の目的は
自ら模索せねばならない
****************
ことが人間の中核的課題となりました。

第二は自然科学における
「全体論」的アプローチ
(Holistic approach)
です。

脳機能局在論への批判、
分析的医学・分業医療への批判や
ゲシュタルト心理学の発達が「Holism」
すなわち全てのものが
ほかの全てのものと相互作用し、
一貫性のある全体を共に作り上げる
調和した構造を持つという考え方を
産み出しました。

マズローは"「自己実現」は下位の欲求が満たされないと充足できない"とは言っていない

「マズローの欲求5段階説」では
下位の欲求が満たされないと上位の欲求には
移行できず「自己実現」にも到達できない、
と理解している方は少なくないと思います。

この考え方は概ねあてはまると思いますし
経験則とも合致すると思います。

私は、40年くらい前に
最初この説を聞いたときもそう教わりましたし
米国の学者が、
「実際は必ずしもそうならない」と言い
「マズローの欲求段階説は美しいが正しくない」
と批判しているのを聞いたこともあります。
今は違うのでしょうか?

命の危険を顧みず行動する人は結構いるし
「必ずそうなるともいえないなあ」
と思ったものです。

しかしマズローは
「下位の欲求が満たされないと
上位の欲求には移行できない」
とは言っていません。
***************
「欲求段階」の充足→移行
は固定的、不動のものではない!
***************
と言っています。

これまで、基本的欲求のヒエラルキーを固定した順序として述べてきた。
しかし実際、このヒエラルキーは、我々が示してきたほど不動なものではない
確かに我々が研究対象としてきた人々の大部分では、基本的欲求はこれまで示してきたような順序であると思われる。
創造への動機が他のいかなるものよりも重要であるような、明らかに生まれながらにして創造的である人々がいる。
彼らの創造性は、基本的満足により生じた自己実現としてではなく、基本的満足を欠いているにもかかわらず出現するのである。
はっきりしたヒエラルキーの逆転が生じることを説明するもう一つの側面は、(中略) おそらくこうした例外より重要なのは、理想、高い社会水準、高い価値などを含んだものである。
このような価値により人は殉教者になる。
ある理想、価値のために、すべてをあきらめられるのである。(中略)
このような人は、意見の相違や障害を容易に乗り越える ことができ、世論の傾向に逆らって歩むことができ、莫大な犠牲を払っても真理の擁護者となることができる強い人である。
これら五つの欲求は、一つの欲求が満たされると次の欲 求が現れるというような関係であるかのような印象を与えたかもしれない。
これは、一つの欲求は、次の欲求が現れる前に100%満たされなければならないかのような誤った印象を与えることになる恐れがある。
実際には、我々の社会で正常な大部分の人々は、すべての基本的欲求にある程度満足しているが同時にある程度満たされていないのである。

(前掲書,pp80-82)

人の言説を鵜呑みにせず
一次資料にあたることが大切
と改めて実感しました。

「自己実現」できている人は10%

みんな「自己実現」できるといいですね。
しかし、マズローは臨床的研究結果を踏まえ、
「自己実現」の夢をかなえる人は
残念ながら少数派だと言います。

優勢さのヒエラルキーを昇るにつれ満足の度合は減少するといえよう。
平均的な人では、おそらく
生理的欲求では85%、
安全の欲求では70%、
愛の欲求では50%、
自尊心の欲求では40%、
自己実現の欲求では10%

が充足されているようである。

(前掲書,p83)

自己実現の欲求が充足されていない
状態でも具体的「自己実現」の理想を
「成長動機」として明確に持った時点で
即「自己実現」すなわち幸福
と言えるのではないかと私は考えます。

余談ですが、よく目にする有名な
「欲求5段階説のピラミッド」
がありますが、実は
マズローはあのピラミッド図は
どこにも書いていません。

だれかが考案したものでしょうが
上の各段階の人数比を見ると
ピラミッドで表すのは良いアイデアですね。

「自己実現」を体現した人の特長

「自己実現」を体現した人は
どういう特性、行動を示すのでしょうか?

■マズローの調査結果
現実をより有効に知覚し、それとより快適な関係を保つ
受容(自己、他者、自然)と自発性、単純さ、自然さ
課題中心的で日常を超越してぶれない生き方を貫く
文化と環境からの独立した自律性、意志、能動的人間認識
神秘的経験、至高体験
共同社会感情(アドラーの概念)
心が広く深い対人関係
民主的性格構造
手段と目的の区別
善悪の区別
哲学的で悪意のないユーモアのセンス
創造性
文化に組み込まれることに対する抵抗、文化の超越

前掲書pp.221-264から抜粋、要約

もはや神というか…聖人君子ですね。

「自己実現」は「働く幸せ」の最大の決め手

冒頭「自己実現」(Self-actualization)こそは
人が幸福を得るための核心で、特に
「働く幸せ」の鍵であることを述べました。

私(イーハピネス社)の
「従業員幸福度調査・EH調査®」
幸福度全国調査(ハピネス*ウェルビーイングメーター)
でも常に「自己実現」のモジュールは
常に幸福度と統計的に最も強い因果関係
を示しています。

幸福度に関する指標のうち、
「私生活の幸福度」については
「家族とのきずな」が非常に強い影響力
を示します。
それは大切な幸せのセーフティネット
ではありますが
どこか物憂い幸福感です。

真に働く幸せが開花、結実するのは
「自己実現」の確信を持てたときです。

私(イーハピネス社)の調査では
「働く幸福度」への影響力は
「自己実現」が最大です。

また、アンケートにおいて
幸福度の数値の高い人は
インタビューすると必ずと言っていいほど
三木清の言うように(自己実現の)
喜びが外面(表情・言動・行動)に現れる
ので一発でわかります。
はずれたことはありません!

なかなか一朝一夕に
「自己実現」がかなうわけではないものの
「幸福度」を高める決め手として
大切にしたいものです。

まとめ

  • 「自己実現」は働く幸せの中核である。

  • もともと「自己実現」という考え方は精神医学用語として誕生した。

  • 「自己実現」概念を発展させ飛躍的に有名にしたのはA.H.マズローの功績である。

  • 「自己実現」が現代人の中核的課題となった背景は「近現代の自我の確立」と自然科学における「全体論」アプローチ(Holistic approach)の二つである。

  • マズローは"「自己実現」は下位の欲求が満たされないと充足できない"とは言っておらず"すべての欲求にある程度満足しているが同時にある程度満たされていない"としている。

  • マズローによれば「自己実現」できている人は10%の少数に過ぎない。

  • 「自己実現」を体現した人は円満な対人関係と同時に周囲の文化から超越したぶれない生き方、理想を堅持している。

  • 「自己実現」は「働く幸せ」の最大の決め手であることは統計的にも検証されている。

最後まで読んでいただき
ありがとうございます。
今後も幸福に関連する記事を
毎週数回は投稿してまいりますので、
好き・コメント・フォローなど
いただけますとありがたいです。

イーハピネス株式会社 代表取締役 松島紀三男プロフィール





いいなと思ったら応援しよう!

イーハピネス(株) 代表取締役 松島紀三男 ご支援ありがとうございます。くださったチップは、調査等に使わせていただきます。

この記事が参加している募集