シンナー不足で塗装業者が困っているのに経産省の対応が「文書を送りました」な件
シンナーが足りない、と経産省が言っている。
どういうことか説明しよう。
塗装に使うシンナーの原料がナフサで、そのナフサが高騰していて、メーカーが生産を絞ろうとしている。で、経産省が「絞るな」と要請した。文書まで出した。局長名で。
局長名の文書。
俺はここで少し考える。局長名の文書を出すまでに、電話した人間がいて、会議した人間がいて、文書の文言を確認した人間がいて、押印かなんかした人間がいるわけだ。それだけの手間と人件費をかけて、民間企業に向けて「生産を抑えないでください」と書いた紙を送った。
効果があると思って送ってるのかどうか、そこを聞きたい。
採算が合わないから絞るんだろ。原価が上がって利益が消えるから生産量を調整するんだろ。そこに「お願い」を持ってきて何が変わる。変わらない。分かってて送ってる。なぜかというと、「手を打った」という記録が必要だからだ。何かあったときに「経産省は動いていました」と言えるための文書を、局長名で、粛々と生産している。
供給の話に戻る。
赤沢経産相が会見で言った言葉がある。「全体量は確実に確保できているのは疑いはない」。
全体量はある。でも現場には届かない。
これを「目詰まり」と呼んでいた。目詰まり。かわいい言葉だ。配管の話みたいだ。水は出てます、ただ蛇口の前で止まってます、という状態をそう呼んでいる。TOTOはユニットバスの受注を止めた。塗装業者は必要量が取れなくなっている。全体としては問題ない、ただし個別には詰まっている、というのが現状で、その解消に努めています、と言っている。
努めています。
その努力の中身が、局長名の文書だ。
俺は塗装屋ではないし、ユニットバスのメーカーでもない。でも分かる。この種の「努力」の中身は何十年も変わっていない。
現場で何かが詰まる。業界から陳情が来る。省庁が会議を開く。文書を出す。状況を注視する。追加的な措置を検討する。必要に応じて関係者と連携する。
問題は解消されないが、手順は完璧に踏まれた。
ナフサが上がったのはなぜかというと、原油が動いたからで、原油が動いたのは中東が不安定だからで、中東が不安定なのは大国がそこで自分のゲームをしているからで、そのゲームに対して日本ができることは「局長名の文書」だ。エネルギーの川上から川下まで全部つながっている大きな構造が動いていて、その末端で塗装屋がシンナーを確保できなくて、経産省が「適切な量を確保できる体制を整える」と言っている。
整える。体制を。
整えたあとどうなるか誰も言わない。
俺が知りたいのはひとつだ。塗装屋が今週仕事をできるかどうか。それだけだ。体制の整備の進捗は聞いていない。でもそこには答えが来ない。来るのは「調達に問題が生じた場合は、経産省の窓口を通じて相談するよう」という呼びかけだ。
窓口に相談すると仕事が来るのか。
来ない。
仕事が来ないとしても、相談の記録が残る。その記録が、また別の会議の資料になる。資料が報告書になる。報告書が答弁の根拠になる。連鎖が続く。シンナーは足りないまま。
これが「目詰まりの解消に努めている」の実体だ。努力は本物だ。誰も嘘をついていない。ただ解決しない。
パワハラで潰れかけながら社内の手続きを全部踏んで何も変わらなかった10年間に、空気がよく似ている。
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