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高崎市の件から見る、朝7時の校門から考える②――高崎市「7時開門」の決定プロセスは何が問題か時系列で見えてくる“話し合われなかったこと”

参考:

高崎市の件から見る、朝7時の校門から考える|EasyBear

1.はじめに──「何を決めたか」より「どう決めたか」

高崎市が、市内58のすべての小学校の開門時間を午前7時に前倒しする方針を打ち出しました。目的として、市は「共働き家庭やひとり親家庭の負担軽減」を掲げています。

一方で、市内教職員を対象としたアンケートでは、回答者の約96%が反対という結果が出ています。
現場からは、

  • 子どもの安全は誰がどこまで見るのか

  • トラブルが起きたとき、結局は教員が対応するのではないか

  • すでに長時間労働が常態化しているなかで、さらに「朝」を広げるのか

といった不安や怒りの声が聞こえてきます。

本稿で焦点を当てるのは、「7時開門」そのものの是非ではありません。

この方針が、どのような手順で決まったように見えるのか

という「決め方」の部分です。

公開されている行政文書、報道、教職員組合の資料など、外から確認できる情報だけをもとに時系列を整理し、そのうえで、どこに課題があるのかを静かにたどっていきます。


2.公開資料から追う「7時開門」決定のタイムライン

まずは、公開情報から分かる範囲で、高崎市の「7時開門」をめぐる動きを時系列で並べてみます。


2024年ごろ
市民からの「早く開門してほしい」といった相談に対し、高崎市教育委員会は当時、
「受け入れ体制が整っておらず、現時点では対応できない」という趣旨の回答をしていたと教職員組合側は報告しています。


2025年7月7日
市教育委員会が、令和8年度(2026年度)から市内全小学校を午前7時に開門する方針を校長会に示したとされています。内容は、校務員に時間外勤務手当を支給し、午前7時に校門を開けるというものです。

この時点では、早朝に登校した児童の居場所、校舎内の見守り体制、トラブル対応の具体的な仕組みなど、制度設計の詳細は十分に示されていなかったと組合側は指摘しています。


2025年8月8日
高崎市教職員組合・全群馬教職員組合が連名で声明を発表し、事業の撤回と協議の場の設定を求めます。


2025年8月20日
教職員組合が記者会見を開き、決定プロセスの不透明さや安全面への懸念を公表します。


2025年8月15日付(デジタル広報高崎 11月号)
高崎市は「令和8年度から市内の全小学校を午前7時に開門します」とする記事をデジタル広報に掲載します。目的として「共働き家庭やひとり親家庭の支援」を掲げ、開門は校務員が行い、校門前で児童を見守ると説明しています。


2025年9月以降
市長・教育委員会による会見や説明が報じられます。

  • 市長は会見で、
    「いまの7時45分開門を前倒しするだけの話。子どもが来たら『入りなさい』で済む話」
    といった趣旨の発言をしたと伝えられています。

  • 一方、市教委は教職員組合との交渉の中で、
    「早朝にトラブルが起きた場合は、そのとき学校にいる教職員が対応してきたし、今後も同様」
    と説明したと報告されています。


2025年10月16日
市教育委員会と教職員組合の交渉が行われ、全国163団体からの賛同署名が提出されますが、事業の撤回や見直しには応じない姿勢が示されたとされています。


2025年10月17〜31日
市内の教職員を対象に賛否アンケートが実施され、

  • 賛成:9人

  • 反対:613人

  • その他:18人

という結果が公表されます。


2025年10月27日
市長会見で、教職員の反対の多さについて問われた発言が報じられます。


2025年11月5〜6日
全群馬教職員組合が声明と記者会見を行い、7時開門方針の撤回と制度設計のやり直しを求めます。


2025年11月21日
全群馬教職員組合が「公文書の取消し!?」と題した記事を公開します。情報公開請求に対し、市教委から最初に出された**「行政文書不存在決定通知書」**には、

校長会長と口頭でのやりとりであったため、議事録は作成していない

と説明されていたこと、その後「校長会と口頭でのやりとり」という文言に変更されたことなどが報告されています。


このタイムラインから、次のような構図が見えてきます。

  • 「7時開門」は、市の広報上は比較的早い段階で“既定路線”として打ち出されていること

  • 現場や組合からの反対や提言は、主に方針決定後に出されており、方針自体の見直しにはつながっていないこと

  • 「校長会と丁寧に協議した」と説明されている割に、議論の内容を示す記録が行政文書としてほとんど確認できないこと


3.「校長会と丁寧に協議」は、どう見えるのか

市教育長・教育次長は、「小学校長会と丁寧に協議し、了承を頂いた」と説明してきたとされています。

ここで、校長会の位置づけを簡単に整理しておきます。

校長会は、市内の小学校長が集まる任意組織で、教育委員会との意見交換や情報共有の場となることが多い組織です。

市内全小学校に関わる施策であれば、本来はこの場で、

  • 7時開門によって生じる運営上の課題

  • 子どもの安全確保やトラブル対応の方針

  • 学童や地域の見守りとの連携のあり方

などが、複数回にわたって話し合われていても不思議ではありません。

しかし、情報公開請求に対する市教委の最初の回答は、

「校長会長と口頭でのやりとりであったため、議事録は作成していない」

というものでした。

その後、この文書はいったん取消しとなり、

「校長会と口頭でのやりとり」

とする新たな文書が交付されていますが、開催日時や出席者、どのような意見が出され、どう対応したかといった情報は、少なくとも公開資料からは分かりません。

「議事録がない=協議がまったくなかった」とまでは言えません。ただ、

「丁寧に協議した」と説明されている一方で、その痕跡が行政文書としてほとんど確認できない

という点は、後からプロセスを検証するうえでの大きな弱点になります。

市内58校すべてにかかわる施策であることを考えると、一般的な行政実務の水準から見て、記録の残し方として十分とは言いがたい面がある、と評価することはできそうです。


4.誰の声がテーブルに載り、誰の声がすり抜けたのか

次に、「誰の声がどのように扱われたか」という視点で整理してみます。

【主に取り上げられたとされる声】

  • 早朝に出勤する保護者の声
    共働き家庭・ひとり親家庭から、「子どもを早めに学校で預かってほしい」といった要望があったと、市は説明しています。

  • 一部民生委員の評価
    デジタル広報高崎の記事では、民生委員児童委員が「保護者に寄り添った取り組み」と評価するコメントが紹介されています。

【十分に反映されたとは言いがたい声】

  • 教職員の声
    賛否を問うアンケートでは、613人中96%が反対と回答しましたが、現時点で方針そのものの見直しには至っていません。

  • 校長会での詳細な議論
    「校長会と協議した」と説明される一方で、その内容を示す議事録等は「不存在」とされており、どの程度踏み込んだ議論があったのかが見えません。

  • 子どもの安全や生活リズムに関する専門的な視点
    早朝に登校した児童が校舎内でどのように過ごすのか、不審者・事故・いじめ・体調不良への対応を誰がどう行うのかといった点について、詳細な制度設計は、少なくとも公開情報の範囲では多く語られていません。

【テーブルに乗ったかどうかが見えない視点】

  • 教員の長時間労働の現状
    文科省の勤務実態調査(令和4年度)では、小学校教員の平日の在校等時間は平均10時間45分と報告されています。

  • 業務量管理に関する国の指針
    文科省の指針では、登下校時の見守りなどについて、「学校以外の主体が担う体制」を構築することや、教員の勤務時間管理の徹底が求められています。

  • 学童保育や地域見守りとの役割分担
    既存の放課後児童クラブや地域の見守り活動と、今回の「7時開門」がどのように接続されるのかについては、公開資料からは十分には読み取れません。

こうして整理してみると、

特定の保護者の困りごとはきっかけとして拾われた一方で、
現場の勤務実態や子どもの安全、既存の仕組みとの整合性といった要素は、
決定段階で十分に乗り切れていない可能性がある

という構図が見えてきます。


5.決定プロセスの3つの論点

ここで、決定プロセスそのものに目を向けます。

現時点で裁判所による判断はなく、「違法」と断定できる状況ではありません。
そのうえで、複数の専門家との議論を踏まえると、次の3点が大きな論点として挙げられます。

(1)プロセスの透明性と記録

  • いつ・どこで・誰が・何を議論し、どのように判断したのか

  • そこに至るまでに、どのような意見が出て、どう扱われたのか

こうした情報を示す行政文書が「不存在」とされている点は、「丁寧に協議した」という説明と並べて考えたとき、どうしても説明が難しい部分を残します。

市内全小学校58校に影響する施策であれば、協議の記録を残しておくことは、あとから検証や修正を行うためにも重要です。記録が残っていないこと自体が、教育行政への信頼を損ないかねません。

(2)関係者参加の不十分さ

  • 教職員アンケートで96%が反対という結果が出ているにもかかわらず、その結果が方針の見直しや制度設計の修正に反映された様子は、現時点では確認しづらい状況です。

  • 学校運営協議会(コミュニティ・スクール)や学校評議員、PTA、地域団体など、複数の立場の人が集まる場での議論がどの程度行われたのかも、公表情報からは見えません。

このことは、

子ども・保護者・教職員・地域が一緒に向き合うべきテーマが、限られた関係者の範囲で決められてしまったのではないか

という疑問につながります。

(3)国の指針・他自治体の事例との整合性

  • 文科省の業務量管理の指針は、教員の長時間労働の是正とともに、登下校時の見守りを学校以外の主体が担う体制を求めています。

  • 三鷹市や松戸市などでは、「朝の見守り事業」として、シルバー人材センター等の人員を配置しながら試行・検証を重ねています。

それらと比べると、高崎市の「7時開門」は、

  • 「見守り事業ではない」とされつつも、実際には早朝に児童が校内に入ることになる

  • 校務員が門前に立つとされている一方、校舎内での過ごし方や安全確保については、学校側の工夫に委ねられている部分が大きい

という設計になっており、国の指針や他自治体の取り組みと比べて、制度としての厚みが十分とは言えない面があります。


6.他自治体の取り組みとの対照

ここで、同じように「保護者の就労」と「子どもの朝の居場所」という課題に向き合っている自治体の例を簡単に見てみます。

三鷹市(東京都)

  • 小学校の校庭を朝7時30分から開放。

  • シルバー人材センターの会員などを見守り員として複数配置。

  • 市議会での議論や予算措置を経て制度化。

松戸市(千葉県)

  • 「始業前の児童への見守り事業」として、朝の時間帯から児童を受け入れる仕組みを設計。

  • シルバー人材センター会員(おはようキッズサポーター)が校内で見守りを担当。

  • 利用児童は事前登録制とし、利用状況や課題を把握できるようにしている。

これらの取り組みと高崎市の「7時開門」を比較すると、次のような違いが見えてきます。

  • 見守り体制(人員配置・研修・責任の所在)が明確に設計されているか

  • 利用児童を把握する仕組みがあるか

  • 試行期間や検証のプロセスを通じて改善できる構造になっているか

高崎市のケースは、時間の前倒しが先に決まり、その後の制度設計が現場や校務員の「工夫」に委ねられているような構図になっている点で、違いが大きいと言えます。


7.では、どう決めればよかったのか――5つのチェックポイント

もし、同じような施策をこれから検討する自治体があるとしたら、どのような決め方が望ましいのでしょうか。ここでは、5つのチェックポイントとして整理してみます。

① 実態とニーズの把握

  • どの地域で、何人くらいの児童が、どの時間帯に校門付近で待っているのか。

  • 保護者が求めているのは「とにかく入れてほしい」のか、「安全が担保された居場所」なのか。

こうした実態とニーズを、調査やヒアリングで把握することが出発点になります。

② 関係者が顔を合わせる場の設定

  • 校長会

  • 教職員組合

  • 学童・放課後児童クラブ

  • PTA・保護者代表

  • 学校運営協議会や学校評議員

  • 地域の見守り団体

など、関係者が同じテーブルにつき、

「何を学校が担い、何を学校以外が担うのか」

をすり合わせる場をあらかじめ設けておくことが重要です。

③ 国の指針と先行事例の参照

  • 文科省の業務量管理指針や教員勤務実態調査で示されている、働き方改革の方向性。

  • 三鷹市・松戸市などの「朝の見守り事業」の設計や運用上の工夫。

こうした知見を踏まえたうえで、自分の自治体の条件に合う形にアレンジしていくことが、結果的に安全性と説得力を高めます。

④ 制度設計を「セット」で示す

  • 対象児童と利用方法(登録制かどうか)

  • 利用時間帯と場所

  • 見守り体制(人員数・配置場所・研修)

  • 緊急時対応の流れ

  • 責任の所在

  • 教員の勤務時間との関係

これらをセットで示したうえで意見を求めると、「時間の前倒し」という単純な話ではなく、「一つの施策」として検討しやすくなります。

⑤ 議事録と説明責任

  • 会議の開催日時・出席者・議論の概要・決定事項を記録し、必要に応じて公表する。

  • 「丁寧に協議した」と説明する場合、その根拠となる記録を残しておく。

これは、特定の自治体や個人を責めるためではなく、「後から振り返り、必要があれば修正するため」に不可欠な条件だと言えます。


8.おわりに──高崎市だけの問題ではないからこそ

高崎市の「朝7時開門」は、一部の家庭にとっては確かに助かる側面があります。
同時に、決定プロセスや制度設計の面では、いくつかの課題が浮かび上がっています。

ここで問題にしたいのは、誰か一人の善悪ではありません。

  • 子どもの安全

  • 保護者の就労

  • 教員の健康と働き方

  • 地域の支え合い

こうしたテーマが重なる時代に、

どのような手順で、誰と、何を共有しながら物事を決めていくのか

という、「決め方」そのものです。

高崎市のケースは、特別な例というよりも、どの自治体でも起こりうる「決め方の癖」が表面化した一例としても受け取れます。

自分の地域で同じような話が持ち上がったとき、

  • 実態は押さえられているか

  • 関係者が十分に参加できているか

  • 国の指針や他自治体の知見を踏まえているか

  • 議論の記録が残っているか

といった観点で、静かにチェックしていくことが求められます。

いま、怒りや疲れを抱えながらこの記事を読んでいる先生方にとって、
この整理が、「おかしい」と感じたときに声を上げるための、静かな支えのひとつになれば幸いです。


引用元一覧(参考文献・資料)

※本記事は、2025年12月3日時点で公開されている以下の資料・報道をもとに構成しています。URLは紙幅の都合で省略していますが、タイトル名で検索することでたどることができます。

  1. 高崎市「令和8年度から市内の全小学校を午前7時に開門します」デジタル広報高崎11月号(2025年8月15日更新)

  2. 日本教職員組合「小学校全校の朝の開門時間を午前7時に前倒し 群馬県高崎市、教員負担増の懸念も」(2025年11月28日)

  3. 全群馬教職員組合「高崎市 学校の早朝開放について」ほか関連ページ

  4. 全群馬教職員組合「公文書の取消し!?」(2025年11月21日)

  5. 朝日新聞デジタル「小学校の早朝開門、トラブルは教員でなく校務員が対応 群馬・高崎市」(2025年11月26日配信)

  6. 文部科学省「学校における働き方改革について」
     ・公立学校の教育職員の業務量の適切な管理その他教育職員の服務を監督する教育委員会が教育職員の健康及び福祉の確保を図るために講ずべき措置に関する指針(令和7年文部科学省告示第114号)
     ・教員勤務実態調査(令和4年度)

  7. 松戸市教育委員会「始業前の児童への見守り事業」に関する資料・報道

  8. 三鷹市・調布市の朝の見守り事業に関する報道

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