中学生にもわかるかも!?AIの次は世にも不思議な量子コンピュータ?パラレルワールドで同時に計算する!? 右にも左にも同時にいるゴールキーパー!?『フワッと、ふらっと、量子コンピュータと心理学』
1. 量子コンピュータの概要
量子コンピュータは、現代社会が抱える複雑な問題を解決するための新たな計算技術として注目されています。

その発展が現実のものとなれば、社会や産業構造が大きく変わる可能性を秘めています。
量子コンピュータは暗号解読や軍事技術、経済シミュレーションなどの国家的な競争力にも直結するため、アメリカ、中国、欧州各国が巨額の投資を行っています。

量子コンピュータは量子耐性暗号の必要性も含め、
各国がリーダーシップを取ろうとする分野です。
IBM、Google、Amazonなどの大手企業が量子コンピュータ技術に注力しており、産業応用が進んでいます。

ムーアの法則(半導体の性能向上)が限界に近づいている中、量子コンピュータは新たなブレークスルーの候補です。

既存のシリコンベースのコンピュータに代わる新しい計算技術として注目されています。

量子コンピュータは「量子の重ね合わせ状態」と「量子もつれ」といった量子力学の特性を利用して計算を行うため、
従来のスーパーコンピュータでは何万年もかかるような素因数分解や、
物流・交通網の経路最適化、

工場の生産ライン最適化計算を短時間で行える可能性があります。

(量子力学については以下をご参照ください)
また、量子コンピュータは、素粒子レベル、原子レベルのミクロの世界の量子力学的な現象を直接シミュレーションできます。

これにより、従来の物理モデルでは扱いにくい現象をシミュレーションすることが可能となり、
新しい電池材料や半導体の開発や分子構造のシミュレーションによる創薬の効率化などに役立てられることが期待されています。

現在一般的使われている古典的コンピュータ(以下、従来型コンピュータといいます)は、
電気信号のオン・オフだけで数を区別できる、
つまり0と1の連なりで計算する2進法で計算が行われています。
そしてどの従来型コンピュータもマクロな物質を原材料として用いていますので、
その設計は、中学校や高校で習うニュートン力学(古典力学)に従い1つの状態で計算をします。
後ほど詳しくみていきますが、
例えばサッカーのゴールキーパーは、ゴールめがけてボールが飛んできた場合、
右か左のいずれか一方にしか行くことはできません。

これが1つの状態しかとれないということです。
ですが、ミクロの物質である素粒子などの量子
(量子は、もはや私達が常識的にイメージする物質とはいえませんが)
は、
ゴールキーパーの例に例えると、
ゴールめがけてボールが飛んできた場合に、
右にも左にも同時にいるような不思議な状態を採ることができます。
(これを「重ね合わせの状態」といいます)

では、コンピュータの内部部品を極限まで小さくして原子レベルの大きさにすればどのようなこととなるのでしょうか。

(携帯型コンピュータともいえるスマホなどをみてもわかるように、実際コンピュータはどんどん小さくなってきています)
量子力学的な不確定性原理
(電子などの素粒子では、その位置と運動量の両方を同時に正確に測定することはできないという原理。
例えば、体温計で体温を測る場合、冷たい体温計に肌が触れることによって、体温が下がってしまうため、測る前の正確な体温が測定できません。
フワッとした感じではこれと似たような原理が不確定性原理です。ミクロの世界ではこれが顕著に表れてしまいます)
がはたらき、
1と0との決定が不確定となってしまい計算ができなくなる可能性があります。
(不確定性原理については以下をご参照ください)
しかし、物理学者のリチャード・ファインマンやデヴィッド・ドイッチュ(多世界解釈支持者)などは、量子力学的なミクロの世界の様々な不思議な現象を逆手に取りました。
(多世界(パラレルワールド)解釈については以下をご参照ください)
彼らは、
コンピュータの部品が量子的物体によるものであれば、
重ね合わせの状態をとるため、
0か1かだけではなく、
0と1の状態を同時にとり、その状態でそれぞれ複数の計算が並列して行えるのではないかと考えました。
量子的物体は、先の左右両方同時にいるゴールキーパーのような状態をとることができるので、

その状態でそれぞれが計算を行えるのであれば、従来型コンピュータが複数回に分けて計算していた演算を、一度でできるのではと考えたわけです。
このようなコンピュータは、量子力学の原理に従い設計されるため、「量子コンピュータ」と呼ばれます。

量子コンピュータは、量子力学の特性である「重ね合わせ」と「量子もつれ」の現象を利用します。

従来のコンピュータが0か1のビット情報を扱うのに対し、
量子ビットは0と1の「重ね合わせの状態」を持ちます。
従来型コンピュータの古典的ビットが0または1のいずれかの状態しかとることしかできないのに対して、
量子ビットは0と1の中間状態を含む無数の状態を同時にとることができます。
これにより、同時に複数の計算を行うことが可能となります。
あたかも多数の世界(パラレルワールド)の中の、それぞれの世界線で、同時に複数の計算が行われているかのような様相です。


また、量子ビットは、片方のビットの状態を観測すると、もう片方も瞬時に決まる量子もつれ(Entanglement:エンタングルメント)という状態をとることもできます。
量子もつれは、2つ以上の量子ビットが強い相関関係を持つ状態で、
この特性を利用することにより量子コンピュータは、計算の効率を劇的に高めます。

さらに量子コンピュータは、量子ビットに対して量子ゲートを適用することで計算が行われます。
従来の論理ゲート(AND、OR、NOT)とは異なり、量子ゲートは複数の状態を同時に操作できます。

量子コンピュータの理論的な起源は、1980年代にまで遡ります。
物理学者のリチャード・ファインマンは、従来のコンピュータでは量子力学的なシミュレーションが効率的に行えないことに着目し、
量子システム自体を計算のために利用する「量子コンピュータ」のアイデアを提唱しました。
その後、1985年に英国の物理学者デヴィッド・ドイッチュが量子ゲートを用いた理論モデルを提示し、現在の量子コンピュータの基礎が築かれました。
1994年にはアメリカの数学者ピーター・ショアが大きな素因数分解を効率的に行う「ショアのアルゴリズム」を発表し、従来の暗号システムに脅威を与えました。
(素因数分解の例:15=3×5)
古典的なコンピュータでは、大きな整数を素因数分解する問題は難易度が急激に高まります。
素因数分解に必要な計算量は対象となる数の桁数に対して指数関数的に増加します。
そのため、RSA暗号
(大きな素因数分解が現実的な時間内で困難であると信じられていることを安全性の根拠とした暗号の一つ)
のような、
公開鍵暗号は、素因数分解の計算的困難性を安全性の根拠にしています。
しかし、ショアのアルゴリズム (Shor's Algorithm) は、
(アルゴリズムは、問題解決のための手順や計算方法のこと)
量子コンピュータで動作する(逆に言えば従来型コンピュータでは動作しない)代表的な量子アルゴリズムの一つであり、大きな数の素因数分解を効率的に行うことができます。
ショアのアルゴリズムが量子コンピュータ上で実現すれば、RSA暗号などの、現在のインターネットセキュリティの基盤が一瞬で破られる可能性があります。
そのため、量子コンピュータに耐性のある暗号(量子耐性暗号)方式の研究が進んでいます。
重ね合わせ状態は、観測すると崩壊します。
これを波動関数の収縮あるいは波束の収縮といいます。
(波束の収縮については以下をご参照ください)
そこで量子状態(量子力学的な現象となっている状態)に何らかの情報を書き込み、
重ね合わせ状態にしておくと、
その情報を何者かが盗むと、それは観測と同じことであるので、
波束の収縮が起こり、量子状態が崩壊します。
このようにして理論上、量子コンピュータを用いたとしても解読不能となる暗号を「量子暗号」といいます。
ショアのアルゴリズムは、量子コンピュータの計算能力が従来型コンピュータをはるかに上回るということを意味する「量子超越性」の象徴的な例です。
これにより、量子コンピュータへの関心が高まりました。
2000年代以降、IBM、Google、D-Wave、Rigetti Computingなどの企業が量子コンピュータのハードウェア開発を進め、2020年代には商業利用の可能性も見えてきたといわれています。
2. 量子コンピュータの実用化を遅らせる波束の収縮
重ね合わせ状態は、観測すると崩壊します。
たとえると以下のような現象です。
A子さんの恋人であるサッカー選手であるB夫さんが、無人のサッカースタジアムでたった1人で練習をしているとします。


A子さんは、B夫さんを迎えにそのスタジアムに向かうことにしました。

しかし、A子さんがスタジアムの中に入ってその様子を見る(観測する)までは、
B夫さん(ここではこのB夫さんを量子にたとえます)は、

スタジアムのそこにもかしこにもいるかのような、次のような状態(重ね合わせ状態)であるようなことが、ミクロの世界では起こりえます。


A子さんがスタジアムの中に入り、
B夫さんを見つける(観測する)までは、
B夫さんがどのような状態であるのかは、確率でしかわかりません。

そして、A子さんがスタジアムの中に入り、
B夫さんを見つける(観測する)と、
様々な可能性があったB夫さんの状態がある1つの状態に確定します。


マクロの世界では、このようなことが起きる可能性はほぼないのですが、
(この点については以下をご参照ください)
ミクロの世界では、このようなことが起きるということです。

前述したように、重ね合わせ状態は、観測すると崩壊する、
これを波束の収縮といいますが、
この波束の収縮が量子コンピュータの実用化を遅らせる原因となっています。
量子コンピュータの強みは、「0」と「1」が同時に存在する状態を利用して膨大な計算を並列で行えることです。
しかし、波束の収縮が発生すると、「0」か「1」のどちらかに決まってしまい、量子コンピュータの持つ並列計算能力が失われます。
特に問題なのは、量子ビットが「意図せずに」波束の収縮を起こしてしまうケースです。
たとえば、外部からのわずかな振動や温度変化、電磁波の影響を受けると、観測されたと同義となり、量子ビットの状態が崩れ、計算が失敗することがあります。
これも先のA子さんとB夫さんの例でたとえると、A子さんは、B夫さんの身体が準備体操で暖まり、
一番いい状態で練習している時間帯(長い付き合いなのでその時間帯はわかるとします)にスタジアムを訪れ、
B夫さんのカッコいい素敵な姿を見たいと思っていたとします。

しかし、早くB夫さんに会いたいとの気持ちが先走ったためか、意図していた時間よりも早めにスタジアムに入ってしまったとします。

そして、波束の収縮が起こり、


様々な可能性があった状態からひとつの状態に確定したのが、

まだA子さんはこないだろうと油断し、ゴール前で昼寝するB夫のだらしない姿であったとします。

上手く量子状態をコントロールすることができなかったとも言えますが、

このような現象は「デコヒーレンス(環境との相互作用による量子状態の崩壊)」と呼ばれ、
量子コンピュータが実用化される上での大きな課題となっています。
デコヒーレンス対策として、量子ビットが外部の影響を受けにくくするために、極低温(ほぼ絶対零度)に冷却する、真空環境に置く、電磁的なシールドを施すといった工夫が行われています。
現在の量子コンピュータは、ほとんどが超伝導(物質を冷やすと電気抵抗がゼロになること)技術を利用しており、極低温でしか動作しないのはこのためです。
他にも、仮に波束の収縮が起こってしまっても、計算結果を補正できるような「量子誤り訂正技術」が研究されています。
通常のコンピュータでも誤りを修正する仕組みはありますが、量子コンピュータではさらに高度な補正技術が必要となります。
また、最近の研究では、波束の収縮を完全に避けるのではなく、
むしろ計算の一部として積極的に利用できるのではないか、という発想も生まれています。
例えば、「量子ゼノン効果(Quantum Zeno Effect)」という現象を利用するなどです。
量子ゼノン効果もまた不思議な現象ですが、ある量子状態を頻繁に測定することで、その状態が変化しにくくなるという現象です。
たとえていうならば、寒い日に冷え切ったキッチンで卵の目玉焼き(蒸し焼き)を作るようなものでしょうか。

蒸し焼きする場合は、卵を割り、熱したフライパンに入れ、
大さじ2の水を入れてフタをし、弱火にして黄身が好みの固さになるまで焼いていきます。
ここで頻繁にフタを開けて「できたかな?まだかな?」を繰り返す(測定を繰り返すのと同義)と、
なかなか卵が目玉焼きに変化せず、生卵(重ね合わせ状態のたとえ)状態が維持されてしまいます。
量子ゼノン効果は、これとよく似ており、「何かを頻繁に観測し続けると、それが変化しにくくなる」 という性質を持っています。
この効果を利用すれば、波束の収縮を逆に「量子状態の安定化」に活用できます。
たとえば、エラーの影響を受けやすい量子ビットを頻繁に観測することで、本来なら不安定になってしまう状態を強制的に保持することが可能になります。
これは「量子誤り耐性技術」としても研究が進められています。
このようなアイデアがさらに発展すれば、現在の量子コンピュータの課題を克服する新たな道が開けるかもしれません。
3. 量子コンピュータの基本的な原理
では、次に量子コンピュータの基本的な原理を中学生でもわかるように(そのため厳密さに欠ける場合があります)みていきます。
普通のコンピュータでは情報を「0」と「1」の数字で表します。
この「0」か「1」の1つひとつをビットと呼びます。
例えば次のような感じです。
0 = 電気が「OFF」
1 = 電気が「ON」
もし2ビットあるなら、次の4通りの情報が扱えます。
00,01,10,11
つまり、2ビットでは最大 2×2=4通りの情報を表せます。
量子コンピュータでは、量子ビット(キュービット) と呼ばれるものを使います。
普通のビットは「0」か「1」ですが、
量子ビットは「0」と「1」の両方を同時に持つことができます。
これを、重ね合わせ(スーパー・ポジション)といいます。
数式で書くと次のようになります。

ここで、



となります。
(確率の総和は1(100%)でなければならないのですが、
例えばaが0.707,bが-0.707であるとその総和は0となってしまいます。
しかし、実際には観測されると波束の収縮が起き、a・bいずれかとなるため、その確率の総和が0となることはありません。
よって総和を1とするために確率を表す場合は、a・bを二乗すると、中学生にも理解できるようにするという趣旨のここではこのような理解でよいかと思います。
aが0.707,bが-0.707であるとすると、
それぞれを二乗すると、
a=0.707×0.707=0.499849,b=-0.707×-0.707=0.499849となり、その総和は約1(0.999698)となります)

この状態では、
量子ビットが「0」と「1」の両方を半分ずつの確率で持っています。
普通のビットだと「0」か「1」しか持てないのに対して、量子ビットは不思議なことですが、両方の状態になれます。
まず、量子ビットが「0」と「1」両方の状態になるとき、
どちらかを観測したときに出る確率を合計すると、
前述のように、100%(1.0)になる必要があります。
つまり、

この式は「確率の合計は100%」というルール(ここでは、それを規格化といいます)を表しています。
「0」と「1」がちょうど半分ずつの確率(50%(0.5))で出るという場合は、


なので、「0」と「1」が半分ずつの確率で出る量子状態では、

となります。
なお、∣ψ⟩(プサイあるいはファイ) は、量子状態を表す記号です。
∣ψ⟩は、量子ビットが「0」や「1」だけではなく、両方の状態が重なった特別な状態になれることを表します。
このように、量子ビットでは「0」と「1」が同時に存在するという不思議な状態とすることができます。
これを数式で表す場合は以下のように書きます。

サッカーのキーパーの位置でたとえると、普通のビットではキーパーが「左」か「右」にしかいません。

しかし、量子ビットではキーパーが左にも右にも同時にいるような不思議な状態を採ることができ、

キーパーがどこにいるのか決まっていない状態が、∣ψ⟩ のイメージです。
今一度、以下を見てみましょう。

この場合の、

を、「始状態」といい、

を、「終状態」といいます。
量子コンピュータで計算を行うということは、元の量子状態を変化させることをいい、
計算前の状態が「始状態」であり、計算後の状態が「終状態」ということになります。
なお、2つの量子ビット・❘0〉・❘1〉がある場合は、
❘00〉
❘01〉
❘10〉
❘11〉
のような状態をとることができます。
従来型コンピュータで使われる古典ビットの場合は、この4つの状態の中から1つを確定しますが、
重ね合わせ状態にある量子ビットは、同時にこれら4つの状態をとります。
その重ね合わせ状態を数式で表すと以下のようになります。

普通のコンピュータなら 4回計算しなければならない情報を、量子コンピュータは1回で計算できます。
つまり、量子コンピュータは「非常に多くの計算を一気に解ける」ことが特徴となります。

このことを実感するために次のようなことを考えてみましょう。
量子ビットが、
n個のときにとれる状態数Nは、以下の式により求めることができます。

ですので、量子ビットが5個なら32個の状態を、10個なら1,024個、
30個なら1,073,741,824個の状態をとれる、
多世界(パラレルワールド)解釈的に言えば、

量子ビットが10個なら1,024の世界の世界線で同時に、
30個なら、驚くことに1,073,741,824の世界の世界線で、
同時に並列計算が行えるというようになります。

量子コンピュータには、このような驚異的な計算能力を発揮できる可能性があります。
なお、2つ以上の量子ビットが強い相関関係を持つ状態を、
「量子もつれ(Entanglement:エンタングルメント)」といいます。
片方のビットの状態を観測すると、もう片方も瞬時に決まります。
これが「量子もつれ(Entanglement:エンタングルメント)」です。
量子コンピュータではこの量子もつれの特性も利用して、計算効率をさらに劇的に高めることもできます。
また、量子コンピュータでは量子ビットに対して量子ゲートを適用することで計算が行われます。
従来の論理ゲート(AND、OR、NOT)とは異なり、量子ゲートは複数の状態を同時に操作できます。
量子コンピュータは、従来型のコンピュータでは計算が難しい複雑な問題に対して特に有効です。
量子コンピュータは、分子シミュレーションや材料開発において新しい化合物を効率的に探索できます。
例えば、バッテリー材料の開発や新薬設計に量子コンピュータの有効な活用が期待されています。

また、量子コンピュータは交通経路の最適化問題に対して、より効率的な解を提供できます。

リスク分析やポートフォリオ最適化など、複雑な計算を必要とする金融業界においても量子コンピュータの有効活用が期待できます。

さらに、量子コンピュータと人工知能(AI)の融合により、より高度なAIモデルの開発が加速する可能性があります。

ただし、量子コンピュータが全ての計算を高速にできるわけではありません。
量子コンピュータは従来型コンピュータができない(あるいは従来型コンピュータでは途方もなく時間がかかってしまう)計算を行うことができるのであって、
逆に言えば従来型コンピュータでできる計算を量子コンピュータでやると時間がかかってしまうということになります。
例えば、1+1のような計算を量子コンピュータでやると、

というように、一度に4つの状態で計算を行うため、解も4つ表れます。
そしてその中から適切でない解を消去し、残った解を2進法から10進法に変換するという手順を踏んでようやく答えを出すことができます。
このように従来型コンピュータよりも余計な操作が入り込み、
よってこのような簡単な計算については従来型コンピュータ、
つまり家庭用パソコンなどよりもはるかに遅くなってしまいます。
逆に従来型コンピュータが不得意な計算、例えば素因数分解などは、量子コンピュータであれば瞬く間に解くことができます。
1万桁の素因数分解を、従来型コンピュータであるスーパーコンピュータで解かせると100億年かかるといわれています。
(だからこそ、現在の情報セキュリティの要である公開鍵暗号方式はこのような素因数分解の特徴が利用されています)
しかし、量子コンピュータではそれを数時間で解くことができます。
(ということは、量子コンピュータが実用化されると、
現在の情報セキュリティ技術は崩壊するということになりますが、
量子コンピュータによる暗号解読への対策として、量子耐性暗号の標準化が進んでいます)
よって量子コンピュータが実用段階に入ったとしても、従来型コンピュータが使われなくなることはなく、利用分野の棲み分けが行われることでしょう。

現在、量子コンピュータはまだ初期段階にあり、完全に従来型コンピュータを置き換える段階には至っていません。
しかし、早ければ2030年代、遅くとも2050年までには実用化されるのではないかとの展望もあり、今後の技術進展が期待されています。
量子コンピュータは、これまでの情報処理の限界を超える可能性を秘めています。

今後の技術革新によって、さまざまな産業や科学技術に大きなインパクトを与えることでしょう。
そのため、引き続き量子コンピュータの技術動向に注目し、どのような場面でその恩恵を最大限に活用できるかを考えていくことが重要となってきます。
4. 量子コンピュータの心理学的な利用の可能性
脳のニューロン活動、
(脳のニューロン活動についてより詳しくお知りになりたいという場合は以下の有料noteをご参照頂ければと思います)
をシミュレーションする際、
従来型コンピュータでは膨大な時間がかかりますが、
量子コンピュータならより高速なシミュレーションが可能となり、
特定のメンタルヘルス不調に関連する脳の状態をより正確にモデル化できる可能性があります。
また、臨床心理学では、脳波データ、心拍変動、言語パターンなど多様なデータが扱われますが、
量子コンピュータを活用すれば、これらの複雑なデータからメンタルヘルス不調の兆候やパターンを早期に発見できるかもしれません。

さらに量子アニーリング技術
(量子コンピュータにより、組合せ最適化処理を高速かつ高精度に実行できると期待される計算技術)
を用いることで、最適な心理療法、カウンセリング等の組み合わせを素早く提示できる可能性があります。

また、量子コンピュータが会話中の認知パターンを即時解析し、効果的なカウンセリング法を提案することが考えられます。

その他、人間の意思決定は確率的な要素を多分に含みますが、量子コンピュータにより、複雑な意思決定モデルの解析やシミュレーションが可能となり、
心理学がベースにある行動経済学や社会心理学の分野でも、新しい洞察が期待されます。

(行動経済学については以下をご参照ください)
量子コンピュータの心理学分野への応用はまだ初期段階ですが、将来的には量子コンピュータにより革新的な研究手法や知見、発見、カウンセリング手法等が誕生する可能性があります。

5. 高度に進化した量子コンピュータは人間を、そして宇宙をシミュレーションできるか?
人間の脳は ニューロンとシナプスのネットワークで情報を処理しているとされています。
(この点についてより詳しく知りたいという場合は、以下の有料noteをご参照頂ければと思います)
そして、現在のスーパーコンピュータでも、部分的な脳のシミュレーションをすることは可能だとされています。

高度に進化した量子コンピュータ(以下、これを超量子コンピュータといいます)なら、
従来型コンピュータよりもはるかに効率的に脳のプロセスを再現できる可能性があります。
特に、脳内の神経回路の状態は量子的な影響を受けている可能性があり、
超量子コンピュータなら、より精密にシミュレーションできるかもしれません。

ロジャー・ペンローズとスチュアート・ハメロフの「量子脳理論」では、
意識は脳内の微小な量子状態に依存しているため、通常のコンピュータでは再現できないとされます。
しかし、超量子コンピュータなら、この量子状態を直接シミュレーションすることが可能かもしれません。
もし意識が単なる情報処理の結果であるならば、超量子コンピュータで脳の活動をシミュレーションすれば、
意識を持つAIが生まれる可能性があります。

(ただし、私たちの意識が計算を超えた現象なら、シミュレーションは不可能です。
つまり逆にいえばシミュレーションできないなら、「私たちの意識には計算を超えた何かがある」ことが示唆されます)
そして、ニック・ボストロムの「シミュレーション仮説」によれば、未来の文明が十分な計算資源を持てば、私たち自身がすでにシミュレーションされた存在である可能性もあります。


(シミュレーション仮説については以下をご参照ください)
仮に、超量子コンピュータが人間をシミュレーションできるとしたら、以下のようなことが考えられます。
超量子コンピュータ上で完全な意識を持つAIを生み出すことができ、そのシミュレーションされたAIが、

自分がシミュレーションの中の存在であると自身で認識できるかどうかは興味深い問題です。

また、人間の脳を超量子コンピュータで完全にシミュレーションできるなら、
意識をデジタル空間にアップロード(マインド・アップロード)して「不死」になることが可能になるかもしれません。

これが実現すると、肉体を持たずにコンピュータ上で「生きる」こと(デジタル不老不死)が可能になります。

そして、人間が完全にシミュレーションできるなら、宇宙全体もシミュレーション可能かもしれません。


そうなると、イーロン・マスク氏が確信しているという、先のシミュレーション仮説のように、すでに私達がシミュレーションの中にいる可能性も高まります。

もし、超量子コンピュータが宇宙をシミュレーションできるのであれば、
シミュレーション内で物理法則を微調整し、異なる宇宙を作り出すことができ、

その結果、「シミュレーションされた宇宙の中の住人が、さらに別の宇宙をシミュレーションする」という無限の入れ子構造が生まれる可能性があります。

また、シミュレーションの速度を上げることで、シミュレーション内の生命体にとっての「時間」は実世界の時間と異なる流れを持つかもしれず、「宇宙の歴史を短時間で再現する」ことができる可能性があります。

もし宇宙が完全にシミュレーション可能なら、宇宙そのものが何らかの計算プロセスの結果である可能性が高まり、

昨今注目されている最先端科学理論である「ホログラフィック原理」等のような、
宇宙は情報の計算によって構成されているという考え方を補強することになります。

(ホログラフィック原理については以下をご参照ください)
このような展開は、今後の量子コンピュータの進化、科学技術の発展によって新たな展開があるかもしれませんが、
以下の東京大学公式YouTubeチャンネルによると、
超量子コンピュータを成人とすると、現状の量子コンピュータは、幼稚園児ぐらいで、ここ10年以内に高校生ぐらいになればいいというような見通しのようです。
量子コンピュータの本格的な実用化はまだ先ですが、
その発展は、単なる計算技術の進歩にとどまらず、
経済・社会・哲学的な世界観まで広範囲に影響を及ぼし、
その影響が極めて大きいため、
量子コンピュータの進展を見逃すことは、未来の可能性を見逃すことに等しく、その動向に注視すべきものと思われます。
(参考文献)
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