見出し画像

第56話 通知-Notices 条項

「一般条項」に関する参考書が出版されました

平野温郞他による『ボイラープレート条項の研究 英文契約に由来する一般条項の理解と活用』という本が(株)商事法務から出ました。学界、実務界の精鋭が書いたもので、一般条項の理論的な背景などがよく分かります。用例もあります。

「通知条項」には触れられていません

でもこの本では、通知条項は実務上重要度が高いわけではない、検討課題も多くないということで取り上げられていません。

たいていの契約書に含まれているのでは?

その通りなので、検討してみましょう。

この条項の趣旨は「意思表示の方法」です。思っていることを相手に伝える方法には、理屈では口頭をはじめとして、いろいろありそうですね。

とはいえ、会社の受付に電話して「もしもし、不可抗力になったので商品の引渡は遅れます、よろしく」<ガチャン!>といって、「口頭で通告しました」と言っても、相手は困ります。また、忙しい社長に「1月15日の契約の件ですが、価格改定で来週からトンあたり $1.2 値上げします。よろしく」とメールして、「社長さんに書面でお伝えしました」というのも、やっぱり具合が悪そうです。
 
そこで、伝達方法や、送った通知がいつ有効になるか、といったことを決める規定が必要になるのです。 

では実例を見ましょう

All notices, demands or other communications required or permitted to be given or made hereunder shall be in writing and delivered personally or sent by courier or sent by registered post or sent by electronic mail to the intended recipient thereof at its address or at its email address set out below.
 
和訳:
本契約のもとで要求され、又はなしうるすべての請求、及びその他の意思表示は書面によるものとし、手渡し、又は宅配便、又は書留便、又は電子メールによって、名宛人の下記の住所、又は電子メールのアドレスにしなければならない。 

1行目は、通知を出すことが必要(’required’)な場合(たとえば、されるべき船積の「時日の通知」)もあれば、出したければ出してもよい(’permitted’)場合(たとえば「価格改定の通知」、「契約の解除通知」、「不可抗力の適用を求める通知」)もあることを意識しています。
 
この部分はもっと簡単に次のようにも書けます。

A notice or other communication under or in connection with this Agreement (a “Notice”) …

誰宛てに出すかを書くこともありますか?

通知条項の目指すところは、意思表示が相手方当事者に実際に伝わることです。
 
まず最初は会社宛とした例です。理屈ではこれで問題ないでしょう。

To Supplier at: HLC Inc.
13047 Gateway Place
San Jose, CA 95110
USA 

しかしこれでは、配達されたはいいものの、会社の中でたらい回しにされては困ると考えて、宛先に個人名を記すこともあります。

Q Media Technology Co., Ltd.
Address: No. 1 Futong East Street, Chaoyang District, Beijing, PRC.
Attn:<個人名
Phone:  …
Email: …

もっとも、個人名にすると、その人の退任、転任などのときに困ると考えて、職名や部署名にする例もあります。

Address: …
Email: …
Marked for the attention of:  Representative Officer, President and CEO

通知はいつ効力を発するとすればいいのでしょうか

通知する側からすれば「発信したときに即座に有効」となればいいですね。でも相手方としては、実際に受け取る前に有効になるのはいやです。それに出した側ですら、相手が見ているかどうか確信が持てないので、あまり実際的ではありません。
 
そこで「相手方に到達したとき」ということになるのが普通ですが、それがいつなのかを色々考えるわけです。ここでも実例を見てみましょう。 

Notices given by personal delivery, courier service, registered mail or prepaid postage shall be deemed effectively given on the date of delivery or refusal at the address specified for notices.

実際に届けられた日に効果を発するとあります。配達が遅れた場合(例えば郵便配達のストライキ)にはちょっと困ります。そこで、こんな工夫もあります。

A Notice is deemed given if sent by pre-paid recorded delivery, at 9.30 a.m. (local time of delivery address) on the second Business Day after posting it.

書留便の場合は、発送の翌日(’after’ はその日を含みません)から数えて2営業日の9時30分(目的地時刻)に送付された(到達した)ことにする、というわけです。この場合は相手方は遅配のリスクを負います。

電子メールは信頼できるのでしょうか?

現代的な課題ですね。最近の契約書から5つの例をあげておきます。 

(1) … if sent by email, within the date of such email transmission.
電子メールのときは、発信日。
 
(2)
Notice delivered by email shall be deemed effectively served on the date of receipt showed in the email system of recipients.
電子メールで送られた通知は、受領者の電子メールシステムに受領として表示された日に、送付の効果を発するものとする。
 
(3) … at the time of transmission if delivered by email.
電子メールで送られたときは、発信の時。
 
(4) Email notices are deemed effectively served when the sender’s email system confirms successful transmission.
電子メールによる通知は送付者のシステムが有効な送信を確認したときに、送付の効果を発するものとする。
 
(5) Notices sent by email shall be deemed effective upon confirmation of delivery by a “read receipt” or other such notice generated by the applicable email system.
電子メールで送られた通知は、「開封確認(“read receipt”)」、又は使われた電子メールシステムの生成するその他の配信確認の時に、送付の効果を発するものとする。 

どうでしょう? 正直なところ、これで世界中に通用するのかよく分かりません。契約上の通知という重要な行為を任せるには、電子メールは(少なくとも法律家にとっては?)まだ信頼のおけるシステムではないのかもしれませんね。

そのほかの問題

細かい契約書には、通知は到達したが相手がそれを見なかった場合;通知を送ったが相手に到着する前に気を変えて別の通知を送った場合;異なる国での祝日の扱い;ファックスの通知については、それを確認する書状を追加して要求するか、などいろんなことが書いてあります。
 
これらが無駄だということもありませんが、実務的には契約の規模に応じて、いくつかの方法を書いておくのがよいでしょう。

通知を出すに当たって気をつけることは何ですか?

実際に通知するに当たっては、ひとつの方法だけで満足せず、複数の方法で通知して、とにかく「相手方に到着すること」を第一にすべきでしょう。権利、義務に関わることは慎重にしておく方がよいからです(☚これがポイント)

いいなと思ったら応援しよう!