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国際契約英文法-イラン情勢と「不可抗力」宣言

基礎からわかる英文契約書」の第47話で「不可抗力宣言」を取り上げました。「不可抗力」は英文契約書で 'force majeure'(フォース マジュール)とよばれます。

発動された「不可抗力」条項

2026年2月末のイスラエルとアメリカによるイラン爆撃と、これに続くイランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を機として、この言葉が頻繁に新聞記事に出てくるようになりました。
 
以下に3月の日経新聞(電子版)で報道された例を見てみましょう。

7日: インドネシア石油化学の大手が「中東からのナフサ供給の制約の影響」で、販売先に向けて「国内の石化拠点について[不可抗力(フォースマジュール)]宣言」を出しました。
 
9日: インドのLNG輸入会社や都市ガス供給の会社が、「販売先への供給義務を免れる『フォースマジュール(不可抗力宣言)』を発出」しました。
 
11日: タイでも、エチレン生産企業大手が販売先への供給義務を免れる「フォースマジュール(不可抗力)」条項を宣言しました。
 
同じく11日には、シンガポールの汎用樹脂のポリオレフィンの生産会社が、顧客に「フォースマジュール(不可抗力)」宣言を通知したと明らかにしました。同社の原料調達先企業が既に不可抗力宣言をしており、原料調達が困難になっているためとのことです。
 
20日: カタール・エナジー社が「イタリア、ベルギー、韓国、中国向けの液化天然ガス(LNG)供給に関する最長5年間の長期契約について不可抗力宣言(フォースマジュール)しなければならない可能性がある」と発表しました。

いずれも不可抗力の発生を理由に、相手方との契約上の義務の履行をまぬがれることを目的としています。

キツネや熊は動物ではない!

これらの事例では契約書に「不可抗力条項」があったと思われますが、一体その条項はそんな簡単に援用できるのでしょうか。
 
英国の法律文の解釈の原則の1つに、数個の例をあげた後に「その他の事由」などと書いたときには、その範囲は数個の例に共通する種類、性質のものにとどまる、というのがあります(第1話参照)。
 
たとえば、「犬、猫、その他の動物」といえば、「その他」は犬と猫に共通する性質である、「家庭愛玩あいがん動物」に限られ、キツネや熊は含まれないのです。
 
それがどういう意味か、1つ判例を紹介します。

船を借りて運航していたAが、バングラデシュのダッカ港で積み荷の米を下ろした後に、船倉内に残ったゴミの混じった米を海洋投棄しようとして許可を申請したところ、官憲の官僚的権限行使によって18日もかかってしまいました。
 
不可抗力条項には「乗務員、設備の問題、火事、故障、座礁、海損事故による停泊、修理、塗装、そのほか本船の稼働を妨げる事由」があれば、用船料の支払いはしなくてもよい、と書かれていました。

船の借り賃は高額で一日いくらと決まっています。そこでAは、18日分は不可抗力だから払わないといったのです。

裁判所は「乗務員、設備 …」以下に列挙された事由に類するものしか認められない、として条項の適用を認めませんでした。

The Laconian Confidence号事件  [1997] 1 LR 139

ホルムズ海峡の封鎖は一体何でしょう

この判例を見ていると、新聞記事の諸事例で、契約書にどう書いてあったのかが気になるところです。もし不可抗力事由の例示に、今回の事由に直接に該当し得ることが含まれておらず、いくつかの例をあげた後に「その他契約の履行を妨げる事由」と書いてあっただけでは、不十分なこともあり得るからです。
 
不可抗力条項に書かれる代表的な事由は「天変地異…、戦争…、政府の法令…、労働争議…」などです。参考に第1話の中で紹介した非常に長い不可抗力事由の羅列の部分を再現しておきましょう。

… acts of God, floods, fire, storms, earthquakes, typhoon, tidal wave, lightning, earthquake, tempest, cyclone, hurricane, whirlwind, storm, flood, drought or lack of water, and other unusual or extreme adverse weather or environmental conditions or actions of the elements, meteorites or objects falling from aircraft or other aerial devices, the occurrence of pressure waves caused by aircraft or other aerial devices travelling at supersonic speeds or explosion, chemical or radioactive contamination or ionising radiation; industrial action, lockouts, strike, or other labor dispute; hostilities, war (whether declared or undeclared), acts of terrorism, civil disturbances, revolution, riot, looting, armed conflict, terrorism, insurrection, sabotage or the serious threat of the same; mobilization, blockade, embargo, detention, order regulations, sanctions, restrictions or acts of any government, whether de jure or de facto or any official purporting to act under authority of any such government, illegality arising from domestic or foreign laws or regulations, quarantine or custom restrictions; or unavailability of transportation, severe economic dislocation (including but not limited to the inability of the seller or the manufacturer, supplier or carriers of the products to obtain an adequate supply of oil, gas, electricity or materials with which to maintain its/their normal level of operations, excluding, however, a failure to procure normal supply of the same due to financial reasons) or the bankruptcy or insolvency of the manufacturer, supplier or carriers of the products which seriously affects the activities of the seller or the manufacturer or suppliers of the products (as the case may be) …

新聞では今回の出来事をイスラエル、アメリカ側から見て、軍事作戦、攻撃、戦闘などといっています。宣戦布告(’ declared’ )がされていないのですから、一般に承認された意味での「戦争」ではなさそうです。

革命防衛隊のした「封鎖」は何に当たるでしょう?

「…等」ではすまない

イランについてこれ以上の追求はしませんが、契約文言の書き方について考えてみます。
 
日本の契約書や、法律にはよく「…等」という言葉が出てきます。そして原則を書いておいて、個別の事象ではそのときの合理的解釈に任せる、といった運用がなされます。それはそれで機能しています。
 
しかし、英国法の契約書解釈の方法は、歴史的にもっと具体的です。当事者は明文で書いてあることだけに拘束される、という考え方だと思われます。「キツネや熊」の話はそれを象徴するものです。第51話の「完全なる条項」などもその反映でしょう。
 
ですから不可抗力条項に限らず、国際契約を書くときには「まあ、この辺で止めておきましょう」と思わずに、とにかく全部書く努力が必要です(国際契約書は長いのです。第1話)。規定の想定した効果が発揮できないことになっては大変です。


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