第51話 完全なる(?)合意条項-Entire Agreement 条項
「Entire Agreement条項(完全なる合意条項)」を取り上げてみます。
何が「完全」なのでしょう?
海外法務(「国際」法務は以前このように呼ばれていました)の仕事を始めたころのことです。’entire’ が何なのかよく分かりませんでした。ほんの数冊しかない参考書で調べると、「完全なる」とか「最終性」と訳してあるのですが、ピンときません。それなら「不完全な」合意があるの?「最終性」って?などと思っていました。
「本契約書記載事項が当事者間の合意のすべてであるという条項」とでも訳してくれれば少しは分かったかもしれません。
偽証はなやかなりし時代
その昔、英国の裁判では、裁判所の周りにうろうろしている輩に金を払って、「書いてはいないけど、実はこんな合意があった」と偽証させることが横行していたのだそうです。そこで「詐欺法1677年」という法律を作って「当事者の署名した書面に書いていないかぎり、契約違反などの訴訟はできない」ということにしました。
ところが、この法律には、その後たくさんの例外がでてきたので、原則に立ち返って「契約書がすべて」「契約書に書いていないことを持ち出すのはやめよう」ということを明記しておくことにしたのがこの条項です。(☚これがポイント)
なるほど「完全」かつ「最終的」です
この規定のおかげで、契約書の記載事項が合意の「完全な」具体的証拠であり、それ以外には何もない「最終的」なものになるというわけです。これなら納得できますね。では実例をみてみましょう。
Entire Agreement
This Agreement constitutes the entire agreement, and supersedes all other prior agreements and understandings, both written and oral, between the parties with respect to the subject matter hereof.
和訳:
完全な合意
本契約書は当事者間の完全な合意であり、書面、口頭を問わず本書の主題に関する当事者間のすべての従前の合意、及び了解事項に優先する。
契約書の書き方
契約書が長いのには色々わけがあるのですが(第1話参照)、その主な理由(の1つ)は全部書いておかないと権利、義務の主張をする際に差し支えがあるからだ、ということもこれでお分かりになったと思います。
契約書は永遠に最終的なのでしょうか?
では契約書面を作ったらそれ以後は何もできないのでしょうか。そんなことはありません。この規定は署名「前」の合意には当てはまりますが、その「以後」に新たな合意をすれば、それはそれなりの拘束力を持ちます。上の規定に「従前の(prior to)」とあるのに注目してください。
考えてみれば当たり前ですよね、人間のやることですから後日の「改善」「改良」「変更」は常にありえます。
署名式が終わった後のパーティーで、グラスをかたむけながら「ところで最初の注文はご祝儀で1割引いておきましょう」「社長、それはどうも!」ということになればその合意は有効です。
えっ?それでは意味がないではありませんか!
そのとおりです。契約書に書いていないことが大手を振って歩いてくれてはこまります。そこで「契約の修正は書面によること」という規則も作っておくのです(上の写真の例は両方を同一条項に盛り込んでいます)。そうすれば社長の思いつきを気にする必要がなくなります(詳しくは第49話をご覧ください)。
このように「完全なる合意条項」と「修正条項」は組になって、契約書面の信頼性と安定性を確保するのです。(☚これがポイント)
一般条項が段々身近なものになってきたでしょうか。
次回はこれもよく分からない「表明と保証条項」を取り上げましょう。
