第47話 不可抗力条項は発動するためにある
さて今回から General Terms and Conditions によく出てくる「決まり文句」的な条項を取り上げて、その意義と使い方などを考えてみます。
第1回目は不可抗力条項(Force Majeure Clause)です。
不可抗力(force majeure)って何でしょう?
契約法でいう「不可抗力」とは、対処することができないようなこと、予期することも、支配することも不可能なことを指す言葉です。天変地異だけでなく、戦争等も含むのが普通です。実例は第18話、第44話をご覧ください。
不可抗力のために契約の履行ができなかったときは、その当事者は不履行について責任を問われないといった効果があります。
英国法には不可抗力はありません!
もっとも英文契約書の総本山である英国の契約法にはこのような法概念はありません。「えっ!?」と思われるかもしれませんが、英国法の原則は「約束したことは何があっても守らなければならない」ということなのです。
不可抗力条項は手作り品です
もし英国法体系の中に不可抗力という概念が存在すれば、契約書に何も書かなくても不可抗力事由が起こったら、法律の与える救済が期待できます。ところが不可抗力という概念がないのです(force majeure はフランス語です)。
では台風で契約が履行できなかったらどうしたらいいのですか? この問いに答える当事者の私的な取り決めごとが「不可抗力条項」なのです。つまり、不可抗力という法概念がないので、自分たちでルールを作った、というわけなのです(第1話、30話、32話)。(☚これがポイント)
現実にそんな条項が発動されることがあるのですか?
この規定はほとんど定番商品のように大抵の契約書に挿入されます。しかし不可抗力事由が実際に宣言されたという新聞記事を見ることはあまりありません。
とはいえ2025年9月25日版の日経(電子版)にはこんなことが報道されていました。世界最大級の銅鉱山であるインドネシアのグラスベルグ鉱山で大規模な土砂流入事故が発生したため、米鉱山大手のフリーポート・マクモラン社は、現地子会社の生産量が大幅に減ることを理由に「不可抗力宣言」をした、というのです。「売りたくても売るものがないので、失礼します!」というわけです。不可抗力条項発動の典型的なケースの1つです。
不可抗力条項の宣言を検討している
まだ宣言されてはいませんが、米国によるロシア産エネルギーへの制裁強化の関係で、ロシア産LNGの購入契約を持つ欧州の会社は「不可抗力宣言」を出して、引取義務不履行の責任を逃れることを考えている、という記事がありました(2025年5月30日、11月6日)。
さらに、しばらく前になりますが、トランプ政権下で、関税を引き上げる動きが相次いだ2025年初頭には、関税によるコストの上昇分についてトヨタが「関税は不可抗力なので、(取引先と)丁寧に話し合いをしながら対応していく」といっているという記事もありました(2月12日)。
今「不可抗力条項」が注目されている!
このように不可抗力条項への関心が高まってきたようです。2025年12月22日版の日経には「経済安保、契約見直し4割」と題して、主要企業の4割が「不可抗力条項」を含む契約条項の見直しに着手しているとあります。
今や不可抗力条項は何となく入れておく 'general term' を超えて、注文設計すべき 'special term' になりつつあるのでしょうか。
