国際契約英文法-best efforts(最善の努力)、reasonable efforts(合理的な努力)とはどれくらいの努力?
'best efforts'(最善の努力)、 'reasonable efforts'(合理的な努力)を約束したら、どれくらい努力すればよいのでしょうか?
契約書に ’best efforts(時に 'best endeavours')’、’reasonable efforts’ を尽くして何かをする、という表現が出てきます。
「最善の努力」、「合理的な努力」というわけですが、そもそも権利・義務を厳格に規定しているはずの契約書の中で、これらの基準をどう解釈すればよいのでしょうか。
契約上の定義
「商業的に合理的な努力(Commercially Reasonable Efforts)」が定義されたものがありました。薬に関するライセンス契約中の規定です。
本当におおざっぱな訳ですが、商業的に合理的な努力とは
「この契約下のライセンス商品と技術的、法規制的に同様な面を有し、類似の市場、収益を目指し、同程度の開発水準にある商品の開発に、同様な資本を投じる、当事者と同様の製薬業界にある会社が、合理的にするのと同じように、契約の義務を履行することをいう」
とあります。一言で言えば「世間と同じようにすること」を要求しているのでしょう。
そして例示として、開発と商品化を目的に、適宜人的リソースを割り当てること、継続的に監督すること、目標とスケジュール管理をすること、合理的な資源配分をすること、などが書いてあります。
原文はこれです。
“Commercially Reasonable Efforts” means the performance of obligations or tasks in a manner consistent with the reasonable practices of companies in the pharmaceutical industries having similar financial resources allocated for the development and commercialization of a product having similar technical and regulatory factors and similar market potential, profit potential and strategic value, and that is at a similar stage in its development or product life cycle as the Licensed Product. Without limiting the foregoing, Commercially Reasonable Efforts requires that a Party: (i) timely assign responsibility for such development and commercialization activities to specific employees, contractors, agents, or affiliates, as applicable, who are held accountable for progress with respect to such activities, (ii) monitor such progress on an on-going basis, (iii) set and seek to achieve objectives and timelines for carrying out such development and commercialization activities, and (iv) allocate reasonable resources designed to advance progress with respect to such objectives and timelines.
もう少し例を見てみましょう
色々な程度の 'efforts' という表現は、企業買収の契約書によく出てきます。まず資産による買収です。
Each Party is responsible for using best effort to provide adequate insurance coverage for its equipment, and personnel required on-Site.
和訳:
各当事者は現場の機材、及び必要人員に関して、最善の努力をもって適切な保険を付する責任を有する。
資産の保全のために保険をかけることは、やればできることなのですから、これはほとんど義務といって良いかもしれません。
次は株式による買収の例です。
The Purchaser shall use its reasonable best efforts to obtain all consents, approvals or actions of the Antitrust Authority which are required to satisfy the Antitrust Condition as soon as possible.
和訳:
買主は反トラスト条件を充足するに要する反トラスト法当局のすべての同意、承認、及び手続きを、合理的な最善の努力をもって取得しなければならない。
同意などを与えるのは当局です。買主は同意を取得することの保証はできません。しかし、取得のためにどんな作業をすればよいのかは、調べれば分かることです。ですから申請作業を怠れば義務に違反したことになると言えそうです。
雇用契約ではどうでしょう。
The Executive shall use his best efforts to promote the interests of the Company.
和訳:
役員は最善の努力をして会社の利益を追求しなければならない。
この場合は何をすれば「追求」したことになるかは、具体的には指摘
しにくいかもしれません。
次の例は、商品の共同開発などを目的とした契約書です。
Joint Development
Each party agrees to use commercially reasonable efforts to interact on a regular basis.
和訳:
共同開発
各当事者は定期的にやり取りすべく、商業的に合理的な努力をもってすることに合意する。
ここでは「商業的」とありますので、経費を全く無視することまでは要求されない程度の間隔で共同作業をするということになるでしょう。月に1回なのか、毎週なのかは分かりません。実際に契約が動き出せば、技術陣のあいだで適当に決まるのでしょう。
最後にちょっと毛色の異なる例をあげておきます。これはある一般条項が「無効、違法、非合法」などと判断された場合に、契約を救うために、契約の目的に沿った条項と置き換えよう、という規定です(詳しくは「基礎からわかる英文契約書」 第54話 分離可能―Severability 条項をご覧ください)。
Severability. If any one or more of the provisions contained in this Agreement is held invalid … The Parties shall … use their best efforts to replace the invalid … provision(s) with valid … provision(s) that, insofar as practical, implement the purposes of this Agreement.
和訳:
分離可能性。もし本契約の一ないしそれ以上の条項が無効…とされた場合は…。当事者は、現実的な限り、その条項を本契約の目的を遂げるような、有効な条項と置き換えるよう最善の努力をしなければならない。
「言うは易く」の難題です。一所懸命やってできなくても、責任を問うことは難しいのではないでしょうか。
うぅん、よく分からないのですが?
その通りです。率直に言えば、契約書上の義務(の程度)を述べたものとしては、'efforts' の内容は曖昧なのです。
さらに「最善」か「合理的」かを問わず「努力をしたかどうか」が問題になるときというのは、当事者の関係が悪くなっているときです。そういうときはどうしたって両者の解釈は異なるのです。(☚これがポイント)
それにしても、何か手がかりはないのでしょうか
法律に「最善の努力とは…をいう」という規定があるというのは考えにくいですが、多少の判例は存在します。
英国法の下では ’best efforts’ は、ほとんど義務に近い責任を負うとされています。たとえば当局の許可を取ることを引き受けたら、不本意であっても訴訟までしなければ、最善の努力を尽くしたことにはならない、といわれています。一方 ’reasonable efforts’ は、そこまでを要求するものではありません。
アメリカ法の下では ’best efforts’ と ’reasonable efforts’ の間にそれほどの程度の差はないようです。
要するにどう行動すればよいのでしょうか?
その疑問に応えられれば本稿の名声は飛躍的に上がるのでしょうが、残念ながらそれは無理です。そもそも抽象的な基準であることに加えて、準拠法によっても程度は異なります。また自分が追求する側か、される側かによっても違うからです。(☚これがポイント)
これらの句が契約書中に入れられる経過
このことは、努力条項がどのような過程を経て契約書に入ってくるか、を考えれば分かっていただけるかもしれません。
契約書の交渉過程で、一方当事者が絶対的な義務を負わせようとし、相手方がそれを拒否したとします。そうして行き詰まったときに、打開策として「では ’best efforts’ で」、「いや、’reasonable efforts’ ぐらいなら何とか」という形でこの句が登場してきます。
100% 義務でもなければ 0% でもない、というわけですから、わざと曖昧にしたようなものなのです。(☚これがポイント)
思い切ってまとめてみると
一般的な指標として言うならば、次のような「感じ」でしょうか。
・これは契約条項だから、契約したときに当事者が思ってもいなかったこ
とまでは期待されないのではないか。
・’best efforts’ 条件で、そうすることが可能な事柄を 引き受けたときは、そ
れなりの責任を負ったと思っておく方がよい。
・’reasonable efforts’ 条件で約束したのなら、真摯に、合理的に、忠実に努
力をすれば、責任を果たしたことになるだろう。
・どうすれば ’best’ か ’reasonable’ か分からないときは、世間的な水準を参
考にすることも一案かもしれない。
