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第40話 英文契約書を実際に書くーshall? agree to? 義務を表す言葉 (2)

義務を表すのに色々な表現のどれを使ってもよいのでしょうか

前回に契約書中で「義務」を表す言葉として、’shall’ という助動詞のほかに、実際に使われているものを10いくつ紹介しました。さてこんなにたくさんある中で、どれを使えばよいのでしょうか。適当に選べばよいのでしょうか。異なった表現を併用してもよいのでしょうか。

どの1つを使わなければならない、ということはありません。しかし、いくつかを混ぜて使えばよい、というわけではありません。

同じ意味には同じ言葉

契約文作成に当たっては同じことを意味するなら、同じ表現を使わなければならないという原則があります(第27話)。(☚これがポイント)

もちろん言葉の意義は「一義的」で「明確」であることが求められます(際契約英文法ー法律文書ではどうして簡単な言葉を使わないのですか?(2)参照)。

詩や小説では、同じことを表すにも色々風合いの異なる言葉を使うのがよいとされています。余談ですが、ときにはわざと曖昧な言葉を使うこともあるぐらいです。

これに対して、一般に法律の世界では「異なる言葉には異なる意味がある」と考えます。どういう意味でしょう。「わざわざ異なる言葉を使うからには、異なることを考えているに違いない」というのです。

そこで、同じことについては同じ言葉を使い通すのが、よい法律文書の書き方ということになります。そのようにして明確さを確保するわけです。
(☚これがポイント)

もし(あまりそんな例はありませんが)、同一文書中の「義務」に軽重、深浅、程度の違いがあるのなら、異なる言葉を使うべきです。ただしその場合はあらかじめ説明や定義をしておかなければなりません。そうでなければ差が分からないからです。

違う言葉を使うとどうなるのでしょう?

違った言葉を使ってみるとどうなるか簡単な例をあげて考えてみましょう。第36話以下で契約内容を文章にしましたが、もし次のように書き分けてあったとします。
 
The Seller shall deliver the Product.
The Buyer agrees to pay the price by TT remittance.
 
当事者がすべきことをしなかったら、契約上の義務違反です。では ’shall’ と ’agree to’ という異なる表現が使われているときには、読者はその義務に違いがあるものとして理解すべきなのでしょうか。
 
上の例のように異なる表現が使われることは、現実にもしばしばあります。でも書いた人は異なる意味を持たせることを意図していたのでしょうか。売主の「引渡義務」は重い、買主の「支払義務」はそれほどでもない、あるいはその反対と考えていたのでしょうか。
 
そんなことはまずないでしょう。「義務を負う」としか思っていないに違いありません。それなら同じ表現を使うべきだったのです。もちろん義務を表すのに ’shall’ を使わなければならないのではありません。’agree to’ でも正確な契約書は書けます。
 
もちろん違反の「効果」として相手方が何を出来るか―契約解除とか、損害賠償の請求といった救済方法―には差がありえますが、’shall’ と ’agree to’ の違いでそれを書き分けることは出来ません。

紛争の種をまかないこと

では違う言葉を使うことのどこに問題があるのでしょうか。それは一旦紛争になると人は何か自分の利益になる手がかりを探そうとするということです。自分のためになると思えば、「異なる言葉には異なる意味がある。ここでは ’shall’ と ’agree to’ は異なる義務の程度を表す。だから・・・・・・」などと主張するわけです。そんな理屈が通るかどうかは別の話ですが、契約書作成者はそんな議論の種をまいてはいけないのです。
 
同じ言葉を使い通すことが大事なのです。(☚これがポイント)

簡潔な表現

とはいえ ’shall’ は1語、’agree to’ は2語ですし、‘be under the obligation to’ にいたっては5語です。同じことを書くなら「短く簡潔な表現」を使う方が、読みやすい文章が出来ることは一目瞭然ですね。

最後に、義務の言葉ではありませんが、持って回った法律家的に見える言葉より、簡潔な言葉を使う方がよい、という一例と出典をあげておきます。

       [悪い例]                                                      [よい例]
give consideration to                                 consider
have knowledge of                                     know
have need of                                               need
make an appointment of                            appoint
make payment                                            pay
…                                                                 …             

R. ディッカーソン(松枝・飯島訳) 『英文法律文書作成の基礎』

この本はとてもよい本です。作文の参考にして下さい。

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