国際契約英文法-契約書はオーダーメードで
契約交渉ー自分の土俵で相撲を取ろう
契約条文は自分で作って提案すべきです。相手から提示されたものでも、自分に有利な「対案」を出して下さい。出来合いの条項を「コピペ」することは勧められません。これらは誰にでも適合するように見えて、実は自分には合わないからです。(☚これがポイント)
それに、交渉するときにも「気迫」がこもりません。
体裁も重要な要素です!
見栄えも大切です。説得力ある条項の配列、見やすい字体とサイズ、契約書の製本などにも配慮が必要です。内容的秩序もないうえに、見た目もさえない契約条文では絶対に勝てません。(☚これがポイント)
「交渉力」は総合技芸です。
それだけではなく、私は契約交渉では身だしなみもとても重要なことと考えていましたので(「勝負・・・」を思い出してください)、スーツやシャツをオーダーメードで作っていました[1]。着るものだって出来合いでは力が出ません。自分に合うものを身に着けていてこそ、交渉のとき背筋が伸びて、自信や説得力が湧き出るものです。
契約書は自分で積み上げて書くものです
契約書に戻りますが、その内容は自分なりに積み上げていくのが一番です(「基礎からわかる英文契約書」(以下「基礎」)第32話)。
もちろん、取引に特有な「実務条項」(品名、価格、数量などに関する条項)は、誰でも自分で書くでしょう(「基礎」第29話)。
「一般条項」についても同じなのです(「基礎」第31話)。(☚これがポイント)
なぜ一般条項はコピペしてはいけないのですか?
一般条項は、誰にでも同じように適用されるものだから「先例や書式集から適当なものをとってくればよい」と思っている人が少なからずいるようです。でもそうではありません[2]。
なぜか? 一般条項の代表と思われている「不可抗力条項」を取り上げてみましょう。どんな契約書にもあるのが当たり前のように思っていませんか?
違います! 売主として売買契約書を作るなら、入れる必要はありません。お金を払うだけの買主に、不可抗力条項の恩恵を与える必要はないからです。また、契約の種類によっては入れないことが常識である場合もあります(詳しくは「基礎」第30話)。(☚これがポイント)
他に例はありますか?
次の文は船舶を所有する「会社」と、「船の運航を依頼された当事者('the Service Provider')」との契約書の条項です。なお準拠法は英国法です。
誰にとって有利か、という観点から読み解いてみましょう。
The Service Provider shall comply with any date or time specified in this Agreement. Time is of the essence in relation to such dates and times.
和訳:
役務提供者は、本契約書に記された日時、及び履行期を遵守しなければならない。時の遵守は当該日時、及び履行期に関して重要である。
Time is of the essence 条項の隠された効果
何だか当然のことを書いてあるだけのようですが、これは会社に絶大な権利を与えるものなのです。
なぜなら、'time is of the essence' というだけの文章が、英国法下では履行期について適用されて、「履行期条項に関する違反があれば、それがどんなに小さくても、その相手方は即座に契約を解除することができる」という効果を持つからです。
つまり「期日は守るようにしましょう」などという話ではなく、「期日に遅れたら、直ちに馘にする」力を会社に与える仕掛けなのです。(☚これがポイント)
この条項がどれほど不合理な結果を生むことになり得るかを示した判例があります(「英国判例笑事典 エピソード(7)」)。
ではどうすればよいでしょうか?
この条項を提示された側からすると、小手先の細工をしても無駄です。「期日に遅れても、2、3日なら厳しいことを言わない」と改訂してください、と頼んでも誰も受け入れてはくれません。対案というものの作り様がないのです。ここでの唯一の解決策は削除を要求することです。
実務条項だけではなく、一般条項といえども、自分なりに考えてオーダーメードで対応することが一番というお話をしました。
[1] 神戸元町の「元町シャツ」。http://park1.wakwak.com/~motomachi-shirt/index.html
[2] 「一般条項」に関して、平野温郞ほかによる『ボイラープレート条項の研究 英文契約に由来する一般条項の理解と活用』(商事法務)という優れた研究書が2026年に出版されました。コピペが間違いであることは、この本にも指摘されています。
