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易相実例:15年間の引きこもり

 八純卦について説明し始めたものの、『䷀けんてん』の補足としては心許ないような気がしたため、「明朗快活ではない」という意味でネガティブな『天☰』の事例を探すことにした。


 どうすれば見つけられるかと思い悩んだ折、辿り着いたのがYouTubeである。

 動画を通じてであれば、人物の経歴を知ることができ、また対談を通して六十四卦を予想することもできるだろう。

 私はひたすら動画を視聴した。党首討論に耳を傾け、旅番組を追い、ドキュメンタリーに心を寄せながら、隈なく人間観察を行なった。

 ちなみに、私は映像を見るのが決して好きではない。全ては目の研究のためである。2倍速再生である。



私に似ている人


 ある日、一つのサムネイルが目に止まった。

 「孤独に生きよ」────それは有名な文学賞を受賞した作家の出演動画であった。文学に疎い私は彼の名を知らない。でも「孤独」という響きは、嫌いではない。

 試しに視聴してみると、彼の姿に強い既視感を覚えた。

 理屈っぽい語り口でありながら、高慢ぶることなく自らを卑下し、「あくまでも自分の意見に過ぎず、他者にとっては異なる」と相手の立場を尊重する姿勢を崩さない。

 まさに私自身の話しぶりである。そう、私もこの春、「グダグダいう女は苦手」と言われてフラれた。


 もしかすると、彼もまた私と同じ『天☰』に属するのではないか。そう直感し、彼の歩みを䷀乾為天の物語に照らし合わせてみた。



䷀乾為天の物語


初爻「濳龍勿用。」

 彼は4〜5歳の頃、父親な急逝し、母と祖父と三人で暮らしていたという。

 私もまた、3歳の時に父を事故で亡くし、母と祖母と共に生活していた。


2爻「見龍在田、利見大人。」

 大学受験に失敗した彼は、母の庇護のもと、小説を書き始めた。

 初めは文豪の作品をノートに書き写す等、筆致を身体に刻み込むことに専心したのだろう。彼は動画内で「ただ書きたいだけ」と話していたが、しっかりと行動動機を持っている方だと私は感じる。

 私も似たような境遇だ。大学中退後、「働かなくてもいい」という母の言葉に甘えながら、自らの関心の赴くままに生きる中で油絵と出会い、図書館に置かれた美術図鑑を一冊目から順に読み進めていった。


3爻「君子終日乾乾、夕惕若。厲无咎。」

 彼は団体等に所属せず、15年間引きこもって小説を書き続けた。まさに「終日乾乾」である。

 (一つ補足をしておくと、彼の作家人生として俯瞰するならば、2爻から3爻にかけての歩みは、実質的に初爻の「濳龍」に相当するのかもしれない。)

 私もまた、10年以上にわたり孤独のうちに売れぬ絵を描き、読まれぬ文章を綴り続けている。才の無い私のストーリーはここまでだ。


4爻「或躍在淵、无咎。」

 彼は新人賞に応募すべきか否か、幾度となく逡巡したに違いない。

 そうした複雑な胸中の末、思い切って応募してみる。しかし、幾度となく落選が続く。もどかしい時期である。


5爻「飛龍在天、利見大人。」

 それでも、彼は筆を折らなかった。幾度の落選を経てなお諦めず、夜ごと机に向かい、紙の上に孤独を刻み続けた。

 その執念ともいうべき精進が、ついに審査員たちの目に止まり、名誉ある賞を受けるに至ったのである。


上爻「亢龍有悔。」

 けれども、彼の心情は複雑である。受賞した作品を読んでも、記者会見の姿を見ても、「もっとこうするべきだった」等という後悔の念が拭えないのだ。


 ……こうして照合すると、彼は『天☰』に属する人物だと認めざるを得ない。

 だが、同時に他の受賞者たちもまた、同じ軌跡を辿るのではないか────その懸念はなお拭い去れないが。



第二気質について


 さらに私は、彼の「第二気質」に思いを巡らせた。


 もし彼の半生を知らず、高性能目利きマシーンにも頼らず、私の粗末な観察眼だけを頼りに彼の気質を判じろと問われれば、『雷と答えたに違いない。風采が『雷☳』の親戚に酷似しているからだ。

 もし『雷☳』であるなら、彼がしばしば苦しめられる希死念慮も合点がいく。

 以上の観点からすれば、彼の第二気質は天雷无妄むぼうと見なすのが妥当だろう。


无妄。元亨利貞、其匪正有眚、不利有攸往。

「无妄」とは、自然に従い、虚妄(欲望や作為)を加えないことです。そのような姿勢ならば、根元から通じて吉。もし虚妄を起こせば、小さな過失が起きるので、無理に動いてはいけません。

『䷘天雷无妄』卦辞 ChatGPT


 もし彼に、易神より命じられた役目があるならば、それは自らの人生を余すところなく味わい尽くし、『天☰』の物語として世に伝えることにほかならないのではないか─────なんて、烏滸がましくも考えてしまう。



偶然か、それとも


 彼の作品についても調べてみた。評価は賛否両論に割れ、低い評点も少なくない。大衆受けしない独特の感性は、いかにも『天☰』らしい特徴といえる。

 そして、私はある一冊の単行本に辿り着いた。あらすじには、このように記されていた。


なぜ30歳を過ぎても、私は働かず母の金で酒を飲んでいるのか。それはあの目に出会ってしまったから。


 当時の彼も、目に取り憑かれていたのだろうか。



▼ その他の実例はこちら


P.S.
 彼が尊敬してやまないという、数年前に亡くなった作家の気質がわからない。高性能目利きマシーンは「四角」と判定したが、『山☶』だろうか。いや、でも『天☰』に見えなくもない……


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易eye マドモワゼル★G 孤独に研究しています。 皆様からのサポートが活動の励みとなります。応援よろしくお願いいたしします。