column:トーマス・ストレーネンのライブを観てECMについて考えた(5,000字)
トーマス・ストレーネン at 赤城神社を観てきた。

この赤坂神社は神楽坂駅から徒歩3分。神社の地下に小さなホールがある特殊なスペースだ。

ここにアコースティックのピアノがあり、天井が高いホールがある。
ライブハウスではなくて、ホール。いわゆる一段上がったステージはなく、同じ高さの床に椅子が並べられただけの会場なので、演奏者が座っていると、後ろのほうだと見えにくいのはマイナスだが、都内の地下鉄の駅を降りてすぐの場所に100人くらい入るホールがあるのはありがたい。

ここにドラム、ピアノ、ダブルベース、チェロ、ヴァイオリンの5人の編成が横並びで演奏した。
◉ ピアノに触れられそうな席から観たこと
この日、僕が座ったのはピアノの目の前の席。たまたま最前が空いていた。おそらく、角度的にヴァイオリンやチェロが間に入ってドラムが見えない位置だったので、リーダーが見えない席を多くの人が避けたのだろうが、僕は彼らを見るのは初めてではないので、ここに座った。
というか、実はもう一つ理由があった。
前回の来日公演でのライブを観ていて、ピアノの田中鮎美がすごく細やかな演奏をしていたのだが、その演奏がもっと聴きたいと思ったからだ。そもそも前回はドラムが最も見える場所に座ったので、今回はピアノが見える場所に座ってみよう、が僕の狙いでもあった。正直、最前の特定の楽器の真ん前だと音のバランスは良くないどころか、むしろ悪い。でも、今回はバランスよりもピアノをとってみようと思った。

なので、僕の視界はこんな感じ。ピアノの鍵盤まで2メートルといった感じ。
この距離で、ホールだとピアノの椅子が軋む音まで聴こえる。ペダルを踏む音も聞こえるし、ペダルを踏んだ際の床の振動もそのまま伝わってきた。なもかも聴こえてきた。
その距離で聞く田中鮎美のピアノは想像よりもはるかに繊細だった。音数は多くないが、そこで奏でる音のバリエーションがあまりに多彩だった。ほとんどがピアニッシモだったのだが、同じ音量でも様々な音色や響きがあった。それ以外にも内部奏法で弦を直接弾いたり、擦ったりもしていたし、内部の板を叩くこともあったし、弦を触ったまま鍵盤を押すこともあった。その中にはほぼ聴こえないような音量や音域のものもあった。おそらく僕がそれらの音をここままで感じられたのはこの距離だったからだし、目の前で指が鍵盤をどう押すのか・押し込むのか、内部をどう触るのかを自分の目で確認しながら、その動作の後に何かしらの音が出ることがわかっているからこそ、どんな小さな音でも聞き取ることができたと思う。この日の僕は目と耳の両方で音を拾っていた。
ここから先は
このnoteの執筆や編集の費用や通訳への支払いなどは皆さんの記事購入で賄っています。制作費用のサポートをお願いします。
