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* Column:アミ・タフ・ラの音楽とハリール・ジブラーンの宗教観(7,500字)

この記事では最初にRolling Stone Japanには掲載しきれなかった部分を載せて、その後にインタビュー記事には含むことができなかった視点についてのコラムを置く。ぜひ、Rolling Stone Japanのインタビューと併せて読んでほしい。

ちなみに僕はアミ・タフ・ラの取材する前、ライナーノーツを書きながら、ハリール・ジブラーンの日本語訳をいくつもか読んだ。その中でも神谷美恵子の翻訳の文庫がとても良かった。彼女の解説付きなのと、ジブラーンの詩の中から印象的なものを厳選してあるので、分量的にも軽いのがいい。もし興味がある方はKindleもあるので、ぜひ読んでみてほしい。

◉ interview Ami Taf Ra:ハリール・ジブラーンの移民性


ーーあなたが書いた「Gnawa」の詩はジブラーンの思想とも繋がるものですが、あなたの人生とも繋がっているのかなと思いました。例えば、あなたが放浪的な生活を行っていた経験と「人間は旅人」だと語る預言者アル=ムスタファが重ねられているようにも感じました。「Gnawa」の詩にの「ああ、この世界で、日々は過ぎ去り、我らは歩む。ああ、この世界で、日々は過ぎ去り、我らは彷徨う」なんてまさに旅人を表していますよね。いかがですか?

そう思う。「Gnawa」というのは、モロッコにおけるブラック・ミュージックのジャンルで、モロッコの黒人音楽といえばまさにこのグナワ。私の父は1960年代にヨーロッパへ最初に渡ったモロッコ人労働者のひとりで、当時多くの北アフリカ出身者やトルコからの移民たちがヨーロッパに向かっていた時代だった。その後、父は16歳だった母と結婚したから、母も一緒に旅を続けていた。彼女は当時オランダに住んでいたけれど、私が生まれたのはモロッコ。つまり、私は生まれながらにして旅をしていたようなものだった。

だから「Gnawa」という詩は、私自身のルーツへのオマージュであり、そしてヨーロッパで育ちながら見てきた「旅する人々」や「移民たち」への敬意を込めたものでもあるの。「移民」という言葉にはネガティブなイメージがつきまといがちだけど、私は彼らに敬意を払っているし、モロッコという土地も愛しているから。

ーージブラーンの詩を読んでいると、彼は旅人であることや、ある場所に住み続けるわけではないことを、すごくポジティブに語っているので、その部分はあなたにとってすごくパワフルな詩だったのではないかと思うんですけど、どうですか?

ええ、それはまさに私自身の人生そのものだったから!

私は生まれたときからモロッコとオランダを行き来していて、継父がポルトガルでビジネスをしていたから、ポルトガルにも通っていた。

18歳になってからは、ひとりで自由に旅をするようになった。アラブ音楽に惹かれた時もすぐにエジプトに渡った。カイロはアラブ音楽の中心地のようなものだから、母に「私、エジプトに行ってミュージシャンたちと会って、キャリアを始めるわ」と言って、バッグひとつで旅立った。それも18歳の時。

その後もレバノンやトルコに滞在した。私の義父はトルコ人で、腹違いの兄弟はトルコ人の血が半分流れている。その背景もあってトルコの音楽も子供の頃からたくさん聴いていた。そしてトルコで公演があったからイスタンブールに行ったんだけど、そこでは世界各地の素晴らしいミュージシャンたちに出会うことができて、イスタンブールが大好きになってしまった!もともとはたった1回公演予定だったのに、気づけば7年間も暮らしていた。現地で小さなアパートを借りて、そこを拠点としながら、さらに旅をしながら音楽を続けていた。

そしてその旅の途中で、ニューヨークのジャズクラブのジャムセッションで偶然カマシに出会った。それもすべて、旅を続けていたからこそ得られた出会いだった。

ーーなるほど。

旅するということは、誰もができる経験じゃないと思う。でも、自分のコンフォートゾーンを手放して旅に出ることができたとき、本当に美しい世界が広がる。私はいつも、アムステルダムの親しい友人たちに「思い切って来てみて。仕事なんて一度手放しても大丈夫。きっと気に入るから」って言ってる。でも、やっぱりみんな怖がってしまう。リスクを取るって、簡単なことじゃないから。それでも、覚悟だけはしておいたほうがいい。だって、旅って華やかで贅沢なものじゃない。ときにはクラッカーと水だけでしのがなきゃいけないようなことだってあるんだから(笑)。

今、私とカマシはフランスにいるけれど、すごく美しいところだから、ここに家を買うのも悪くないと思ってる(笑)私は、どこにいても「ここが私の家」と思える。私は根っから旅人なんだと思う。そして私の音楽も、そんな旅人の音楽。いろんな文化のかけらをひとつのアルバムに編み込もうとしているから。 

ーージブラーン自身も様々な場所を旅した人ですし、中東から、ヨーロッパから、アジアまで、様々な思想が自由に混ざり合っていて、それを組み立てて、独自の詩を書きました。あなたもモロッコ、北アフリカ、ヨーロッパ、アフリカ、中東の、文化が混ざっているような場所で生まれている。そんなあり方みたいなものが、今の自分の表現に繋がっているわけですね。

うん。カマシとこのプロジェクトを始めたとき、私はずっと「自分自身のアイデンティティに忠実でいたい」と思っていたし、とくにアーティストとしてのアイデンティティを大事にしたかった。このアルバムは、単なる楽曲の集合ではなく、私自身という人間そのものを表しているものだから。曲を聴いてもらえれば、カマシのルーツの影響も感じられるし、私自身の背景――たとえばクラシック音楽の要素が入っている曲もあれば、モロッコのグナワ音楽をベースにした曲もある。それは私の愛する故郷モロッコへのオマージュでもある。それに、トルコに住んでいた経験も反映されていて、歌い方の中にトルコの音楽的アプローチや発音、即興のスタイルが自然に混ざっている。

『預言者』と『狂人』というジブラーンの2冊の本からインスピレーションを受けた作品だけど、それだけじゃなくて、私自身が旅を重ねてきた人生そのものが反映された音楽になってる。もちろん、アルバムのプロデューサーであるカマシの世界観も大きく関わっていて、ふたつの異なる背景が、音楽の中で出会って融合したかたちになっている。

言ってみれば、ひとつのアルバムの中にたくさんの世界が共存しているってこと。それがこの『The Prophet and the Madman』という作品。各曲にはさまざまな文化や影響が色濃く表れている。

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