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【創作小説】峠の庵 恩返し(6)(1788文字)最終回

前回まで⬇

おかみさんは、おかみさんの手を掴んで離さない霊媒たぬきにこう言いました。

「霊媒たぬきさん、構わないですから私の手を離してください、お願いです、あなたには小僧さんがいるじゃないですか……。あなたまで、私とここから落ちてなにかあったら……小僧たぬきさんは、どうするのですか!?」

少しキツめに言いました。小僧たぬきは崖の上でこちらを見ていて、今にも泣きそうな、心細そうな顔をしています。

「いえ、離すわけにはいきません!おかみさんは、私の命の恩人のだいじな人です!」

霊媒たぬきは、渾身の力を込めて手を握り続けます。いのちの限り、諦めようとはしないつもりです。おやじさんの姿で ぐっと力を込めます。
おかみさんは、懐かしい瞳でその霊媒たぬきを見ていました。おやじさんの姿の霊媒たぬきを見ていました。
そして……

たぬきの繋いでる手の甲をギュッと力を込めておかみさんはつねると……

「ああ……!痛っ!!」

霊媒たぬきは、手を離してしまいます。
おかみさんは、真っ逆さまに深い谷底へ……

「……!!おかみさーーん!!」
「おかみさーん!」

霊媒たぬきの親子は、悲痛な叫びをあげました……





峠の庵の小さな宿では、今日も大事な客人を迎えます。
以前、ここに訪れたことのある大臣で、ここのもてなしを大層たのしみにしてやって来たのでした。

大臣は、峠の庵が近づくと懐かしい匂いがするのに気づきます。
「おお、この匂いじゃ、この匂いじゃ、あの庵のおやじの造る料理の匂いじゃ。たのしみだ、たのしみだ」
大臣は、峠の庵に着くと気がつきます。
おかみさんが、入り口で、草を摘んでます。
「おう!おかみ!!」
「はい……!」
しかし、どこか変です。
「………?ん?なんか、変だぞ?」
「なにか、変ですか?」
「い、いや……」
大臣は、おかみに荷物を預けると、おかみはいそいそと部屋へ持っていき、客間へ大臣を案内しようとします。そこへ、
「ああ、大臣さま」
庵の一番近くに居を構える、村人の「シンドウ」さんが、声を掛けてきました。
「ああ、あなたはここのお隣りの……」
「シンドウです、大臣さま、少し……よろしいでしょうか?」
おかみは、「シンドウ」に会釈をすると、客間へ荷物を持っていきます。しかし、そのおかみの姿は、……背の高さは、どう見ても以前の半分しかない。
大臣が、いぶかっていると、「シンドウ」は、おやじたちから、ずっと離れたところへ呼び出して、こう耳打ちします。

「大臣さま、……驚かないでください、……あれは、たぬき達なのです」
「………は?」
大臣が、驚きの顔をすると……、

振り向くと、台所に見えるおやじの身体には、尻尾が付いています。

「大臣さま、驚かないで聞いてください。一回まえに、大臣さまがいらしたときには、もう おやじは、病気で亡くなっていたんです。おやじに化けたたぬきがああやって……」

大臣は、すぐには飲み込めず、
「な、なに!」
「あのたぬきは、霊媒たぬきで、じつはあれにはおやじさんが取り憑いているのです!」
「で、……では!」
大臣は、庵のほうを振り返った。
「おお!なんてことだ!私は、騙されていたのか!」
「おかみさんも、この間 崖から落ちて 亡くなって、あの小さなおかみさんは、子だぬきに取り憑いたおかみさんなんです!」
「ううーん!」
大臣は、めまいがした。が、すぐに立ち直って、
「では、あの二人は、じつはたぬきで、おやじさんとおかみさんが取り憑いているだけだと言うのだな!?」
「はい、そうなんです。大臣さまは、流石にご理解が早い」
「ううーん」
大臣は、唸って『二人のたぬき』を見ていた。
「黙って、騙されていてくださいませ。あのたぬき達は、ほんとにおやじさん達になついていて……、あれが、恩返しのつもりなんです」
「シンドウ」は、続けた。
「ああやって、おやじさんの霊と、おかみさんの霊と、いっしょに暮らすのがしあわせそうで……、うちらも、黙って見守ってるんですよ……」

大臣は、顎に生えた髭を手で擦りながら言った。
「じつは、わしも見抜いてたんじゃ、いや、おやじの方だけだが……、一回前にここへ来たとき、しっかり尻尾が生えとったからな!」
「シンドウ」は、豆鉄砲を食らったような顔をした。
「うんうん、よいよい、皆でそっとしといてやろう!」
大臣は、朗らかに。



峠の庵では、ゆうげの仕度がなされます。
トントン、トントン、包丁の音が響きます。




            おわり


トップ画像は、るりさんの
     「おむすびおむすび」
           です。
      ありがとうございました。


©2023.6.20.山田えみこ

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