【創作小説】峠の庵 恩返し(5)(977文字)
前回まで⬇
おかみさんは崖の縁で、なんとか木の根っこに捕まり、ぶらさがっていました。でも、今にも落ちそうです。たぬき親子は 心配そうに見ています。けれど、おかみさんも年老いたおかみさんなので、長い間 持ち堪えることはできないでしょう……
「ああ、どうしたらいいんだ、……どうしたら……」
たぬきのお母さんは、おろおろするばかりです。
ただ、時間が過ぎていくだけです。
たぬきのお母さんは、意を決して崖をそろそろと降り始めました。木の根っこを伝って おかみさんの方へそろそろと向かいます。
おかみさんは、想い出していました。
霊媒師のたぬきが、突然 現れたときのことを。
敷居につまずいて動けないでいたおかみさんのところに駆け寄って救けたのは、尻尾の生えた 死んだおやじさんの姿をしたたぬきのお母さんでした。
それから、薪を割ったり、丁寧な料理が作れないでいた おかみさんの代わりに、とんとんと包丁を叩いて たぬきのお母さんは お客をもてなしてくれました。
おかみさんが、さみしく寝る夜には、となりでおやじさんの姿をしたまま鎮座し、眠りに就くまでそのままにして、居てくれるのでした。
お客さんが来るときには今日みたいに、霊媒たぬきの親子はおかみさんに付いてきて、野草や、木の実や、はたまた村人の家まで 一緒に作物を頂きに来たりするのでした。
お風呂は、小僧さんが おかみさんと一緒に入ったりして、たぬきなのに、何故か人間の小僧さんの姿のままで、きゃっきゃ言って水をはじいてはしゃぎます。
月夜の晩には、たぬきの親子は、お腹を叩いてぽんぽこ踊ります。
雨が降り、寒い日には3人身を寄せ合って。
雨があがると、野山の頂でお弁当を食べました。
たぬきの親子は、おやじさんとおかみさんが分けてくれる、まかないの残りのご飯がだいすきだった、というのです。
猟師にたぬき鍋にされそうになったところを おやじさんに救けてもらって、いつか、恩返しをしようと付いてきたのだと……
たぬきのお母さんは、よくきらきら光る瞳を輝かせていうのです。
そんなこんなが、おかみさんの脳裏を横切り、巡っていました。
たぬきのお母さんは、ようやくおかみさんに手が届きそうです。
けれど、………
手は届いても、たぬきのお母さんは、どうしても力が足りず、おかみさんを助け上げるまでにはおよばないのです……
つづく
トップ画像は、しのよしのさんの、
「snap.028」
です。
ありがとうございました🍀
©2023.6.19.山田えみこ
つづき⬇
