200年間読み継がれている小説の書き方(1)
「エッセイの場合、突飛な組み合わせほど話のマクラになるでしょ?」と信じているじぃじです。正直、本作がエッセイと呼べるのかわかりませんが、今回の組み合わせはフランケンシュタインとAI。「ホラー映画の大定番キャラクターと最近よく見聞きするAIの間になんの関係があるんだ?」と思う方々も多いかと思いますが、そのあたりを解き明かして行こう!!というのが本作を書き始めた動機です。
本作は、小説『フランケンシュタイン』について、作者のメアリー・シェリーについて、それから「彼女がこの小説を何故書けたのか?」について、そして「この小説と現在ブームの生成AIとの意外な接点」について…と4つのパートでお届けします。
『フランケンシュタイン』 怪奇小説の定番キャラクターの背景にある原作のプロット
キャラクターの造形はハリウッド由来
ヘッダーは皆さんがよくご存知のフランケンシュタイン…四角い顔、つぎはぎだらけの大男…の原型です。これは1931年にアメリカで公開された、ユニバーサル映画『フランケンシュタイン』に登場する怪物です。当時、この映画が世界中で大ヒットしたおかげて、このキャラクターが広く認知され定着したと言われています。このおどろおどろしい造形は、映画のメイクを担当したジャック・ピアース(Jack Pierce)が生み出したオリジナルキャラクターなんだそうです。

ピアースは、長年私たちも親しんで来ているハリウッドの特殊メイクの草分け的存在で、ユニバーサル映画のメイクアップ部門の責任者として『フランケンシュタイン』の他、『ミイラ再生』(1932年)、『狼男』(1941年)などの映画、そしてそれらに登場するキャラクターの続編で使われた象徴的なメイクのデザインと創作に貢献した人物として知られています。
映画脚本は英国の舞台演劇から
この映画、実は当時英国で公演されていた演劇『フランケンシュタイン』の映画化権を取得して制作されました。なので、この演劇で使われたペギー・ウェブリングの脚本が元になったようです。

原作では怪物を造った科学者の名前だったはずのフランケンシュタインが、いつの間にか怪物の名前にもなったのも彼女の脚本のせいです。
英国では定番の舞台演目だった『フランケンシュタイン』
実は『フランケンシュタイン』は映画版が登場するより100年以上も前から舞台演目として大衆に親しまれていました。『フランケンシュタイン』の舞台化の歴史について最も信頼されている研究者スティーヴン・アール・フォリー(Steven Earl Forry)によれば、1821年から1986年までに上演・出版された演劇作品をおよそ100本記録しています。
Dramatizations of Frankenstein, 1821-1986: A Comprehensive List
このフォリーによる包括的なカタログには、上演記録や出版情報を含む96本の演劇作品が掲載されており、その中には前述のペギー・ウェブリングによって書かれた舞台『Frankenstein』も含まれています。
このように『フランケンシュタイン』が人気の舞台演目だったのは、やはりクリーチャー(怪物)という(それまでには無かった)ユニークなキャラクターが登場するからで、舞台では大衆演劇の演出的な慣例に沿って、原作の哲学的な側面は抑え、メロドラマ、風刺劇(バーレスク)、果てはミュージカルに至るまで、クリーチャーのユニークなキャラクターを生かしたある種のスピンアウト作品的な内容でした。そもそもクリーチャーが登場した最初の舞台演劇は 1823 年の、リチャード・ブリンズリー・ピーク(Richard Brinsley Peake)による『Presumption; or, the Fate of Frankenstein』(思い上がり、あるいはフランケンシュタインの運命)もゴシック・メロドラマに分類されているそうで、これはメアリー・シェリーの初版が刊行されてから5年後のことで、小説『フランケンシュタイン』第2版の出版と同時期になりました。(詳細の経緯は後ほど説明します)
『フランケンシュタイン』原作とそのあらすじ
このように舞台演出家にとって極めてユニークなキャラクターが登場する『フランケンシュタイン』は魅力的な原作だったようです。が、その原作、原題は『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス』(Frankenstein: or The Modern Prometheus)は、単なるホラー小説ではなく、人間の創造性、責任、そして社会からの疎外という普遍的なテーマを探求した深遠な内容です。次にWikipedia英語版に掲載されている「あらすじ」を翻訳しました。
ヴィクター・フランケンシュタインは、上流階級のジュネーヴの家に生まれ、若い頃から錬金術に取り憑かれて育ちました。成長するにつれて、彼は化学や電気などの近代科学にも関心を持つようになります。母のキャロラインが猩紅熱で亡くなると、ヴィクターは家を離れ、インゴルシュタット大学へ進学します。彼は研究の中で生命を創造する新しい方法を発見し、それを使って巨大でグロテスクな人間のようなクリーチャーを作り出します。しかし、そのクリーチャーが目を覚ますと、ヴィクターは恐怖のあまり逃げ出し、翌日戻るとその姿は消えていました。
目覚めたばかりのそのクリーチャーは逃げ出し、火を発見し、人間たちが自分を恐れることを学びます。彼は小さな家に隣接した小屋を見つけ、そこから家族を観察して暮らすようになります。その家族が外国人に言語を教えているのを見て、彼も言葉の読み書きを学びます。また、『失楽園』などの本を手に入れ、読書を通じて自らの知識を深めます。そして、インゴルシュタットから持ち出した衣服の中に入っていた書類を読むことで、自分の正体と創造主の名前を知るに至ります。
やがてその家族に自分の姿を明かすも、恐れられて追い出されてしまいます。その後、溺れかけた少女を救いますが、父親に攻撃と誤解され銃で撃たれてしまいます。人間に対して怒りを抱いた彼は、ヴィクターに会うためにジュネーヴへ向かい、道中でヴィクターの弟ウィリアムと遭遇します。ウィリアムがフランケンシュタイン家の一員であると知ると、彼を殺し、家の使用人ジャスティンに罪をなすりつけます。ヴィクターは自分の生み出した存在の仕業だと察しますが、黙っており、ジャスティンは裁判にかけられ処刑されます。
その後、ヴィクターはアルプスの氷河「メール・ド・グラス」で再びクリーチャーと遭遇します。クリーチャーは自らの体験を語り、幸せになる唯一の望みとして、女性の伴侶を作ってほしいとヴィクターに懇願します。
ヴィクターは友人のヘンリー・クレルヴァルとともにイギリスへ向かい、オークニー諸島で研究室を構えます。しかし、女性のクリーチャーが子を成す可能性を懸念し、完成間際でその体を破壊します。怒ったクリーチャーはヘンリーを殺害し、ヴィクターは精神的に崩壊して帰郷します。ジュネーヴに戻った彼は、幼なじみのエリザベス・ラヴェンザと結婚しますが、結婚初夜に彼女はクリーチャーに殺されてしまいます。数日後、ヴィクターの父アルフォンスも悲しみのあまり死去。家族をすべて失ったヴィクターは復讐を誓い、クリーチャーを追って北極へと旅立ちます。
北極の氷原でクリーチャーを追い続けたヴィクターは、疲労と低体温で命の危機に陥ります。彼は北極探検をしていたロバート・ウォルトン船長に救助され、彼にこれまでの物語を語ります。ヴィクターは探検の継続を勧めますが、乗組員たちは旅を中断して引き返すことを決めます。ヴィクターは最後までクリーチャーを追うことを誓いますが、体力尽きて船上で死亡します。
船が北極を離れると、例のクリーチャーが船に現れます。彼はヴィクターの死を悼み、ウォルトンに「自らを火葬する」と告げて去っていきます。
原作は18〜19世紀に流行したゴシック小説の形式をとりながらも、人間の感情や想像力、自然への畏敬、個人の自由を渇望するロマン主義文学の要素、さらに当時最先端だった科学的知識を基に、生命の創造という科学的な試みが描かれたSF小説の萌芽が盛り込まれた画期的な内容でした。
そして最も驚かされるのが18歳の少女が書いた小説という事実です。次回は原作者のメアリー・シェリーについて深掘りします。
「原作者メアリー・シェリー:フェミニズム批評からこぼれ落ちる史実の断片を拾い集める」▶️
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