食事に行ったら巨大な墓地だった——華人社会の時間感覚に衝撃を受けた話
先日、スランゴール州のシャーアラムからさらに離れたスティア・アラム地区にある「仙境古城」に連れて行ってもらいました。
もともとは友人に「食事に行こう」と誘われただけで、僕は遊園地か何かの一角で食事をするのだろうと軽く考えていました。
ところが、現地に到着してすぐにその認識は覆されます。
そこは、墓地だったのです。
「仙境古城」という風情ある名称で、英語では Fairy Park Setia Alam。
直訳すれば「妖精の公園」といった響きですが、この名前から墓地を想像することはまずできません。
現地に着いてまず目に入るのは、上海などで見かけるような壮大な中国風建築群です。
それも数棟ではなく、広大な敷地に何十棟も整然と並び、なおも建設が続いています。
入口からしてすでに観光地のような景観で、かつて中国・雲南省の麗江にある古鎮で見た風景を思い出しました。


しかし、そのすぐ向かいに広がっていたのは、丘一面に広がる巨大な土葬墓地でした。
広大な敷地には無数の墓碑が並び、そのスケールには圧倒されます。

敷地内はあまりにも広く、無料のバギーに乗らなければ移動できないほどです。
そして、その中に赤い柱と回廊が続く中国様式の建築群が整然と配置されています。

建物は灰色の瓦屋根と白壁を基調とし、軒先には赤い提灯が等間隔に吊るされています。柳の木が植えられ、風に揺れる枝が建物の直線的な構造に柔らかさを加えています。
写真だけを見れば、ここがマレーシアだとは到底思えません。実際、突然連れて来られれば、中国に来たかのような錯覚に陥ります。

しかし、観光地と決定的に異なるのは、その静けさです。
これらの建物はすべて納骨堂であり、一棟ごとに特定の姓の一族のために用意されています。
入口には「李氏」「劉氏」などの姓が掲げられ、その一族が未来永劫にわたって使用する空間となっています。


ここで強く感じるのは、「時間のスケールの違い」です。
家族は世代を重ねるごとに増えていきます。100年、200年という単位で見れば、子孫は何百人にもなるでしょう。
そのすべてを受け入れる前提で、あらかじめ巨大な納骨堂が設計されている。この発想は、日本人の感覚とは大きく異なります。
日本でも家系は長く続きます。たとえば僕の伊藤家も平安時代まで遡りますが、日本では一般的に、数百年先を見越して墓地を設けるという発想はあまり見られません。
将軍家や大名家のように菩提寺を持つ例はありますが、一般家庭ではそこまでの長期的設計は行われないのが普通です。
一方で、華人社会では、姓を軸とした強い結びつきが存在します。実際、今回僕は偶然にも「許氏」の集まりに参加しましたが、同じ姓を持つ人々が全国から集まり、数百人規模で会合を開くのです。
こうした姓氏団体が納骨堂を所有・運営していると考えれば、この規模にも納得がいきます。
なお、この納骨堂群は現在も拡張中で、まだ十分ではないようです。2015年から作っており、すでに5億リンギ(150億円)を投じたようです。
スランゴール州の一角に、これほどの巨大プロジェクトが進んでいるとは全く知りませんでした。

さらに驚くべきことに、この広大な墓地の一角には遊園地やプール、テニス場やバスケットボール場、ジムが併設されています。
加えて「太和殿」と呼ばれる巨大ホールもあり、ここでは各種イベントが開催されているとのことです。
工事は今は第3期目で2029年に終了。最後の工期である第4期目は2030年から5年かけて広大なレストラン街を作るとのことで、あまり壮大な建設には驚きます。


墓地の隣に遊園地などを設け、イベント施設を併設する――この発想自体が、日本人の常識を大きく超えています。
もちろん、ここは墓地である以上、火葬場や遺体安置所も完備されています。
仏教徒やキリスト教徒など、宗教ごとのニーズにも対応しており、火葬と土葬の双方が選択可能です。
この場所は単なる墓地ではなく、死後の世界と現世の生活、そして一族の未来までも含めて設計された、一種の「文化空間」と言えるのかもしれません。

最後までおつきあいありがとうございました。
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