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REV#0008 新NISAは『黒字の年』に取り崩すな。経営者・個人事業主の国保料が70万円変わる出口戦略

REV#0008|文字数: 16,700字|更新日: 2026.07.30

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「今年は正直、キツい」。工務店を営む田中さん(48歳・仮名)は、資材の値上がりと大口工事の入金遅延が重なった年、そう漏らした。事業所得はまさかのマイナス60万円。本来なら年620万円は手元に残したいのに、680万円もの不足が生まれた年だった。

そんな年に、田中さんは新NISAの資産を取り崩した。含み益が乗っていた成長株ではなく、値動きの穏やかな資産から先に、粛々と。

そして迎えた翌年。田中さんの国民健康保険料は、もし同じ680万円を「事業所得を無理に押し上げて」用意していた場合と比べて、約70万円も少なく済んだ。NISAは非課税だから、いくら取り崩しても所得としてカウントされない。赤字の年に売ったことが、翌年の負担を軽くする側に回ったのだ。

「NISAは長期・積立・分散で、含み益が乗っているものは売らずに我慢するべき」——そう思い込んでいないだろうか。実はその常識、会社員には正しくても、事業収入が年によって大きく上下する経営者・個人事業主にはそのまま当てはまらない。世の中の出口戦略の情報は「毎年資産の4%を機械的に取り崩す」という会社員向けの話ばかりで、事業の波と付き合いながら資産を育てている人向けの答えは、驚くほど見当たらないのが現状だ。

本記事では、事業収入の波を前提にした新NISAの出口戦略を、独自フレームワーク「トリプルバケット出口戦略」と、田中さんをモデルにした5年間の数値シミュレーション(下落幅を変えた感応度分析つき)で具体的に解説する。国民健康保険料の自治体別試算、業種別の応用パターン、年末にそのまま使える判定チェックリストまで、すべて具体的な金額付きで用意した。読み終える頃には、「今年は取り崩すべきか、我慢すべきか」を毎年迷わず判断できる、自分だけのルールの土台ができているはずだ。

なお本記事は、中小企業・個人事業主の税務顧問業務や、事業を営む個人向けの資産形成相談を日常的に手がける税理士・ファイナンシャルプランナーの実務知見を踏まえてレビュー・監修したうえで執筆している。特定の個人の事情に即した個別回答ではなく一般的な情報提供が目的であり、個別の税務判断・投資判断は必ずご自身の顧問税理士やファイナンシャルプランナー、自治体窓口にご確認いただきたい。

目次

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第1章 なぜ「4%ルール」は経営者に効かないのか——会社員の常識という落とし穴

田中さんのように、事業が赤字の年に資産を取り崩すという判断は、実は資産形成の「王道」からは外れているように見えるかもしれない。世の中でよく語られる出口戦略の定番は、「毎年資産の4%を取り崩せば、30年資産が尽きない」という4%ルールだからだ。

このルール、元をたどると米国トリニティ大学のクーリー、ハバード、ウォルツの3教授による論文「Retirement Savings: Choosing a Withdrawal Rate That Is Sustainable」(1998年、通称トリニティスタディ)に行き着く。1926年〜1997年のS&P500と債券の月次データを使い、株式比率の異なるポートフォリオで一定率を取り崩し続けた場合の30年間の成功率を検証したもので、4%の取り崩し率ではおおむね95%前後の成功率になるという結論が、日本でもFIRE志向の層を中心に広く引用されている。

ただ、このルールには前提が2つ隠れている。①毎年の生活費がほぼ一定であること、②その生活費を賄う他の収入源(給与)が退職後にはもうないこと。会社員がリタイア後に使う分には、この前提はおおむね成立する。

だが田中さんのような経営者・個人事業主は、そもそもの土俵が違う。

1つ目。事業を続けている限り、収入がゼロの年もあれば例年の2倍稼げる年もある。 出口戦略を考えるタイミングでも、本業からの収入という一番大きな変動要素がまだ生きている。

2つ目。黒字の年と赤字の年とでは、NISAに手を付けるべきかどうかの判断自体がまったく違う。 黒字の年に無理に取り崩す必要はないし、逆に赤字の年に「ルールだから」と我慢して事業資金や生活費を借入でまかなうのは本末転倒だ。

3つ目。そして最も見落とされがちなのが、個人事業主・経営者の税金や社会保険料は「前年の所得」を基準に計算されるという時間差の仕組みだ。 国民健康保険料(以下、タイトルにもある「国保料」も同じ意味で使う)は前年1月〜12月の所得をもとに算定され、所得税も課税所得に応じた累進課税(5%〜45%)が適用される。黒字の年に事業所得を無理に押し上げると、翌年の国民健康保険料や税負担が重くなる——これが冒頭の田中さんのエピソードの正体だ(具体的な試算は第7章で扱う)。

一方でNISA口座内の譲渡益・配当は非課税所得であり、確定申告の対象にもならない。国税庁「No.1535 NISA制度」のタックスアンサー(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1535.htm)にも、非課税口座で取得した上場株式等の配当等・譲渡益は非課税と明記されている。つまりNISAをいくら取り崩しても、その年の「合計所得金額」には影響しない、というのが一般的な理解だ(扶養控除や各種給付の所得判定への影響は個別事情によるため、最終判定は自治体・税務署・税理士に確認してほしい)。

この3つの違いを踏まえると、田中さんに——そして事業収入の波を抱えるすべての経営者・個人事業主に——必要なのは「毎年一律◯%取り崩す」という固定ルールではなく、「その年の事業収支に応じて取り崩す量を変える」という可変ルールだ。

あなたの事業は今年、黒字だろうか、それとも赤字だろうか。そしてその答え次第で、来年のNISAの取り崩し方を変えるべきだと、これまで意識したことはあっただろうか。次の章で、田中さんが実際に680万円の不足を乗り切った、そのための具体的な仕組みを紹介する。




第2章 独自メソッド「トリプルバケット出口戦略」——売る順番を先に決めておくだけでいい

田中さんが680万円の不足を慌てず乗り切れた種明かしをすると、実はこの記事オリジナルの仕組みが下敷きになっている。それが「トリプルバケット出口戦略」だ。資産運用の世界で以前から使われる「バケット戦略」という考え方に、事業収入の波という経営者特有の変数を掛け合わせたのが、この記事の独自ポイントになる。単に取り崩す順番を決めるだけでなく、事業所得の増減が翌年の国民健康保険料・税負担にそのまま跳ね返るという「時間差の仕組み」(第1章で見た3つ目の違い)まで組み込んで設計している点が、一般的なバケット戦略の解説にはない、この記事だけの掛け合わせだ。

考え方はシンプルだ。資金を性質の異なる3つの「バケツ」に分けて管理する。

  • バケツ0(生活防衛資金): NISA口座の外、銀行預金。事業用の運転資金とは別に確保する生活費6か月〜1年分の現金。相場の変動を一切受けない、最初の資金源。
  • バケツ1(安定バケット): NISA口座内、値動きの小さい資産(債券中心のバランス型ファンドなど)。直近1〜2年で取り崩す可能性がある資金の置き場所。
  • バケツ2(成長バケット): NISA口座内、株式インデックス中心。原則10年以上は手を付けない前提で置く、資産形成の主力エンジン。

取り崩しの優先順位は固定する。

不足が出たとき: バケツ0 → バケツ1 → バケツ2(最終手段)の順に取り崩す 黒字で余剰が出たとき: バケツ0の復元 → バケツ1の復元 → バケツ2への追加投資の順に資金を回す

このルールの狙いはひとつ。事業が不調な年は、往々にして景気全体も冷え込んでおり、株式相場も下がっていることが多い。そのタイミングで真っ先に成長バケットの株を売ってしまうと、値下がりした株を安値で手放し、その後の回復局面の恩恵を一切受けられなくなる。だからこそ、値動きの影響を受けない現金と、値動きが穏やかな安定バケットを「防波堤」として先に使い切り、成長バケットにはできる限り手を付けない。「赤字の年に売る」というタイトルの裏側にあるのは、実はこの防波堤の設計そのものだ。次の章で、この順番の違いがどれだけの差を生むかを、田中さんの実際の5年間の数字で見ていく。

なお、つみたて投資枠・成長投資枠という新NISAの制度上の区分と、ここでいう「安定バケット・成長バケット」というリスク性による区分は別の軸だ。どちらの枠で買った商品でも、値動きの大きさに応じてバケット1・バケット2に振り分ければよい。




第3章 工務店経営者・田中さんの5年間ドキュメント——680万円の不足をどう乗り切ったか

冒頭のエピソードには、まだ明かしていない数字がたくさん残っている。以下はモデルケースであり、実在の人物・事業ではない。市場の値動きも簡略化した仮定である前提で読んでほしい。

「まさかここまで数字が落ち込むとは思わなかった」——田中さんは3年目をそう振り返る。それでも慌てて相場を見ながら売り先を決めたわけではない。あらかじめ決めていたルール通り、現金→安定バケット→成長バケットの順に、粛々と取り崩しただけだった。その舞台裏を、モデルケースの数字で追いかけてみよう。

モデルケース設定 - 田中さん(48歳)、従業員5名の工務店を営む個人事業主 - 新NISA開始と同時に積み立てを開始し、現在の投資元本(取得額ベース)は1,200万円(生涯非課税保有限度額1,800万円のうち600万円が未使用) - 現在の資産構成: 生活防衛資金(現金)500万円/安定バケット(NISA内)400万円/成長バケット(NISA内)1,050万円 ※NISA評価額合計1,450万円(含み益250万円) - 最低手取りラインを年620万円と設定 - 市場は好調年+5%程度、不調年は▲12%程度下落、回復年は+10%前後という仮定

この▲12%という下落率は、2022年にMSCI全世界株価指数が前年末比で約17%下落した局面(日本経済新聞などの報道によれば2008年のリーマン・ショック時の約41%下落以来の下げ幅)や、2020年3月のコロナショックで日経平均株価が2020年2月12日の高値23,861円から同年3月19日の安値16,552円まで約31%急落した局面より、やや軽い「事業の不調と重なる程度の調整局面」を想定した数値だ。後段ではより深い下落(▲20%)も試算する。

5年間の事業所得(青色申告後の所得金額の目安)と過不足

  • 1年目 → 事業所得880万円 → 最低手取りライン620万円 → 過不足+260万円
  • 2年目 → 事業所得760万円 → 最低手取りライン620万円 → 過不足+140万円
  • 3年目 → 事業所得▲60万円(赤字) → 最低手取りライン620万円 → 過不足▲680万円
  • 4年目 → 事業所得340万円 → 最低手取りライン620万円 → 過不足▲280万円
  • 5年目 → 事業所得1,050万円 → 最低手取りライン620万円 → 過不足+430万円(大型受注でV字回復)

3年目は資材価格の高騰と大口工事の入金遅延が重なり、事業所得がマイナスに転落したという想定。ちょうど同じタイミングで景気全体も後退し、株式市場も軟調というシナリオにしている。事業の不調と市況の悪化が同時に来る年は、経営していれば決して珍しくない。

トリプルバケット出口戦略を適用した場合の推移(1〜3年目)

  • 1年目 → 現金(バケツ0)500万円 → 安定バケット(バケツ1)408万円 → 成長バケット(バケツ2)1,375万円 → 資産総額2,283万円 → 市場動向+5%
  • 2年目 → 現金500万円 → 安定バケット416万円 → 成長バケット1,591万円 → 資産総額2,507万円 → 市場動向+5%
  • 3年目 → 現金0万円 → 安定バケット236万円 → 成長バケット1,400万円 → 資産総額1,636万円 → 市場動向▲12%

1年目・2年目は黒字余剰(260万円、140万円)をルール通り全額成長バケットへ追加投資する。市場も+5%で推移し、2年目末には投資元本(取得額ベース)が累計1,600万円まで積み上がる。

そして迎えた3年目、680万円の資金不足。ルール通り、まず現金の生活防衛資金500万円を取り崩す。残り180万円は安定バケットから取り崩し(安定バケットは236万円が残る)、成長バケットには一切手を付けない。市場が▲12%下落したため、手を付けなかった成長バケット自体の評価額は約1,591万円から約1,400万円へ目減りするが、「安値で手放す」という最悪の事態は回避できている。

この年に売却した合計680万円分(現金500万円+NISA売却180万円)のうち、NISA部分の取得額相当については、新NISAの「枠復活」ルールにより、売却した商品の取得額分の非課税枠が翌年に復活する(具体的な影響額は第7章で試算する)。

ここまでで、3年目の680万円の資金不足を、現金と安定バケットの取り崩しだけでどうにか凌いだところまでは分かった。ただ、正直に言うと、これはまだ田中さんの5年間の物語の「前半」に過ぎない。

続きには、まだ数字にしていない部分がいくつも残っている。

  • もし田中さんが防波堤を一切用意せず、680万円をすべて成長資産から直接取り崩していたら、5年後の資産額はどこまで沈んでいたのか?
  • 3年目の下落が、もし想定より深い▲20%だったら、この結末はどう変わるのか?
  • 住む場所によって、翌年の国民健康保険料はどこまで変わるのか(東京23区モデルと大阪市モデルの差は15万円以上)?

ここから先が、この記事の本題である「具体的にいくら得をするのか」の答えになる有料エリアだ。 同じ5年間でも、取り崩す順番を間違えただけで資産に1,019万円もの差がつくシミュレーション結果、そしてタイトルにある「70万円」がどんな計算式から導かれるのか(東京23区モデル・大阪市モデルそれぞれで実額を算出)を、このあと数字を隠さずすべて公開する。加えて、年末5分でできる「出口判定8ステップ」チェックリスト、経営者がやりがちな3つの失敗の生々しい実例、よく聞かれる5つの疑問への回答も、ここから先にまとめてある。「今年は取り崩すべきか、我慢すべきか」を来年以降も感覚ではなくルールで判断したい経営者・個人事業主の方、工務店・建設業のように大型案件の入金タイミングで収支が振れやすい方、飲食店・フリーランスのように季節や単価の波と付き合っている方——特にそうした方には、田中さんの5年間が最終的にどこへ着地したのか、続きをぜひ確かめていただきたい。

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