「自分語りでいい。共感されなくてもいい」——デビュー作が話題の長瀬ほのかさんに学ぶ、エッセイのつくり方
普通の日記なら書けても、自分の日常をエッセイに仕上げるのは難しい——そう感じている方は多いのではないでしょうか。
そこで、身近なひとたちとの日常をユーモアたっぷりにつづるエッセイ『わざわざ書くほどのことだ』が人気の長瀬ほのかさんをゲストにお迎えしたトークイベントを開催!聞き手を務めるのは、ご自身も1,000本以上のnote記事を執筆し、書く習慣をつくるコツを発信し続けている、ライター・エッセイストのいしかわゆきさんです。
イベントでは日記との違いやオチのつけ方など、エッセイの書き方を深掘りしました。創作大賞2026応募予定の方にも役立つ内容が満載です。
飲みの席で話した内容を文章に起こしてみた
いしかわさん(以下、いしかわ) 長瀬さんは創作大賞2024エッセイ部門において、「古生物学者の夫」で双葉社賞を受賞され、2025年11月に初の著書『わざわざ書くほどのことだ』を刊行されました。私も拝読しましたが、とてもおもしろくて、とくに『セーラー戦士が月にかわってしまった』が気に入っています。長瀬さんはいつから、どのようなきっかけで書くようになったのですか?
長瀬さん(以下、長瀬) ずっとなにか書けたらいいなとは思っていたのですが、書ける気配が全然なくて(笑)。とりあえず書きはじめないとどうにもならないぞと、2019年ごろにnoteに登録しました。まずは自分に起きた出来事を書こうと思い、飲みの席などで話したことを文章に起こしてみる感じで書きはじめましたね。
いしかわ 書くネタは日ごろから記憶されているのですか?
長瀬 あまり覚えていられないので、メモしています。そのほとんどはつかえないものばかりですが、とりあえずメモして、そのなかでよさそうなものがあったら書きはじめるという感じです。
いしかわ 長瀬さんのエッセイは本当にギャグセンスが高いな、と思いながら拝読していますが、書きはじめたときからそういうスタイルだったんですか?
長瀬 noteをはじめたばかりのころは、自分がどういうものを書いていくのかがあまりイメージできていなかったんです。
ですがnoteをはじめて1〜2年で、エッセイを書いて初めてバズって。「めちゃくちゃ笑った」とたくさんの方に言ってもらえたので、私はこちらでいかせていただこうと思いました(笑)

エッセイと日記の違いとは?
いしかわ 事前アンケートでは「エッセイを書こうとしても日記っぽくなってしまう」という悩みを持っている方が多いようです。エッセイと日記の違いについて聞かせてください。
長瀬 日記は基本的にその日の出来事を書くものですが、エッセイは時間の流れや気持ちの動きなど、出来事とは別の流れや組み合わせがあるといいのかなと思います。あとはエッセイのほうが客観性のようなものがありますね。独白のようでいて、見えないだれかと対話しているというか。小説とは違いますが、自分というキャラクターをつかった物語のように捉えて書くとよいのではないでしょうか。
いしかわ ちょっと俯瞰して見るという感じですね。ほかにも、「説明文っぽくなってしまう」という悩みがある方もいるようです。
長瀬 説明をまったくしないとなんの話かわからないので、ある程度の説明は必要です。ただ、説明しすぎず、匂わせるのがいいかなと。たとえば「私はガサツである」と書かなくても、ガサツなエピソードが書いてあれば、そのひとがガサツであることがわかりますよね。
いしかわ たしかに。それから、第三者の話を書くときに、そのひとの気持ちをどう想像して、どこまで書けばいいのかわからないという質問もありました。
長瀬 それは想像なので、感じたことを主観で書いていいと思います。

小さな気づきもオチになる
いしかわ 書き方のお話も掘り下げていきたいと思います。まず最初に「このネタについて書こう」と決めたあとは、どのように書きはじめるんですか?
長瀬 最初に、そのネタに関連するエピソードをザーッと書き出します。そこから順番やオチを考えてから書きはじめて……。逆になにも考えずにとりあえず書きはじめることもあります。
いしかわ エッセイって、オチのつけ方が難しいですよね。私は先日、美容院で美容師さんに「傷んでるところ切りますね」と言われ、15センチも勝手に切られて悲しい思いをしたんです。でもその出来事をそのまま書いたらただの日記みたいになってしまう。こういう場合のオチのつけ方でなにか意識されていることはありますか?
長瀬 その場合でしたら、たとえば自分にとって髪はどういうものかとか、いままでの美容院の遍歴とか、過去にあった美容院での失敗とか、そういう悲しかったことやおもしろかったことをバーッと書き出してみるといいかもしれません。過去の話もつなげると、一気に日記っぽさがなくなると思います。
いしかわ なるほど。長瀬さんのエッセイは、オチの部分も練られている印象があります。伏線を回収してくるというか。いわゆる「オチどころ」では、なにか工夫していますか?
長瀬 オチってけっこういろいろあって、スカッとするようなものじゃなくても、小さな気づきだったり、ちょっとした納得感だったり、スーッと引くような感じだったり、いろいろなパターンがあると思います。一概には言えないかな、と。
自分の信じるおもしろさに「第三者の視点」を入れる
いしかわ 「おもしろくするにはどうすればいいか」という質問もたくさんきています。長瀬さんのエッセイはやっぱりクスッと笑えるじゃないですか。
長瀬 「おもしろい」って、究極の客観性だと思うんです。「誰々がこう言った」だけではたぶん笑えないですよね。それがおもしろかった理由があるはずなんです。
だから、おもしろいことがあったときに、なぜ、それがおもしろかったのかを考えるといいかもしれません。それを言うまでの間なのか、そのひとの表情なのか、それまでのふたりの関係性があったからなのか、いろいろなパターンがあると思います。自分がおもしろいと思ったことをわかってもらうためには、そこまでの前提条件が必要です。
いしかわ 普通に生きていたらそんなにおもしろいことって起きないのではとも思いますが、わざわざ書きたくなる瞬間はどんなときですか?日常のどこを切り取って書けばいいのでしょうか。
長瀬 私がおもしろいと思うポイントって、けっこう些細なことだったりするんです。ニュアンスが伝わらないとおもしろくないことほど、伝わったときにおもしろくなる。そのために、文字数をたくさんつかいますね。
いしかわ 日常のなかに些細な出来事があったとして、通常は流してしまうかもしれないけれど、長瀬さんはおもしろいと思って拾っているわけですね。ネタにする基準はなんですか?
長瀬 基準は本当に自分がおもしろいと思うかどうかですね。どんなことでも見方を変えればおもしろいので、いろいろな見方や感情で見てみると、一辺倒だった話にもちょっと深みが出ます。また、それに関連して思い出したことがあったら書き足していくと、些細なことでもネタにはなるのかなと思います。
いしかわ エッセイで笑いをとりにいくとき、読者が笑う場所はどうやって判断していますか?自分でおもしろいと思っているものが読者に刺さらないといった経験は?
長瀬 私が気づいていないだけで、スベっているところはたくさんあると思いますよ(笑)。基本は自分がおもしろいと思ったものを信じて書きますが、第三者の視点も必要ですね。たとえば飲み会でエピソードトークとして話してみるとか。話しているとけっこう比喩を思いついたりするんですよ。何回も飲み会を経るごとに、エピソードトークがすごいブラッシュアップされていくんです。これはけっこうおすすめです。
自分語りでいい。共感されなくてもいい
いしかわ エッセイは一歩間違えれば自分語りになりがちですが、そうならないために気をつけていることはありますか?
長瀬 マイナスな意味で「自分語り」と言われてしまう場合は、たぶんおもしろくないからだと思うんです。文脈に合っていないテンションで語る、必要のない説明が長いなど、読みにくいものがあるのではないでしょうか。でも私は、基本的にエッセイって自分語りでいいと思っているので、そんなに悩む必要はないんじゃないかな。 むしろ自分語りができる最高の文芸ですよ。
いしかわ では、どんどん自分語りをしていこうということで(笑)。そのほか、「感情のもう一歩先がうまく出せず、共感が得られないような気がする」という質問もきています。
長瀬 私はあまり共感してほしいと思って書いてはいないです。これは共感されないだろうなと思って書いても、「わかります」と共感されることもあるんです。自分では変かもと思っても、意外とみんな同じことを考えていたり。共感ってそんなに狙わなくてもできるので、あまり気にせず書いたほうがいいんじゃないかな、と。ただ、自分が書きたいこと、伝えたいこと、想像している頭のなかにあることをそのまま受け取ってもらうための描写はしていると思います。
いしかわ 読みやすい文章の書き方についても教えてください。
長瀬 基本的にはテンポだと思っています。読みにくい部分ってテンポが悪いことが多くて。推敲するときにテンポが悪い箇所でつまづいて、ずっと直していて先に進めないこともあります。逆に、最適なテンポが見つかると、ドーッと書けたりも。どうしてもうまく書けなかったら、テンポが悪い箇所を思い切って切ることもありますね。
アルバムのリードトラックをつくるつもりで
いしかわ 創作大賞に話を戻します。創作大賞に応募するときにやったことはなにかありますか?たとえば研究したり、分析したり。
長瀬 それはあまりしませんでした。研究対象がまだなかったんです。私は2024年に賞をいただいたんですが、エッセイ部門ができたのは2023年で、傾向と対策を練りようがないという感じでした。もちろん受賞作や企業のコメントは読みましたよ。ただ、エッセイってたぶん、おもしろければ、多少ズレていてもいいんじゃないかと思うんです。だからあまり気にしなくてもいいかもしれません。
いしかわ 創作大賞だからといって特別意識したことはありませんでしたか? いつもより気合を入れたとか。
長瀬 気合は入っていました。創作大賞は、やっぱり本になるという想定で書くことが一番大事だと思います。エッセイの場合は、自分がどんな人間なのかがわからないと、たぶん本にならないと思うので。だからといって自伝みたいになってもダメで。
たとえるなら、音楽のアルバムのリードトラックみたいなエッセイを1本書く感じです。アルバム全曲のサビを集めたような書き方だと、薄っぺらい自伝みたいになってしまうので。本になったときにどんな本になるのかな、とイメージできることが大事なのではないでしょうか。
いしかわ 最後に、今年創作大賞に応募するひとに向けてのメッセージをお願いします。
長瀬 すごい大きなネタとかウケるネタがないからエッセイ部門はやめておこうと思われる方もいるかもしれませんが、それはちょっともったいないと思います。人生は全員にあるので、そのひとにしかないものがあると思います。ぜひエッセイ部門に挑戦してみてください。

質疑応答
Q1.少し書いてみて、これでOK、あるいはNGのラインを見極めるのに難しさを感じます。推敲をどう行っていますか?自作なので、笑いを目指すと難しさがあるのではと思います。
長瀬 推敲は、何十回もします。そうすると、自分でおもしろいと思って書いたところがおもしろく思えなくなることがあります。それでちょっとおもしろい要素を足して家族に見せると、「やりすぎ」と言われたり。そういうこともあるので、1回だれかに読んでもらうといいかもしれません。
Q2.長瀬さんはメモ魔ということですが、なにに、どんなかたちでメモされているのでしょうか?
長瀬 スマホですね。スマホのメモ帳にガンガンメモしてます。時間がないときはキーワードだけ書いていますが、それだとあとからなんのことかわからなくなってしまうので、わかるように書きたいと思っています。
Q3.エッセイのなかに友人・知人・家族が出てくる場合についてです。私は相手が書かれることをどう感じるかが気になって、結局自分と犬と見知らぬ他人(道で会った親切な人)が登場するエッセイに偏ってしまいます。おふたりはどうなさっていますか?
長瀬 これは非常に難しい問題で、いつも悩むところです。私の場合は、家族のことを書いたときは「書いていい?」と聞きます。
いしかわ 私も友だちに聞きます。「今日のこと書いていい?」と。
長瀬 家族は言いやすいですが、友だちは恥ずかしいなと思って。できればあまり確認したくないなと。だからぼかして書くこともあります。「ある友人に言われた」ぐらいの書き方だったら、わざわざ聞かないかもしれません。もちろん名前を出していたり、そのひとの人生も書いている場合は、さすがに聞かないとまずいかなと思います。
でもこれは本当に難しくて、極論すると、その「道で会った親切なひと」も、もし万が一そのひとが読んだら自分だとわかってしまう可能性はゼロではないわけで。どうしたらいいんでしょうね。
いしかわ 私はフェイクを入れますよ。
長瀬 そうですね。私もフェイクを入れるときもあります。私は最終的には、もう自分が書いたんだから私が責任を持ちますという気持ちで、もし見られたとしても大丈夫なように書きます。
Q4.エッセイを書きはじめると、自分の人生をもとにしてエッセイを書く、という順番から、エッセイを書きたいがために少し変わったことをする、というように、エッセイが自分の生活を支配してしまうこともあるのかな、と思います。実際、そのようなことはあるのですか。
いしかわ 私は、なにか山場をつくろうとするかもしれません。たとえば、ただ健康診断に行くのではなく、ビルを見上げているショットを撮ってもらうとか、待合室でダラダラして、その様子を撮ってもらうとか。そういう演出はするかもしれませんね。
長瀬 生活を支配、というと、少しネガティブな言い方になってしまいますが、私はエッセイを書くようになってから、迷ったらやるようになりました。ネタになるし。無理やりなにかしてみようということはありませんが、「これ来ない?」と誘われたとき、面倒くさいからいいやと流すのではなく、ちょっと勇気を出して行ってみるとか。そういうひとになれているかもしれないです、エッセイのおかげで。だからこれに関しては、私はわりとプラスに捉えてるかもしれないですね。
※敬称略
▼イベントのくわしい内容が気になる方は、動画のアーカイブをご覧ください。
【登壇者プロフィール】
長瀬ほのかさん

1988年北海道生まれ。東京都在住。「古生物学者の夫」がnote主催の創作大賞2024エッセイ部門で双葉社賞を受賞。受賞作をはじめとするnoteの人気記事と、双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」の連載エッセイを収録した初の著書『わざわざ書くほどのことだ』を2025年11月に刊行。発売からわずか1ヶ月で重版が決まり、現在すでに5刷が決定。
note:https://note.com/nghngh X: https://x.com/nagase_h
▼長瀬ほのかさんへのインタビューもぜひご覧ください。
いしかわゆきさん

Webメディア『新R25』を経てフリーライターへ。主に取材やコラムを中心に執筆する。noteで連載していた「"書く"が好きになる文章マガジン」をきっかけに生まれた著書『書く習慣』は5万部突破。その他著書に『ポンコツなわたしで、生きていく。』『聞く習慣』『ADHD会社員、フリーランスになる。』『ゆる時間術』など。サウナと漫画とハロプロが好き。
note:https://note.com/milkprincess17 X: https://x.com/milkprincess17
創作大賞2026について
あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTALESでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。
創作大賞のスケジュール

応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59
読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金)23:59
中間発表:2026年9月上旬
最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬
text by 渡邊敏恵 photo by 平野太一
