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おもしろいは正義。「いつか物書きとして結果を出す」という根拠なき自信が現実に――長瀬ほのかさん

2024年の創作大賞エッセイ部門で双葉社賞を受賞した長瀬ほのかさん。受賞作「古生物学者の夫」を収録した初のエッセイ集『わざわざ書くほどのことだ』(双葉社)は、発売からわずか1ヶ月で重版が決まり、2026年4月時点で5刷が決定。多くの読者の手に届いています。

今回は、エッセイストとしての道を歩みはじめた長瀬さんに、応募の経緯から書籍化までの道のりをたっぷりとうかがいました。双葉社担当編集の植木陽平さんにも同席いただき、書籍誕生の舞台裏も語っていただいています。とくにエッセイ部門での受賞や書籍化を目指している方は、ぜひ参考にしてみてください!


天皇陛下の記事がバズって「自分や家族のことも書いていい」と気づいた

――創作大賞のお話をうかがう前に、まず長瀬さんのエッセイについて少し教えてください。2020年の「酒を飲み過ぎたおかげで天皇陛下からレスを頂戴した話」という記事が大きく注目を集めていましたよね?

長瀬ほのかさん(以下、長瀬) もともと、これはいろんなひとに話していたエピソードだったんですけど、ふと文章にしてみようかなと思って書いたんです。

そしたらXで投稿がバズって、そこにnoteの記事をつなげてポストしたところ、広がっていって……。ここで「(自分の作品で)はじめて笑ってもらえた」という感覚があって、そこからちょっとウケに走るようになり、いまに至るところはありますね。

――読者からの作品への反響が予想外だったとか?

長瀬 本当は「天皇陛下からレスを頂戴した」という出来事だけ書こうと思っていたんですけど、最後に母や祖母に電話するくだりを入れたんですよね。正直そこは、なくてもいいかなとも思っていたのに、意外と反響が大きくて。

それまでは家族について書こうという気持ちがあまりなかったんですけど、「自分や家族のことをもっと書いていいんだ」と、気づくきっかけになりました。

――その後、創作大賞に応募いただくようになり、2023年に2作品が中間選考を通過、2024年には受賞という流れでしたよね。創作大賞は、最初から応募しようと思っていたんですか?

長瀬 創作大賞がはじまった2022年から、コンテストの存在は知っていました。ただ、当時は部門ごとの募集ではなかったので、自分が応募することでどうにかなれそうなイメージがあまり持てませんでした。

それに、自分から応募することへの照れもあって、どちらかといえば「だれかわたしのことを見つけてくれないかな」という甘えた考えだったんです。でも一向に見つけてもらえないので、そろそろ自分から躍り出ていかなくては、と思っていて……。

ちょうど2023年にエッセイ部門が新設されて、「わたしはここに出せばいい」というのが明確にわかったので、本腰を入れてみようと。

――創作大賞2024でみごと「古生物学者の夫」が受賞となりましたが、この作品を書くに至った経緯を教えてください。

長瀬 2023年に中間選考を通過した作品は、最終的に2作とも落ちてしまいました。それが悔しかったんですよね。ちょっと次は、本気の本気でいこうと思って。

それまでは夫のことを書くことは気恥ずかしいし、夫のエピソード頼みになるのもイヤだったので、なるべく書いてこなかったんです。でもいまの自分を語るうえで、夫との関係性は外せない。むしろ、一番近くにいるひとのことを書いていないのは変なんじゃないか、と。

それで、夫との関係性から自分がどんな人間かを書くアプローチでいこうと決めました。

「本格的に書く人生になるかも」執筆のモチベーションと受賞の知らせ

――具体的に、エッセイはどのように書き進めていきましたか?

長瀬 書きはじめる前に、バーッと入れたいエピソードを箇条書きにしました。「夫のことを書く」と決めてからは、なにかエピソードが生まれたときだけでなく、昔のことでも思い出したらその都度メモ。そのなかから、最終的に書きたいものを選んでいきました。

――長瀬さんは昔からメモ以外に、日記もつけていたとうかがいました。

長瀬 そうですね。あとから読み返したら、なにかヒントになるかもと思って、けっこう前から日記もつけていたんです。エッセイになりそうなことはメモに、日々のことは日記に。結局、創作大賞への応募時点ではあまり日記はつかえなかったんですけど、のちに連載をするとなったときは、ひととおり日記やメモを遡って読んでみて、つかえそうなものを抜き出してみましたね。

――書き進めるなかで、悩むこともあったと思います。書けないときや、モチベーションの保ち方も教えてください。

長瀬 書けないときは書けないので、無理せず1回置いておきます。書けないなと、自分にイライラしながら(笑)。

あとは、序盤で止まってしまっても、最後まで一度書き切ると前に進みやすくなるので、そこだけは意識していました。

モチベーションに関しては「賞に出して、作品を読んでもらったときの反応を見たい」というものだったんですけど、そのためには当然書き終わらないと読んでもらえない。それだけを胸に、かなり粘りながらも書き終えました。

――そして創作大賞受賞の知らせが届いたときは、どんな気持ちでしたか?

長瀬 友達と昼から居酒屋で飲んでいて、ちょうど「これから自分はどうなっていくんだろう」みたいな話をしていたタイミングで、メールが届いたんです。すごくタイムリーで、もう大騒ぎで。

自分のなかでずっと、根拠もなく「いつか物書きとして結果を出すに違いない」と思っていたことが、間違いじゃなかったことがうれしかった。そう信じていても、本当にそうならないかもとどこかで感じていたので。これからけっこう本格的に書く人生になるかもしれないぞ、とも思いました。

笑顔の長瀬さん
創作大賞2024 授賞式にて(撮影:双葉社 植木さん)

双葉社にご挨拶に行った日、もう同じ船に乗っていた

――受賞が決まり、はじめて双葉社さんを訪問したときのことを教えてください。

長瀬 受賞してからご挨拶に行くまでは、正直自分だけの話というか、とにかく大喜び、みたいな状態だったんです(笑)。

でも双葉社の方々にお会いしたら、「この方たちが選んでくれたんだ」という現実が迫ってきました。自分だけの夢じゃなくて、もうすでにめちゃくちゃはじまっている。みんな同じ船に乗っている感じがしたんです。それがうれしくもあるし、不思議でもあるし、ちょっと緊張もしました。

――担当編集の植木さんとのやりとりで印象的だったことはありますか?

長瀬 お会いしてすぐに「連載をはじめて、最終的には単行本にしましょう」と言っていただいたんです。そうであってほしいと思っていたので、うれしかったですし、ほっとしました。

さらに植木さんから「長瀬さんの自己紹介になる1冊目にしましょう」「ご自身の子どもの頃の話でもいいですし、とにかく2冊目以降につながる本にしましょう」と言っていただいたことには、とても驚きました。

2冊目……?みたいな。「受賞のご褒美に1冊出させてあげますよ」じゃなくて、これからを見据えて、ちゃんと書き手として扱ってもらえたことが、すごくうれしかったです。

あと、創作大賞に応募したときから思っていたのですが、わたしは無名だからフックが必要だと感じていて、そういう意味でもアンモナイト一筋な夫の話を書いたんです。だから今回、夫もしくは夫婦の話をまとめた本を出してもらえるのかなと思っていたんですよね。でも実際はそうではなく、「わたし自身の自己紹介になる1冊」と提案いただいて、とても感動しました。

――植木さんは、長瀬さんの受賞が決まった時点でどんな方針を持っていたんでしょうか。

植木さん(以下、植木) 双葉社としては、創作大賞に参加したのは2024年が初でした。長瀬さんの作品は部内で満場一致で大賞にしようと決まり、そのあとご来社いただくにあたって、2つのことをお話ししようと。ひとつは、来年の創作大賞までに1冊本を出してイベント会場などで並べられるようにしたいこと、ふたつめは、そのために連載をお願いしたいということです。やっぱり双葉社賞を出すにあたって、「1冊だけのご縁じゃ寂しいよね」というのは社内でも共通の想いとしてあったんです。

であれば1冊目は長瀬さんがどんな方で、どんなことを感じてきたのかを書いていただきたい。そのようなオーダーで、タイトなスケジュールではありましたが、まずは連載をはじめてもらいました。

――連載はどのような形式で進められたんですか?

植木 双葉社のウェブ文芸媒体「COLORFUL:カラフル」での連載と、長瀬さんのnoteにも同じ内容をアップしていただくようにしました。

その両翼があったからか、本が出たときに「待っていました」と多くの方が言ってくださいました。創作大賞の受賞作ということで、COLORFULの読者とnoteの読者にリーチでき、書籍の認知拡大につながったと思います。

――連載のペースはかなりタイトだったようですね?

長瀬 連載が月3回あったので、ほぼ毎週締め切りがある状態です。エッセイは基本的に自由に書かせてもらったのですが、そんなに忙しくしたことがなかったので、けっこう大変でした。

――植木さんは編集するときに、どんなことを意識していましたか?

植木 エッセイって、基本的に作家自身の体験をもとに書くので「これは違いますよ」ということがほぼ発生しないんですよね。長瀬さんは毎回ちゃんとオチをつけて書いてくださるので、細かい表現の調整があるぐらいで、編集のやりとり自体はとてもスムーズでした。

極論、エッセイは少し矛盾などがあっても、本人が感じたことであれば間違いではない、すごく自由なジャンルだと改めて感じましたね。

本になるまで。加筆、書き下ろし、そして時系列を遡る構成

――連載後の書籍化についてもお話をうかがっていきます。書籍化にあたり、連載時から加筆修正をされましたか?

長瀬 けっこうしましたね。連載はその都度全力で書いてはいますが、タイトなスケジュールだったのでもう少し深めたかった部分もあって。

それに、Web媒体やnoteならあとから直せますけど、本になったら修正が効かない。緊張感がすごいあって、これでいいのかなという不安が最後まで続いていました。

著者校のゲラのお写真
付箋がぎっしり貼られた著者校のゲラ

――とくに直したなと思う作品はありますか?

長瀬 連載1本目は、わたしもまだ書き方が見定まってないところもあって、かなり直したかもしれません。半年ほど連載を続けると、自分が書きたいこともだいぶ変わるなと。

――連載もそうですし、書籍のラインナップや収録順がとてもよかったのですが、エッセイのテーマ選定はおふたりで相談して決めたんですか?

長瀬 テーマは確か、自分、家族、夫婦、うさぎの話など、偏りがないようにざっくりわけて考えていました。書籍ではテーマごとに章立てする案もあったんですけど、最終的にごちゃ混ぜの順番にしてもらいました。

――書籍には、書き下ろしが3本追加されたんですよね?

長瀬 はい。植木さんから、後日談のようなものを書き下ろしにすることがよくありますよ、と教えてもらって。1本目は連載で書いた関根という名前のうさぎとの後日談を追加しました。もう1本は最初から書こうと決めていた、夫との馴れ初めの話。残りの1本は、締め切りが差し迫るなかですごくすごく悩んで、食べることについて書いた「ごはんパズルのすゝめ」です。

――書籍の最後に旦那さんとの馴れ初めの話で締めくくられる構成は、読者にとても好評ですね!これはどのように決まったんですか?

長瀬 これは本当に植木さんのグッジョブです!(笑)。植木さんが馴れ初めの話を最後に持ってきたらいいんじゃないかと言ってくださいました。

植木 書き下ろし原稿をもらって、長瀬さんと食事をしながら収録順を相談していたんですが、最初が受賞作「古生物学者の夫」ではじまって、最後に馴れ初めで終わると、時系列を逆にたどって旦那さんとの出会いに戻っていく円環になるじゃないですか。

ぼくもよくエッセイを読みますが、最後に時系列に戻るのってカタルシスがすごくあるなと思っていたんです。読後感もいいと思って提案したら、長瀬さんもいいですねと乗ってくださったのでよかったです。

長瀬 「最後が馴れ初めの話でよかった」という感想がたくさんあって、もう植木さんのおかげです。

『わざわざ書くほどのことだ』書影写真

渾身の一本が、本になるかもしれない

――本が出版されて、いまのお気持ちはいかがですか?

長瀬 「1回でも重版する」という目標があったのですが、ありがたいことにすでに5刷です。まさかと驚きましたし、こんなにたくさんの方に読んでいただいて、本当にうれしいです。「一気に読んだ」「もったいないから毎晩少しずつ読んでいる」という感想もいただいています。

本屋のレジの前に並んでいたから試しに買ってみたとか、表紙が気になったからとか、そういう書店での偶然の出会いで手に取ってくださった方も多くて、本になるってこういうことなんだ、と実感しました。

――今後はどんな活動を予定していますか?

長瀬 双葉社さんでフードエッセイの連載が決まっていて、7月からの開始を予定しています。小説などのフィクションにも興味がありますが、まずはエッセイのお仕事をいろいろといただいているので、出がらしになるまでがんばろうと思います。

――最後に、今年の創作大賞への応募を考えている方へメッセージをお願いします。

長瀬 受賞から書籍化につながる可能性がある創作大賞は、エッセイというジャンルで、とくに貴重な機会です。エッセイでどうにかなりたいと思っている方には、合っていると思います。

エッセイはほぼカテゴリーエラーがなく、おもしろいことが正義。選ばれるのはこういうものに違いない、だとか、こういうスタイルだからどうせ選ばれないだろうとか、そういうことは考えず、創作大賞に出すという名目で渾身の1本を書いてみてください。渾身であればあるほど、結果発表までヒリヒリした時間を過ごせます。人生に張り合いが出ますので、みなさんも応募してみてはいかがでしょうか。

――本日はありがとうございました。

長瀬ほのかさん登壇イベントレポートも公開中

長瀬ほのかさんをゲストにお迎えして開催したイベント「日常を“作品”にするエッセイの書き方」のイベントレポートも、ぜひお読みください。聞き手はライター・エッセイストのいしかわゆきさん。日常をエッセイとして仕上げるコツや、書籍化までのリアルな道のりを深掘りしています。

【受賞者プロフィール】
長瀬ほのか

長瀬ほのかさんプロフィール写真

1988年北海道生まれ。東京都在住。「古生物学者の夫」がnote主催の創作大賞2024エッセイ部門で双葉社賞を受賞。受賞作をはじめとするnoteの人気記事と、双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」の連載エッセイを収録した初の著書『わざわざ書くほどのことだ』を2025年11月に刊行。発売からわずか1ヶ月で重版が決まり、現在すでに5刷が決定。
note:https://note.com/nghngh X:https://x.com/nagase_h

愉快でクセ強な人々と織りなす日常を描いた、抱腹絶倒のエッセイ集。笑いと愛おしさが詰まった1冊です。ぜひこの機会にお手に取ってみてください!

『わざわざ書くほどのことだ』(双葉社)

創作大賞2026について

あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。各部門には、34のメディアが選考に参加。大賞受賞作品には担当者がつき、雑誌・メディアへの掲載や、書籍化、連載化、映像化などを目指します。2026年7月8日(水)まで、noteもしくはTalesでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。

創作大賞のスケジュール

  • 応募受付期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月8日(水) 23:59

  • 読者応援期間:2026年4月8日(水) 11:00 〜 7月31日(金) 23:59

  • 中間発表:2026年9月上旬

  • 最終結果発表 & 授賞式:2026年11月上旬