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【イベントレポート】三宅香帆が聞く、秋谷りんこさん・青山ヱリさんの「物語のつくりかた」#創作大賞2025

小説家は、どうやって物語をつくっているのでしょうか?創作大賞2025の締切を間近に控え、過去の受賞者がどのように作品を完成させたのか、創作の舞台裏をうかがうトークイベントを開催しました。

モデレーターは、文芸評論家でさまざまな場所に引っ張りだこの三宅香帆さん。ゲストは、創作大賞で受賞した作品をきっかけに作家デビューした秋谷りんこさん・青山ヱリさんです。


創作大賞に応募したきっかけ

商業作家になりたい気持ちが強かった

三宅さん(以下、三宅) お二人は創作大賞がきっかけで小説家デビューしました。創作大賞に応募したきっかけや、ほかの賞に作品を出したことがあったのか、どのくらい前から小説を書いていたのかなどをお聞かせください。

文芸評論家の三宅香帆さん
文芸評論家 三宅香帆さん
文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動。
著書は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『「好き」を言語化する技術』など多数

秋谷さん(以下、秋谷) 私は商業作家になりたい気持ちが強かったので、それまでもいろんな公募の情報をみて、作品を出していました。創作大賞は、Web小説によくあるライトノベルに特化した公募ではないことが、私のなかでは大きなポイントでしたね。一般文芸も募集しているのが、ほかのWeb小説系の公募とは違う点だと思います。

また、協賛メディアが多いのがすごく魅力的。ふつうは、ひとつの新人賞でひとつの大賞作品が選ばれます。でも創作大賞は多くのメディアの方にみてもらえるので、「だれかの目にとまれ〜!」と念を込めて応募しました。今年は私が応募した2023年よりも協賛メディアがふえているので、どんどんチャンスが広がっていると思います。

小説家 秋谷りんこさん
小説家 秋谷りんこさん
「ナースの卯月に視えるもの」が2023年の創作大賞で「別冊文藝春秋賞」を受賞。
24年5月に同作でデビューし、3巻も発売。シリーズ累計10万部を突破

三宅 いつから公募へ出されていたんですか?また、どれくらいの期間、何作くらい書いてきましたか?

秋谷 私は2021年から公募に挑戦しはじめて、2023年に創作大賞で受賞しているので、2年くらい書いていますね。時間のかかる長編は2本、その合間にショートショートや短編を複数、公募に出しました。

なぜこんなことをしているかというと、私はつねに結果待ちの状態にしておくことで、落選しても次があると思えるんですよ。気持ちを切り替えちゃう。緊張を分散させている感じです。

三宅 創作大賞に取り組んでいるあいだも、ほかの公募に出していたんですか!ジャンルは同じですか?

秋谷 はい。創作大賞の結果待ちをしているあいだに、別の公募の結果待ちもありました。同じくノンジャンル、エンタメ、長編の作品です。

また小説に限らず、note主催のエッセイのコンテストなどにも積極的に参加しています。noteは途切れずにいろいろなコンテストを開催しているので、さまざまなジャンルに挑戦できますよね。

創作の仲間が、たのしんでもらえるように

三宅 青山さんの公募への応募経験や、創作大賞への応募のきっかけを教えてください。

青山さん(以下、青山) 私が最初に公募に応募したのは、いまから15年前で、24、5歳くらいのときです。それからは、年に一回応募するのが精一杯で、応募の時期がきたら書き、無事に出し終えると「今年もがんばったな」と思うーーそんなふうに、長く続けてきて、自分のなかでは恒例行事のようになっていましたね。

応募先は絞っていて、数年にわたって何度も挑戦していた公募が大きく2つありました。

小説家 青山ヱリさん
小説家 青山ヱリさん
2024年の創作大賞で「朝日新聞出版賞」を受賞。受賞作「大阪城は五センチ」の改稿に、新たに書き下ろしたスピンオフ作品を加えた『あなたの四月を知らないから』を2025年4月に発売

三宅 創作大賞に出したのは初めてですか?また、なぜ応募しようと思ったのでしょう?

青山 はい、初めてです。応募のきっかけは「そこに祭りがあるから」みたいなノリで。

もともと、noteのクリエイターさんが開催する私設のコンテストや企画がすごく好きで、よく参加していたんです。逆に、note公式のコンテストには参加したことがありませんでした。

その点、創作大賞は規模が大きすぎて、note公式のコンテストに応募するような意識はなかったんです。よく知る仲間も出していたし、いつもの企画に参加しているような気持ちで応募しました。

私は公募の応募歴がすごく長かったので、noteでは公募に参加するときみたいな作品づくりをしたくなかったんです。公募の場合は選考を意識した書き方をしていたのですが、それに飽和したころにnoteと出会って、こんなにたのしいところがあったんだ、とうれしくて。

創作大賞にせっかく参加するんだったら仲間がたのしんでくれるようなものを、というモチベーションで書きました。

三宅 これまでとなにが違ったのでしょう。題材とか文章の書き方とか?

青山 あえていえば、目的が違いました。もちろん公募に出すときも、だれかに読まれるために書きますが、創作大賞はもっと具体的に、顔もアイコンもお人柄も目に浮かぶ、読んでくださる方のためにという気持ちが、いままでで一番強かったかもしれないです。

作品づくりの裏側:『ナースの卯月に視えるもの』の場合

自分だけの走り書きメモから物語がはじまる

三宅 今回は作品づくりのメモをがっつり見せてもらえるそうで、まずは秋谷さんからお願いします。これって、いつ書いたメモなんですか?

秋谷さんの一番最初の創作メモ
『ナースの卯月に視えるもの』制作メモ

秋谷 これは最初に書いたメモです。まだちゃんと決まっていなくて、主人公のところもグシャグシャっと消してありますね。主人公の下に「霊感が強い」と書いてあります。

なぞの女児と書いてある女の子のイラストの左下に、患者さんに向かって「ついてる」って書いています。もともとは幽霊がみえる看護師にするつもりだったらしくて。

でも、病院、看護師、幽霊って、あまりにもベタで新規性がないなと思って、「思い残し」の設定に辿り着きました。

三宅 ベタな設定だと、どこで気がついたんですか?

秋谷 んー、さすがに病院で幽霊はベタだな、とアイデアを出しているときに気がつきました。メモには実際につかっていないアイデアがいろいろ書いてあるんです。整形外科って書いてありますが、作品ではそうではないですし。

しばらくして、「主人公は、患者が死を意識したときに現れる“思い残し”が視える」と思いついたので、次のメモには、そこにマルをしています。こういう自分だけの走り書きみたいなメモから物語がはじまる感じです。

エンタメでは、キャラクターが一番苦労する設定にするべし

三宅 私は主人公がただのお人好しではなく、看護師としてのプロフェッショナルな芯の強さがあるところ、それがキャラクターからみえるのが好きなんです。そういうキャラクター設定や展開って、どうやって考えているんですか?

秋谷 エンタメでは、その設定で一番困る、苦労するキャラクターにするべし、というコツがあると思います。逆もしかりで、キャラクターが決まっていたら、そのキャラクターが一番苦労する設定にするべし

「卯月〜」は、患者が思い残したものが視えるという設定が先にあったので、そこからどんな看護師にしようか考えました。読者は主人公が困難を乗り越えて成長するからこそ、応援してくれます。だから、思い残しを無視できずに解消しようとがんばるタイプの看護師を主人公にしました。思い残しが視えても「ま、いっか」と流してしまうひとだったら、たぶん物語にできない。

なので、優しくてお人好しタイプで、奔走して振り回されちゃうようなキャラクターをつくることで、主人公が生まれています。

三宅 ほかにも、「このキャラクターはこういうひと」という個性はどこから思いつくんでしょう?

秋谷 私、メインの登場人物のキャラクター表もつくっているんです。以前朱野帰子先生がnoteのイベントで披露されたキャラクター表には、「恐怖」という項目が書かれていましたよね。ああいうふうに、小説に反映されていない、好きなもの嫌いなもの、趣味、特技、ひとからどう見られるか、本人の自覚、を表にして、多面的な人間をつくれるようにしようと意識はしています。

▼イベント後、秋谷さんがnoteで公開したキャラクター表

小説を書きはじめても最初のプロットどおりにいかない

秋谷 キャラクター表とは別にプロットがあります。写真は最新の3巻のプロット表ですね。朱野先生はものすごい緻密なプロットをつくっていましたが、私はこんなふうにゆるい感じでして。

三宅 全然ゆるくみえないです!(笑)

秋谷さんが『卯月〜』の3巻を制作していたときに作成したプロット
『ナースの卯月に視えるもの』3巻プロット表の一部

秋谷 これには、1話目と2話目、そして「病棟内人間関係」「卯月・体のこと」「卯月・恋愛」「卯月・思い残し」と表が分かれています。その章になにを書くのかを決めているんです。

最初に決めたところからどんどん変わっているので、書き込みがあったり、入れ替えるというメモがあったりします。でもこのくらいのプロットで私は初稿を書きはじめますね。

三宅 手書きのところは、小説を書きながら変わったところを書きくわえているのでしょうか、それとも手書きのところがあってから小説を書きはじめているのでしょうか?

秋谷 どちらもあります。プロットの段階でもうちょっと膨らませようとか、書きながら変わっていった部分を足していったりします。

三宅 小説を書いている最中に、設定から変更したいと思ったことはありますか?

秋谷 けっこうありますね。私は最初のプロットどおりにいかないことがわりとあるんです。ただ結末まで決まっていないと書き出すのが不安なので、プロットをつくるんですけれども……。大きく変わることもありますし、登場人物が変わることもあります。

三宅 プロットはどのくらいの日数で書くんですか?

秋谷 ストーリー案が決まれば、プロット作成ははやいと思いますね。私は創作大賞のとき、開催の発表があってから締切までに新作を3本出して、3本とも中間選考に残っているので、たぶん書く速度と作品の出来はそんなに関係ないかと思います。

自分のなかで長く温めたからといって、いい作品になるわけでもないですよね。がんばって勢いよく書いて通ることもある、とは思います。

作品づくりの裏側:『あなたの四月を知らないから』の場合

シーンを書くとき、最初にやるのは画像検索

三宅 次に青山さんに作品づくりの過程をうかがわせてください。

青山 創作大賞に応募した「大阪城は五センチ」は元になる小説を4年前に書いていて、3万字くらいの作品でした。それがプロット代わりになったところもあり、応募した全12話中、5話目以降はほとんど応募期間に書きましたが、文字のプロットはつくりませんでした。

「大阪城は五センチ」のなかで、展示会のシーンを書きたいなと思ったときに、私が最初にしたことは画像検索です。できるだけ俯瞰の画像を探して、それをみながら、ここに登場人物たちがいたら、どんなふうに動くのかなと想像を膨らませる。それがたぶん、プロットを書くのと同じような工程になったんじゃないかなと思います。

三宅 小説を書くときは、いつも写真から入るんですか?

青山 そうですね。風景は絶対に検索します。知っているところも、知らないところもビジュアルで一回はみます

キャラクター設定は3行に留め、想像する余白を残す

三宅 そのとき、キャラクターはすでにできているんですか?

青山 キャラクターは画像検索よりも、もっと前の段階でつくっています。

小説の長さによって違い、6,000字くらいだったら、なにも考えないで即興のように書きます。原稿用紙で100枚、4万字くらいのボリュームの小説を書きたいときは、登場人物の名前をフルネーム・漢字で考えます。あとは年齢や外見、性格など、どういうひとなのかを3行くらいで思いつくままに書いて、それ以上は触りません

三宅 3行で書くのには、なにかこだわりがあるんですか?

青山 設定を決めるよりも、「こういうひと」とフワッとつくって、そこから「このひと、どうやってカレーをつくるんだろう」とか想像を膨らまします。

未来の自分にミッションを課す

三宅 スライド左側のスクリーンショットは、どういったメモでしょうか?

青山さん「大阪城は五センチ」6話に書き残されていたメモ
青山さんが執筆中に、未来の自分へ託した申し送りの一部

青山 これは自分にミッションを課すためのメモですね。6話ではこういうことを表現したいよ、と自分に申し送りするような感じです。というのも、5話から最終話までは応募期間に書いたので、自分で内容を整理して、どのくらいのボリュームになるのか見当をつけたかったんです。見切り発車で書いたら、描写だけで4,000字ほどいくかもしれないので。右側がメモを元に書いた実際の文章です。

左側のメモに「説得力」とあります。小説における説得力って、小説のなかでのリアリティだと思うんですよ。「この先を生きていく力をくれた」というセリフ自体は終盤に出てくる。で、このセリフにつながる直接のきっかけも、終盤のエピソードのなかにあるんです。

なぜそれが背中を押してくれたか。それは、こういうひとが、こういうひとに言ったから、という前段階が、必ずあるんじゃないかなと思ったんです。なので6話では、どういうひとたちなのかを、きちんと書きたい。

それが説得力につながると思ったので、実際に書いた本文は登場人物の性質がわかるようなセリフを書いたり、過去のエピソードを入れたりと、つなげていきました。

書きはじめたときにしたこと

創作大賞の対策はした?

三宅 創作大賞に特化した対策はしましたか、という質問をいただいているので、お二人にうかがってみましょう。

秋谷 私は、別冊文藝春秋賞を獲るぞと思って書きました。創作大賞では、協賛メディアがほしい作品像を公開しています。それを読み込んだり、メディアが出演しているイベントもしっかりみたりして、どこなら私の書きたい作品にフィットするか、どういう作品が求められているか、自分なりに対策を練りました。

私にとっては、がっつりお仕事小説は難しい、また、がっつりミステリーも難しい。なので、そのあいだのお仕事ミステリーがほしいと書いていた別冊文藝春秋賞を狙おうと考えました。

三宅 どんなものが求められていたか覚えていますか?

秋谷 まずはお仕事小説としてのおもしろさがあってほしい、だったと思います。お仕事小説はお仕事紹介ではない。だから仕事をしているひとの目からみたヒューマンドラマであったり、その仕事だからこそみえるものでのミステリー要素や謎があり、それを解決できるようなフックのあるお話を求めている、ということでした。

三宅 青山さんはどうでしたか?

青山 よりストレスなく読んでもらうために、いろんな工夫をしました。まずはひとつの記事の文字量。noteで応募するので横書きのテキストになりますし、一行の文字量もそれほど表示されません。くわえて、スクロールして読むことが前提になります。

紙の本で読むときとnoteの横書きを比べた場合、読み手がひとつの面から受け取れる情報量が、noteのほうがたぶん少ないんですね。そのときに、あまりたくさんギュッと詰まって書いてあったり、描写が多かったり、難しい漢字がたくさんあったりすると、それだけで読むひとへの圧になってしまう。紙の本で読むときは、そうじゃないのに。

なので、最初から横書きで読んでもらえることを前提に、読みにくくならないよう、かんたんな言葉を選んだり、視覚的にも読みやすいように描写でまとまりをつくったりしました。だからたくさん一行空きをつかっています。ふだん紙の小説を書くときは、ほとんどつかわないんですけれど。

なお、一行空きは紙の本で縦書きにするときに全部抜きました。noteの場合は一行あることでいい一拍になるけれど、本になると詰まってしまうので、接着剤のような描写を足したり、言葉を入れ替えて書きたかった文体に書き直したりしています。

推敲はいつ、どれくらい?

三宅 推敲ってどのくらいしましたか?

秋谷 私は推敲自体は書きながら、ちょこちょこするタイプなんですよ。その日、小説を書きはじめるときに、前の日までに書いたものを見ながら推敲します。

Wordで書いているので、画面上で縦表示にして読み直してみたり、書き終わったら必ず紙に縦書き表示でプリントして読むようにしています。紙では一回推敲、さらにもう一回くらい確認しますね。

推敲時に意識することは、お仕事小説はとくになんですけれども、説明文になりがちなので、説明ではなく描写にするという点は全体的に意識しています。

三宅 リアリティをどうやって説明ではなく描写にできるんですか?

秋谷 看護師が作業をしている描写や、作業中は五感でなにを感じているかとかですね。冷たいのか温かいのか、緊張しているのか。作業しているときになにを思ってやっているのかは本人にしかわからないから、それを書いたりはします。

でもどうしても説明が必要なときは、会話に入れちゃったりしていますね。

青山 私もそうです。今日は推敲のやり方をスライドに4つ用意してきました。

青山さんが推敲するときにやっていること。①3行あらすじをつくる②執筆時とは別の媒体で文章を表示する
青山さんが推敲のときにやっていること(スライド1)

青山 私も基本は書きながら推敲しています。スライドに書いていることは1話の単位でやっていたことですね。

①は、たとえば6話だったら、「どんな主人公が、どんなことをきっかけにどんなことをして、どんな変化があった話なのか」を3行に文字起こしできるかを確認するんです。

私は人物の心情描写を書くことが多いので、そちらに気を取られて、オチが「こんなふうに考えるようになった」で終わることがすごく多いんですね。ただ、小説って、実際どうなったのかを追うことが、おもしろさや、たのしさにつながると思うので、できれば、「そう考えるようになった」ではなくて「考えるようになったから、こうした」まで辿りつけるような物語になるように、この確認作業をしています。

②はりんこさんがおっしゃっていたことと同じです。表示方法を変更するだけで印象が変わるので、自分自身が気づけることが多くなるかと思います。

三宅 確かに、私もPCで書いたものをスマホで読み返したりします。さて、スライドの③ですが、びっくりしました!

青山さんが推敲するときにやっていること③いちばん気に入っているシーンから1文ボツにする④誤字脱字のチェック
青山さんが推敲のときにやっていること(スライド2)

青山 これは1話ごとではなく、全体が書けてからやっていることです。書いているとどうしても、思い入れのあるシーンが必ず出てきてしまうんですね。

でも、熱い想いで書いているところって、書きすぎていることが多い。それを自覚するのは難しいので、ノルマにして、そこから1行取るぞ、と。結果的に、文章がすごく整理されますね。

三宅 わかります。青山さんの小説は余白がある感じがしますね。そして、④の誤字脱字のチェックがあると。

青山 はい。これはもうオマケのような感覚ですが、読み返すときに、言葉のまとまりではなくて、意味を失わせたひらがなの粒にするようにしています。たとえば「こ・と・ば・の・い・み・を・う・し・な・わ・せ・た」と全文を読むんです。そうすると、単純に重複しているひらがなも見つけやすいですし、すごく近いところで同じような表現をしていることに気づいたりします

締切の直前にやったこと

メンタルのセルフケアはどうしたらいい?

三宅 締切前はだれでもナーバスになってしまいます。どうやって心を落ち着かせていますか?メンタルセルフケアがあったら、ぜひ教えてください。

秋谷 私の場合は、先ほども話したとおり、創作大賞がダメだったときのために、別の賞の結果待ちをつくっておきました。

当時のノートを見返してみたら、今頃もがんばって投稿していましたね。そのあと締切までは、ほかのみなさんの投稿を拝読して感想を書いています。それも終わったら、次の公募を書きはじめていました。

私は、一つひとつの作品はもちろん魂を込めて書くんですが、それの結果だけにメンタルを乗せすぎちゃうことが、すごく怖いんです。だから、いま結果待ちしているみなさんも緊張を分散するために、次の公募を書きはじめたほうがいいと思います。

三宅 考えすぎて書けない、結局仕上がらないことがあります、という質問もきています。

秋谷 書き切ったほうがいいと思いますね。書けなくて出せなかった、はすごくもったいない。どういう結果になったとしても、いまの精一杯を出して書き切ったら、もう終わり。自分の手の及ばない状態になるので。

でも、ほかの方の作品を読んで、ちょっと気持ちがメラメラしたり、ドキドキしたりすることもコンテストの醍醐味だと思うので、それを含めて最後までたのしんでほしいな、と思います。

青山 私はもともと、年に一回公募に出すことが定着していたこともあって、出せたらOKなんですよ。昨年の創作大賞のときは7月16日にすべての話を公開していましたが、確認したら、子どもたちが7月19日から夏休みに入っているんですね。なのでたぶん、家事に追われていたと思います。それまでは家のことを後回しにしていたので。

ほかの作品のスキ数が気になるときの対処法

三宅 秋谷さんのnoteで、すごく印象深い記事がありまして。作品に「スキ」が多くつくひとは、そもそもフォロワーが多い。なので、フォロワーの多いひとに自分が勝てるのかと思うけれど、プロになったらそんなの関係ないんだと思って己を奮い立たせた、と。その話がめちゃくちゃ好きなんです。

秋谷 数の正義に立ち向かえ、という気持ちがあって……。フォロワーさんがたくさんいてスキがたくさんついている作品は目につきやすいので、やっぱり比較すると凹むんですよね。それに対して、作品の質とスキの数は別という見方もあります。けれど商業で戦うのなら、noteよりももっと広いところから、たくさんのスキを集めないといけない。数で戦わなければならない、というスイッチが創作大賞の応募期間中に入りました。

モチベーションはどうやって保てばいい?

三宅 作品を完成させていく過程でつまらないなと感じて自信がなくなります、という質問がきています。どのようにモチベーションを保てばいいでしょうか。

秋谷 書いていると「これ、どこがおもしろいんだろう」と思う時期って、絶対くると思うんですよ。最近思っているのは、それはおもしろくないのではなくて、自分の作品を読みすぎて飽きているだけ。真剣に向き合ってめちゃくちゃ読んでいるから、と。私はそれを小説のゲシュタルト崩壊と呼んでいて。なので、ちょっと一回自分の作品から離れてみて、ほかの本を読んでみるとかするといいと思います。

青山 必ずきますね。鬱のターンみたいな。私はそのまま、鬱のままゴールしていますね。

三宅 乗り越えずに押し切る感じですか?

青山 おもしろく……ないんですよ。私はおもしろいと思っていますが、万人受けする小説というのはこの世にないので、おもしろいものを目指して書くんですけれど、それが辛くなることもある。だから、「一番おもしろいと思っているのは自分」というスタンスでいいと思うんです。もともと、みんながおもしろいと思うから書くんじゃない、私がおもしろいと思うから書くんだ、という感じですね。

創作大賞に応募するひとへのアドバイス 

三宅 では最後に、今年、創作大賞に応募する方たちに向けてひとことお願いします。

秋谷 最後までたのしんだひとが勝ちだと思います。私も受賞した当時は、たのしくやっていたら結果がよかったという感じなので、その気持ちを大事にして最後までたのしんでほしいですね。

青山 まずは肩の力を抜いて。挑戦しただけで今年はすごいことを達成しているので、あまり結果にこだわらず、ひとの目も気にせず、たのしんでいただけたらと思います。

三宅 ひとの目を気にしていたらなにも書けないですもんね。本日はありがとうございました!

右から、青山さん、三宅さん、秋谷さん

質疑応答

Q1.最初に「小説を書こう」と思ったきっかけが知りたい。また、コンテストや公募の度に新しくストーリーを創り出しているのか、過去に落選した作品を書き直して応募していたのかを知りたい。(ともづき さん)

秋谷 書こうと思ったきっかけは、よく覚えていなくて。もともと文章を書くのが好きだった、本を読むのが好きだった、が合わさって書いてみたくなったんだろうと思います。

また、もうひとつの質問に対しては、私は基本的にコンテストや公募の度に新しい作品を創り出しています。落選した作品を書き直すことはほとんどないですね。

ただ、落選した作品をなにもしないで手元に置いていたら、編集者さんが拾ってくれたというパターンもあります。落選したからといって悪い作品ではないので、大事に持っているのもいいと思います。

青山 たぶん、いままでで一番好きと思える小説を読んで、読み終わって、その余韻のなかで自分も書いてみたいと思った気がしますね。

作品づくりに関しては、「大阪城は五センチ」は珍しくリライトだったんですが、私は新しくつくるのが好きなんです。同じ時間と体力を小説に割くのであれば、書き直すよりも、新しいものを書きたいな、という気持ちになります。

Q2.お二人が小説家を目指して活動されているときに諦めたことはありますか?もし諦めたことがあるのなら、またがんばろうと思えた出来事はなんですか?(コッシーさん)

三宅 この質問は、小説家になろうとして諦めたことはありますか?ということだと思います。

秋谷 小説家になると決めてから、諦めたことはないですね。ただ、目指しはじめたのが40歳からなので、いまからでもいけるのか、「小説家 遅咲き」「小説家 デビュー 年齢」とかでよく検索してはいました。

また、がんばろうと思えた出来事は、やっぱりnoteのフォロワーさんの存在でしょうか。公募に参加している方もいるので、一緒に励ましあえたり、すごく親しくしていた方が夢を叶えてデビューしたりしているのをみると、私もがんばろうと思えますね。

青山 小説家に憧れはずっとあって。そもそも公募に応募していたのも、だれかに読んでほしかったからなんです。リアルで自分の小説を読んでもらえる環境になく、Webもあったはずなんですけれど、当時の自分の選択肢にはなくて。読んでもらうためには公募に出すしか手段はないと思い込んでいました。

公募に最後まで進んでから落ちたときに、もう私は公募はないかなと思って……。ちょうどそのときにnoteに出会って、読んでもらえる場所あったんじゃん、という気持ちでした。

noteをはじめてからも小説家への憧れはずっと持っていました。けれど、発表できる場があって、いまは文学フリマなどで自分で本をつくることも昔よりハードルが低くなっている。そういった環境のなかで、私の場合は、小説家になりたいという気持ちは、ちょっとずつ薄れていたかもしれないですね。

ただ、こうして機会をいただいて学びも多いですし、一生懸命がんばっていきたいなと思っています。


Q3.出版前後で、ご自身の書くスタイルや軸、大切に考えていることなどに変化はありましたか?(匿名 さん)

秋谷 デビューする前は、自分が書くことが好きだから書くという感覚がすごく強かったですね。そして、書くのがたのしくて、発表したら読んでいただけてうれしい。

だけどデビューしてすぐは、本になって自分の知らないひとのところにまで届くのが、ちょっと怖いなと思う部分もありました。

私はとくに医療ものを書いているので、100人全員を不快にしないのは難しいですが、ご病気の方やご家族の介護をしている方々が読んでくださったときに、なるべく希望を持てるようにしたいとか、癒しのほうに気持ちが向いてくれたらいいなと考えています。

本に対する責任が、デビューしてからのほうが強くなったと思いますね。

青山 私は小説を書く工程が大きく2つ、「考える」と「出力」に分かれています。

言語化できないけれども、書いてみたいと思うものをつくる「考える工程」。そして、それを「出力(表現)する工程」です。

考える工程は、きっとこれからも変わっていかないと思います。ただ、それをどういうふうに表現していくのかは、ご助言をいただきながら、いろんな方法を模索したり手に入れたりしていくのかなと思います。これからもがんばります。

▼イベントのくわしい内容が気になる方は、動画のアーカイブをご覧ください。

登壇者プロフィール

文芸評論家
三宅香帆

文芸評論家 三宅香帆さん

京都市立芸術大学非常勤講師。1994年高知県生まれ。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程中退。リクルート社を経て独立。主に文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動。著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『「好き」を言語化する技術』等多数。
note:https://note.com/nyake


小説家
秋谷りんこ

小説家 秋谷りんこさん

1980年神奈川県生まれ。横浜市立大学看護短期大学部(現・医学部看護学科)卒業後、看護師として10年以上病棟勤務。退職後、メディアプラットフォーム「note」で小説やエッセイを発表。2023年、「ナースの卯月に視えるもの」がnote主催の「創作大賞2023」で「別冊文藝春秋賞」を受賞。24年5月に同作でデビューし、シリーズ累計10万部を突破している。
note:https://note.com/rinko214

小説家
青山ヱリ

小説家 青山ヱリさん

1985年生まれ。大阪府出身。創作大賞2024(note主催)にて朝日新聞出版賞を受賞。受賞作「大阪城は五センチ」の改稿に、新たに書き下ろしたスピンオフ作品を加え『あなたの四月を知らないから』として、朝日新聞出版より4月18日に発売。
note:https://note.com/aoyama_eri

創作大賞2025について

あらゆるジャンルの作品を対象にした、日本最大級の創作コンテストです。部門は全12部門、2025年は38メディアが審査に加わり、各メディアでの書籍化、連載化、映像化などを目指します。2025年7月22日(火)まで、noteもしくはTalesでエントリーが可能です。くわしくは、下記のスケジュールや特設サイトをご覧ください。

創作大賞のスケジュール

創作大賞のスケジュール表
  • 応募受付期間: 4月22日(火)11:00 〜 7月22日(火)23:59

  • 読者応援期間: 4月22日(火)11:00 〜 7月31日(木)23:59

  • 中間発表: 9月中旬

  • 最終結果発表 & 授賞式: 10月下旬

text by 本多いずみ


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