離れていても 7話 完
その日を境に清田はあの神社に行っても大山に会うことはなくなった。
しばらく経ったある日、清田はまたあの夢を見た。
夢の中のあの美しい水の世界で大山の腕の中にはあの女性がいた。
微笑み合う二人を少し離れたところから見ていると清田は何故か安心した。
「ああ、やっと会えたんだ。」
そんな思いで胸がいっぱいになって涙がとめどなく流れてくる。
涙を拭うこともなく二人を見つめていると大山と目が合い、何かを言っているようだった。
距離があってその声は聞こえないが清田には大山が何を言っているのかわかった。
「ありがとう。」
清田が優しい気持ちで目を覚ますと実際に涙が頬を伝っていた。
縁側で空を眺めて清田は大山のことを考えていた。
「あの二人は恋人同士なのかな?二人ともすごく幸せそうだったな。……それにしても大山さんはどこに行っちゃったんだろう?」
気になった清田は瀬尾の家に行き、聞いてみた。
「神社でよく会っていた大山さんという男の人がいたんですけど、最近見かけなくて…どこに住んでるか知ってますか?」
瀬尾なら知っているだろうと思い込んでいた清田は瀬尾の一言に唖然とした。
「大山さん?この村には大山さんという方はいないですよ?」
「え?でも……。聞き間違えたのかな?」
「神社って山の上の神社ですか?」
「そうです。」
「ああ〜大山さん…。前にもあの神社で和服の男性に会ったって方がいたんですよ。でも他の者は見たことはなくて…まぁそもそもあそこへはあまり行きませんから。」
清田は瀬尾の話に食いついた。
「そうです!大山さんも和服を着てました!」
「その方が自分は大山だと名乗ったのですか?」
「はい、名前を聞いたら私は大山、と。」
瀬尾は腕を組んで少し考えてから言った。
「それはもしかしたら、大山ではなくて大山津見、と言っていたんじゃないですかね。」
清田は意味がわからずポカンとしていた。
「いやね、あの神社に祀られている神様が大山津見様って言うんですよ。」
清田は思考が追いつかず、ただ瀬尾を見つめていた。
「大昔ここは海と山が接する場所でした。山の神大山津見様と海の神綿津見様は長年寄り添って生きてきたので、お互いに想い合うようになるのは必然でした。しかし、ここに人が住むようになって山が削られ、今では海と山はこんなにも離れてしまった。海の神は海を、山の神は山を出ることはできないのでお二人はもう二度と会うことができないのです。それでも大山津見様は今でも綿津見様をお慕いしている証として川を使って山から海に、綿津見様に花を送り続けているのだと、そんな言い伝えがありますよ。」
瀬尾の話を聞いて清田は全ての不思議な出来事が繋がった気がした。
「そうだったんですね…。」
「前に神社で和服の男性に出会ったと言っていた人が『あれは大山津見様に違いない。言い伝えは本当だった。』と言って村中大騒ぎしたものですよ。まさか清田さんもオオヤマツミ様にお会いするとは…。」
「神様だったなんて…。今日は夢の中に二人が出てきて…すごく幸せそうで……。」
瀬尾は自分のことのように喜んで微笑んだ。
「それは素晴らしいですね。私にはよくわかりませんが、もしかしたらあなたの夢の中では場所に縛られることもなく逢瀬ができるのかもしれませんね。」
清田が下を向いて考えていると瀬尾は優しい声で言った。
「大山津見様は人を恨んでいましたか?」
瀬尾の言葉に清田は驚いて顔を上げた。
「まさか!あ、でも人が好きって感じでもなかったですけど…恨んではいないと思います。じゃなきゃ俺と話したりなんかしなかったでしょう。そっけなかったけど、なんだかんだ優しい人でした。」
「そうですか。」
瀬尾は嬉しそうに微笑んだ。
清田は山の方を振り返った。
陽に照らされている山は緑が美しく木々が風に揺れると光を反射してキラキラと光っていた。
その光景は神社から見た海に似ていて、清田はあの時の大山の横顔を思い出していた。
そして何となく大山が木々の隙間からこちらを見ているような気がした。
その後も清田は大山の姿を見ることはなかったが、美しい山の花々が海を目指して川を流れていくのを何度も見た。
その度に大山のことを思い出しては、月に一度、あの神社にお参りに行っている。例え離れていても何百年、何千年と想い合う二人の幸せを願って。
