離れていても 6話
その夜また不思議な夢を見た。
昨日と同じように鏡のような透き通った水の上に立っていた。
そしてまた遠くからたくさんの花が流れてくる。
清田の足元を通ってゆっくりと反対側へと流れていく。
しかし辺りを見渡しても大山の姿はなかった。
「どこにいるんだろう?」
不思議な気持ちで花が流れていく方へと歩いていくとその先に人の姿があった。
しかしそれは大山ではなく美しい髪を靡かせている女だった。
その女は流れてきた花をひとつ手に取ると目を瞑り香りを嗅いでいた。
その所作は何とも言えず滑らかで美しく、清田は呆然とその女を眺めていた。
するとその女は清田の視線に気が付いて微笑みかけた。
「この花は貴方が?」
この透き通った水のように穏やかで清らかな声だった。
「いや、違います。これは大山さんが……。」
女のあまりの美しさに緊張しながらもそう答えると女は何かを察したように花を見つめて頬を染めた。
「そう…やはりあの人が…。」
そう呟く女に清田が見惚れているとキラキラと濡れて光る大きな瞳で真っ直ぐ清田を見つめてこう言った。
「どうか伝えて……!私も、同じ気持ちでおります、と。」
女は手に持つ花をギュッと握りしめていた。
白く柔らかそうな頬を薄紅色に染めながらも懸命に話すその姿に思わずドキッとした。
そして気がつくといつの間にか夢から覚めていた。
「何だか同じような夢だったけど、あの女の人は一体誰だったんだろう?あんなに綺麗な人会ったことないはずだけど…。」
いくら考えてもあの女が誰なのかわからなかった。
そして今日の夢のことを大山に話に行きたかったけれど昨日「ここへは来るな」と言われたばかりだったので行かないほうが良いのか悩んだが、女が一生懸命に伝えてほしいと言っていたことが気になったので怒られるのを覚悟して神社に向かった。
神社裏の川に着くと大山が花を流していた。
そして大きなため息をついた。
「来るなと言っただろう。」
不機嫌そうな声でこちらを見ることもなく言う大山に清田はたじろぎながらも弱々しく夢の話をした。
「実は昨日また夢を見まして…、昨日話した夢と似たような夢だったんですけど、昨日は大山さんは出てこなくて、代わりにすごく綺麗な女の人がいたんです。」
大山は手を止めて立ち上がり振り返った。
「どんな人だった?」
大山が興味を持っていることが不思議だったが清田はその姿をできるだけ思い浮かべた。
「え〜と…髪が黒くてツヤツヤしていて長くて、瞳が青みがかっていて、すごく綺麗な人でした。」
「会ったのか!?」
大山は清田の両肩を勢いよく掴むと大きく揺さぶった。
「彼女は何をしていた、何か話したのか!?」
初めて見る大山の取り乱した姿に清田は驚いた。
「大山さん、落ち着いてください!…えっと、その人は流れてきた花を取って匂いを嗅いでいて…大山さんの名前を出したら『私も同じ気持ちですって伝えて』って言われて、来るなって言われたけど、何となくこのことは伝えなきゃいけないって思ったんです。」
そう言うと大山は固まっていた。
「大山さん?」
呼びかけると大山はそのまま足元から崩れるようにしゃがみ込んで顔を伏せた。
「大丈夫ですか!?」
清田は大山の背中に手を当てて一緒にしゃがみ込んだ。
その背中を摩りながら心配そうに覗き込もうとするが大山の顔は見えない。
「具合が悪いんですか?」
「違う。」
ようやく返答があったものの拗ねているようなぶっきらぼうな言い方だった。
大山がようやく顔を上げたので清田が大山の顔を覗き込むと顔色が悪いわけではなくむしろ顔が真っ赤だった。
「大丈夫ですか?真っ赤ですよ?」
清田が恐る恐る聞くと大山は「大丈夫だ」と言って神社の方に歩いて行ってしまった。
そして境内で立ち止まって何かをじっと見ている。
清田は大山の元に歩いていき大山の視線を追うとそこには海があった。
清田はこっそり大山の顔を盗み見るとキラキラと光る海を眺めながら優しい顔をしていた。
その目はただ美しい景色を見ているだけではなく、とても愛おしいものを見るような慈しみに満ちた目だった。
