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「過飽和社会2 燃やされた御殿」(6)これは現代におけるピカレスクロマンであり、ハードボイルド小説である。

第6話 透明な街

封筒を投函してから、三日が過ぎた。
ニュースには、何の変化もなかった。
ローカルも全国も、どこも報じない。
「映像」の話など一切なかった。

俺は、それでもネットを監視していた。
“ブルーシート”“火事”“河川敷”――
あらゆるワードで検索した。だが、ひとつもヒットしない。

封筒は、たぶん届いた。
だが、届いた先で“処理”された。

「不審火として処理」
「詳細不明の映像は参考にならず」
あるいは、「未成年が関わっていたとしても、公表できない」と判断されたか。

どれでも構わない。
この街が、「静かに忘れようとしている」のは、よくわかった。

夕方、あの場所へ行った。
御殿の跡地。
草がなぎ倒され、灰色の地面がむき出しになっている。

焼けた草の匂いは、もう消えていた。
代わりに、コンクリートに似た無臭だけが残っていた。

俺はそこで立ち止まり、ポケットからメモ帳を出した。
小さな罫線に、今までの観察記録を箇条書きしていた。
時間、行動、言葉、服装、顔色――

それはまるで、捨てられた日常の“拾得リスト”だった。

だが、これらの記録は俺一人が抱えていても、意味がない。
記録は「閉じられている限り」、何の力にもならない。
火も、怒りも、伝わらない。

その夜、俺はスマホの動画ファイルを再構成しはじめた。

再生順を入れ替え、明るい昼間の笑顔の写真のあとに、炎の映像を配置した。
制服。笑い声。
その次に、御殿が焼かれる夜。

ありがとう。
言葉は生き残っていた。

この映像を投稿する。
ただし、「俺が投稿したようには見せない」ようにする。

投稿主は、あくまで“スマホ”。
つまり、炎の中で失われたと思われたスマホが、
ある日突然ネット上に“自爆的に”動画をアップロードした、という形にする。

方法はある。
アカウントの過去投稿を削除し、プロフを空にしておく。
映像の冒頭に、こう書く。

「この映像は自動投稿されました。
スマホを拾った人が、見たことを残したかっただけです。」

“俺”の存在を消す。
証人でもなく、正義の味方でもなく、ただの媒体。

記録そのものが語るように仕向ける。

この街に、正義はなかった。
だが、俺はそれを責めない。
無関心もまた、生き方のひとつだ。

だけど。

この動画を見て、たった一人でも
「何かがおかしい」と思う奴が現れたら、
それだけで――

この炎は、燃えたことになる。

➡第7話 炎上装置