「過飽和社会2 燃やされた御殿」(4)これは現代におけるピカレスクロマンであり、ハードボイルド小説である。
第4話 解析と名簿
朝、カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
床には空のピザ箱。冷えた空気の中、昨夜の記憶が刺のように身体に残っていた。
夢は見なかった。ただ、胸が重かった。
パソコンを立ち上げる。
俺は、徹底的に調べることにした。
やつらの名前、学校、バイト先、交友関係、家族構成、通学ルート、習い事、投稿時間……。
ネットに出ているもの、SNSで拡散されている断片、それらをひとつずつ拾い、繋げていく。
高校生たちは、驚くほど無防備だった。
Tiktokには日常動画、Instagramには友人とのプリクラ、LINEのIDも一致していた。
犯人は三人。
1人目――日比野優翔(ひびの ゆうと)
ピザの宅配。動画でライターを投げたやつ。親は区役所職員。
2人目――佐伯涼太(さえき りょうた)
回転寿司でバイト。現場で液体を撒いていた。親は地元の教育委員会の幹部。
3人目――宮下純(みやした じゅん)
コンビニ勤務。撮影者。SNS上で拡散役だった。親は医療関係、地元に病院を持つ。
すべての断片が揃いはじめたとき、俺はひとつの名簿を作った。
【加害者リスト】
名前/通称
年齢/学校名
所属部活動/バイト先
自宅住所(推定)
家族構成
通学ルート
最寄り駅・利用時間帯
SNSアカウント・投稿傾向
動画での行動内容
これを「俺だけが見るファイル」としてまとめた。
フォルダ名は〈御殿〉。
忘れないためだ。
あのブルーシートの御殿を。
改めて、動画を確認する。
焼かれるおじさん。
笑う声。
炎に照らされ、赤く光る少年の顔。
これがただの悪ふざけで済むと思ってるなら、正気じゃない。
俺は、どうしても納得がいかなかった。
なぜ、警察は動かない?
どうして、ニュースにならない?
その答えは、意外とすぐに見つかった。
佐伯涼太の父親――佐伯明彦は、区の教育委員会で要職に就いていた。
名前で検索すると、学校のいじめ問題や不登校対策の「コメント」をしている記事が出てきた。
「命の尊さを学ぶ機会を…」
どの口が言ってるんだ。
宮下純の父親は、地域の病院の院長。
行政ともつながりがある。
医師会の役員名簿に名前が載っていた。
つまり、もみ消せる。
警察に通報しても、動かない。
記録を提出しても、「判断中」と言われるだけだろう。
マスコミに渡したところで、青臭い正義感じゃ相手にもされない。
俺は、握っている。
あの夜、焼かれた炎の真実を。
やつらは知らない。
スマホに、すべての記録が残っていたことを。
復讐が、現実になりはじめた。
行動の輪郭が、はっきりと見えはじめる。
正義という言葉は、重すぎる。
けれど俺は――
俺だけは、やる。
