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そばか、うどんか。|ロスジェネ氷河期世代の胃袋は、今日も迷う【50代】

これは麺の話ではない。どんな時代を、どう食べてきたかの話だ。



そばか、うどんか。

この問いは、思った以上に奥が深い。

味の好みだけでは片づかない。
記憶が絡む。
時代が絡む。
生きてきたテンポみたいなものまで、少し入ってくる。

ロスジェネ氷河期世代。
バブルの時代を子どもとして見て、社会に出る頃には景色が変わっていた世代だ。
派手な夢を語るには空気が悪く、かといって達観するにはまだ若かった。
そんな半端な場所で、私たちは案外いろいろなものを胃袋に流し込んできた。

その中に、そばとうどんがある。


うどんには、戻ってこられる感じがある

私は関西風のうどんが好きだ。
田舎が四国だったことも、たぶん大きい。

子どもの頃、夏休みに祖父母の家へ向かう途中、宇高連絡船の中や高松あたりで食べたうどんの記憶がまだ残っている。
湯気。
だしの匂い。
やわらかさの中にちゃんと芯のある麺。
何ということのない一杯なのに、不思議と記憶の棚から落ちてこない。

疲れていても入ってくる。
胃袋に強く主張しすぎない。
それでいて、ちゃんと旨い。
妙にやさしい。

今は関東にいても、讃岐系のうどんは珍しくなくなった。
昔なら地方でしか味わえないと思っていたものが、今はかなり身近だ。
ありがたい。
だが少しだけ、複雑でもある。
本場の味にわざわざ会いに行かなくても、かなり近いところまで来てしまった。便利な時代の、少しだけ複雑な感触だ。


立ち食いそばを、私はわりと信用している

一方で、そばも強い。
むしろ年齢を重ねるほど、その良さがわかってくる。

若い頃は勢いで肉を食い、脂で押し切れた。
だが50代ともなると、胃袋は昔ほど無茶に付き合ってくれない。
そうなると、そばのあの軽やかさが効いてくる。

ただ、私にとってのそばは、上品な名店だけではない。
むしろ立ち食いそばの存在が大きい。

ロスジェネ世代の人間なら、あの世界に世話になった人は多いのではないか。朝の駅、仕事の前、仕事帰り、時間も金もあまりない昼。
だが何かは食べたい。そのとき、立ち食いそばはやけに頼もしかった。

早い。
安い。
うまい。

この三拍子は、ただの宣伝文句ではない。
あの時代をくぐってきた人間には、妙に身にしみる。余計なことを言わず、黙って腹を満たしてくれる。
だしの香りが立ちのぼり、熱いそばをさっとすする、その一瞬にちゃんと救いがある。

駅のそば屋には、駅のそば屋にしかない良さがある。
椅子もなく、長居も前提にしていない。
それでも、ひと口すすった瞬間に妙に落ち着く。
ほんの数分だけ、自分の生活が持ち直す感じがある。


うどんは記憶に近く、そばは生活に近い

こうして考えると、うどんとそばは役割が少し違う。

うどんは、記憶に近い。
家庭に近い。
帰省や土地の匂いが混ざる。
そばは、生活に近い。
働く日々に近い。
忙しさや空腹や、少し草臥れた自分のそばにいた。

だから困る。
どちらが上かなんて、決められない。

うどんを食べれば、ああやっぱりいいと思う。
そばを食べれば、いやいやこっちも強いとなる。
この勝負、永遠につかない気がしている。


50代の胃袋は、正直だ

年齢を重ねると、食べ物に求めるものが変わる。
若い頃は量と勢いだった。
今は、身体に入ったときの具合まで考える。
今日は胃がどうか。
疲れがどうか。
夜に響かないか。

その意味でも、そばもうどんも50代の味方だ。
無理をさせすぎず、ちゃんと旨い。
この条件は案外大きい。

私はコスパ至上主義でもタイパ至上主義でもない。
だがロスジェネ世代として、「早い、安い、うまい」に助けられてきた実感はある。
見栄を張る余裕のない時代、食事に金も時間もかけられない日々、
その中でそばもうどんも、ずいぶんこちら側にいてくれた。


どちらも譲れない、という答え

うどんには、幼い頃の空気がある。
そばには、大人になってからの時間がある。
どちらも私の中に、ちゃんと残っている。

今日はうどんの気分の日がある。
今日はそばでいきたい日もある。
それでいいのだろう。

人生もたぶん同じだ。
どちらか一つに決めきれないものを抱えながら、
人は案外うまく生きていく。少なくとも私は、
そういう曖昧さが嫌いではない。

そばか、うどんか。

この答えがまだ決まらないうちは、たぶん私の胃袋も、人生も、まだ少し元気なのだと思う。

※今記事は2024年の記事を今の温度で書き直した改訂版になります


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