率直さとは、思ったことをそのまま言うことではない
最近、当社では2つの事業部を1つの事業部に統合しました。
そこで改めて大事だなと思ったことがある。
何か?
率直なコミュニケーションである。
思っていることを言わず、遠回しな表現ばかりしていれば、本当に伝えなければならないことが伝わらない。問題があるのに誰も指摘せず、表面的には穏やかなまま、組織の中に問題だけが残り続けることもある。
だから、隠し事なく率直に話せることが重要だ。
一方で、ここには難しい問題がある。
率直であることと、心に浮かんだことをそのまま口にすることは、本当に同じなのだろうか。
たとえば、部下の仕事を見て、
「なんでこんなこともできないんだ」
と思ったとする。
これをそのまま言えば、確かに自分の内側に浮かんだものを隠してはいない。
しかし、それを「率直なコミュニケーション」と呼んでいいのだろうか。
最近、この二つはまったく違うものなのではないかと思ったので今日はそんな話だ。
本当は何を伝えたかったのか
「なんでこんなこともできないんだ」
という言葉の奥を掘っていくと、別のものが見えてくる。
なぜ腹が立ったのか。
期待している成果が出ていないからかもしれない。
では、なぜ成果が出ていないことが嫌なのか。
その人の仕事が遅れることで、周囲の人に負担がかかっているからかもしれない。
あるいは、成果を出している人と出していない人が同じように高い給与を受け取っていることを、不公平だと感じているのかもしれない。
さらにその奥には、
「頑張っている人が報われる組織であってほしい」
「会社を持続可能な状態にしたい」
「みんなが気持ちよく働ける状態にしたい」
という願いがある。
つまり、最初にあったのは、
「物事を良くしたい」
という意図だったのかもしれない。
ところが、それが自分の中を通過する過程で、
「物事を良くしたい」
から、
「この状態はまずい」
になり、
「この人が原因だ」
になり、
「この人は仕事ができない」
になり、
「給料泥棒じゃないか」
という言葉にまで変換されていく。
最初と最後だけを見ると、善意が悪意に変わってしまったように見える。
しかし、その間を丁寧に見ていくと、一つの連続したプロセスであることがわかる。
問題が「人」に変換された瞬間に、トゲが生まれる
コミュニケーションの過程で特に重要なのは、問題と人が融合する瞬間だと思う。
本来起きていることは、
「期待されている成果と、現在の成果の間にギャップがある」
という事実かもしれない。
ところが、それが、
「能力がない」
になり、
「仕事ができない人だ」
になる。
あるいは、
「成果と給与が釣り合っていない」
という状態の問題が、
「給料泥棒だ」
という人格の問題へと変わっていく。
人間の脳は、複雑な状況をこうやって圧縮して理解するのだろうと思う。
この圧縮が起きると、コミュニケーションにトゲが生まれる。
問題を解決するための言葉だったはずのものが、相手を否定するための言葉になってしまう。
Stateが整うと、根源の意図がそのまま出てくる
ここで重要になるのが、自分自身のStateだと思う。
簡単に言うと、精神状態みたいな意味だ。
睡眠不足だったり、疲れていたり、大きなストレスを抱えていたりすると、人は反応的になる。
同じ出来事を見ても、
「なんでできないんだ」
「またか」
「いい加減にしてほしい」
という反応がすぐに出てくる。
一方で、瞑想をしたり、運動をしたり、十分に休息を取ったりして、自分のStateが整っていると、同じ出来事を見ても少し違った反応ができる。
「何が起きているんだろう」
「どこで詰まっているんだろう」
「どうすれば改善できるだろう」
と考えられる。
起きている問題は同じだ。
違うのは、問題と自分との間に少しだけ空間があることだ。
その空間があるから、根源にある「良くしたい」という意図が、怒りや攻撃へ変換されず、そのまま表に出てきやすくなる。
だからStateは「高くする」というよりも、整えるという表現の方が近いのかもしれない。
エネルギーが高いことと、Stateの質が高いことは必ずしも同じではない。
元気で、頭がよく回り、自信に満ち、仕事がどんどん進んでいても、他者への攻撃性が高まっていることはある。
大切なのはエネルギーの高さではなく、反応と行動の間に空間があり、自分が何をしようとしているのかを観察できる状態なのだと思う。
Stageが上がると、原因を一人の人間に集約しなくなる
さらに長期的には、Stageの違いもある。
これは精神の成熟度とか、精神の発達段階のような話だ。
Stageが上がると、一つの問題をより多面的に捉えられるようになる。
ある社員の成果が出ていないときにも、
「本人の能力の問題かもしれない」
だけではなく、
「役割が合っていないのかもしれない」
「上司のマネジメントに問題があるのかもしれない」
「採用した会社側にも責任がある」
「目標設定が曖昧なのかもしれない」
「本人と会社との相性の問題なのかもしれない」
と、複数の可能性を同時に持てる。
すると、「こいつが悪い」という単純な結論に飛びつきにくくなる。
結果として、
「誰が悪いのか」ではなく、「この状況をどうすれば良くできるのか」
という根源の問いに戻りやすくなる。
Stageは簡単には変わらない。
また、上げようと思って上がるものでもないし、むしろ無理に上げようとするほど上がらなくなるので、扱いが本当に危険な概念だと思う。
だからこそ、日常ではまずStateを整えることが重要だと思う。
怒りをなくす必要はない
ここでもう一つ大事なことは、StateやStageが高くなれば、否定的な感情がすべてなくなるわけではないということだ。
怒りそのものが悪いわけでもない。
大概の怒りは、
「自分が大切にしている何かが侵害されている」
というシグナルであり、非常に重要な感情だ。
不公平に怒るのは、公平を大切にしているからかもしれない。
無責任な行動に怒るのは、責任を大切にしているからかもしれない。
仲間を傷つける行為に怒るのは、仲間を大切にしているからかもしれない。
だから、怒りが出たときに、
「怒ってはいけない」
と抑え込む必要はない。
むしろ、
「自分は今、何を守ろうとしているのだろう?」
と考えてみる。
すると、怒りの奥に自分が大切にしている価値が見えてくる。
成熟とは、怒りがなくなることではなく、怒りを情報として扱えるようになることなのかもしれないなと思う。
慈愛と許容は違う
そして、相手を理解することと、相手の行動を許容することも違う。
仮に、ある人が意図的に仕事をせず、嘘をつき、周囲に仕事を押し付けながら給与だけを受け取ろうとしているのであれば、
「それは許容できない」
と判断していい。
成熟した人だから、すべてを許さなければならないわけではない。
違いがあるとすれば、
「こんな人間はいない方がいい」
という悪意から判断するのか、
「この行動を組織として許容し続けることは、他の社員に対しても、会社に対しても、本人に対しても適切ではない」
と判断するのか、ということだ。
判断の厳しさは同じでも、そこに悪意がある必要はない。
「言葉を選ぶ」とは、本音を隠すことではない
ここまで考えると、「言葉を選ぶ」ということの意味も変わってくる。
言葉を選ぶことは、本音を綺麗な言葉で覆い隠すことではない。
むしろ逆だ。
表面に出てきた反応から、さらに深い本音まで降りていくことなのだと思う。
「給料泥棒だ」
と思った。
そこで止まらず、
「なぜそう思った?」
と自分に聞く。
「成果と給与が釣り合っていないから」
「なぜそれが嫌なのか?」
「他の社員との公平性が失われるから」
「自分は何を望んでいる?」
「頑張っている人が正当に報われる組織にしたい」
「では、本当に相手に伝えたいことは何なのか?」
そこまで降りれば、
「現在の成果と期待している役割には大きなギャップがある。この状態を継続することは、チーム全体の公平性という意味でも難しい。どう改善するかを話したい」
と伝えられる。
これは本音を薄めたのではない。
むしろ、
「給料泥棒」という表層的な本音から、そのさらに奥にある本当の本音まで辿り着いた
ということなのだと思う。
本音は隠さない。しかし、反応はそのまま出さない
だから、率直なコミュニケーションについて、今のところ自分はこう考えている。
本音は隠さない。
しかし、反応はそのまま出さない。
トゲが出てきたら、そのトゲを否定する必要もない。
「こんなことを考える自分はダメだ」とする必要もない。
その代わり、そのトゲの根っこまで降りていく。
自分は何を守りたいのか。
何を大切にしているのか。
本当は何を良くしたいのか。
そして、そこまで戻ったところから言葉にする。
もし、その瞬間のStateではそこまで戻れないのであれば、無理に話す必要はない。
言わないのではなく、「今は言わない」。
Stateを整えてから、改めて伝えればいい。
Stageが上がれば、こうした変換そのものが少なくなっていくのだろうと思う。
しかしStageは一朝一夕には変わらない。
だからこそ、Stateを整え、自分の意図を確認し、言葉を選ぶ。
そして、それを繰り返していく。
もしかすると、その実践そのものが、長い時間をかけてStageを育てていくことにもつながるのかもしれない。
まとめると、率直さとは、思ったことをそのまま言うことではない。
自分の中に生まれた反応を辿り、その根源にある意図まで戻り、そこから話すこと。
それこそが、本当の意味での率直なコミュニケーションなのだと思う。
私も自分の中に言葉のトゲを見つけた時は、立ち止まり、私自身が本当に望んでいることを明確にしようと思う。
また、相手の言葉にトゲを感じた時は、相手が本当に望んでいることを知ろうと努力しようと思う。
環境が変わる時こそ、一人一人がStateを整えることや、そのトゲの奥にある「善意」を互いに見つける努力をしたいものだ。
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