
PMとエンジニアが越境しながらつくった新規タイトル開発の裏側
今回は、新規タイトルでPMを務めるChinoさんと、ネイティブエンジニア兼チームリーダーのEgamiさんによる対談をお届けします。
限られた期間の中で、どのようにして各セクションを繋ぎ、完成度を高めていったのか。開発における環境づくりからアセット管理、タスクフォースによる体制整備、そして事前登録に向けたストア審査対応まで、2人の挑戦と開発中の意識を軸に、開発の裏側に迫ります。
異業界出身PMとエンジニアリーダー
2人の挑戦と開発中の意識
―自己紹介をお願いします。
Chino
PMのChinoです。前職はゼネコンで経理をしていました。入社時から新規プロジェクトに所属しており、マイルストーンの設定や不具合チケットをいつ対応するかの判断、リリース前のクオリティチェックなどに携わっています。
Egami
ネイティブエンジニア兼チームリーダーのEgamiです。Chinoさんと同じ新規タイトルに所属しています。プロジェクトには初期から参加していて、最初は実装から入り、チームが大きくなった現在はタスク管理やマネジメントを中心に業務を行っています。
―Chinoさんは非ゲーム業界からの中途入社だったんですね。知識や温度感など、どうやってキャッチアップをしましたか?

Chino
Egamiさんになんでもかんでも聞いていました。そこで8割くらいは理解できるんですけど、2割くらいはすぐに理解できなくて。一回それを飲み込んで、次に会ったときに「あれってこういうことですよね?」と話すことで、また一段理解を深める、というのをずっと繰り返していました。
「わからない」とおどおどするのはPMとして頼りないので、勉強を続けながら、周りには「わかってる」という雰囲気は出すようにしていましたね。完全に知ったかぶりですけど(笑)。
Egami
でも、Chinoさんはその“知ったかぶりの仕方”がすごく上手かったと思います。何かを「知らない」と言うことは思った以上に勇気のいることですし、Chinoさんは聞いたあとに自分で一回調べて、再度話を聞きに来てくれるんです。たったそれだけのことかもしれませんが、「この人は話が通じるな。信頼できるな」と思いましたね。
―ChinoさんはPMとして、開発現場でどのようなことを意識していましたか?
Chino
f4samuraiの場合、ゲーム開発に関わるエンジニアはネイティブ、フロントエンド、サーバーサイドの3領域に分かれています。それぞれ役割が違うので、どうしても得意・不得意が出てきます。「これはクライアントでやるべき」「これはフロントだけでいい」といった判断が曖昧になってしまうと、完成度の低いゲームになってしまいます。なので、セクション同士で積極的な連携が取れるように調整することを常に意識していました。

一方で、デザイナーはクオリティを追求する方が多いです。それ自体はすごくいいことだと思いつつ、プロジェクトとしては締め切りもあるので「ここまで」と線を引く役割を担っていました。エンジニアとデザイナーの直接やり取りだと、どうしても気を遣ってしまい言いづらいことも多くて。そこを中立な立場の僕がサポートすることで、開発を前に進めるようにしていました。
でも、最初は全然うまくいかなくて……。誰かが悪いというわけではなく、新規開発特有の難しさが原因だったと思います。なので、僕はPMとしてそこを整理していった感じですね。
Egami
新規開発だからこそ、進行管理はなかなか肝を冷やしたことも多かったよね。
Chino
そうですね。「本当にこれでいいのか?」「もしダメだったら……」という不安はずっとありました。制作も締め切りに間に合わないことが日常茶飯事で。なので「この日までに完成しなかったら僕の首が飛びます」みたいなことを毎日言い続けていました(笑)。
―昨今のタイトルはリッチな表現をしているものが多いですが、Egamiさんは今回の新規タイトルでどのような表現に挑戦しましたか?

Egami
最初はゲーム市場のトレンドを確認し、特に2Dでの表現を追及していきました。最近の傾向として、Live2Dでキャラクターがしゃべったり、アニメのように動いたりと、表現のレベルが上がっています。それに埋もれずに豊かな表現を届けるために、CEDEC(※)の資料を見たりと、徹底的に調査をしました。その上で「豊かな表現をするための環境を作る」というのが最初のチャレンジで、実装に落とし込める状態まで持っていきました。
※…毎年開催されている国内最大級のゲーム開発者向け技術カンファレンス
―土台を作った上で、実際のクオリティラインはどうやって上げていったのですか?
Egami
シンプルにやることを増やす、というより増やすしかないと言った方が正しいかも知れません。表現を増やせば、それに対応する実装も増えますし、表示パターンが増えれば、データも増えます。管理対象も関わる人もそれに比例して増えていって……と全部が雪だるま式に膨らんでいくんです。
最初は、僕らがデザイナーと直接やり取りしていたのですが、途中で完全にパンクしまい、誰が何を担当しているのかわからない状態になってしまっていました。
そこにChinoさんが入ってきてくれて、「誰に連絡すればいいのか」「誰が決めるのか」を整理してくれたおかげでかなり開発が前に進むようになりました。“進行状況を整理する”というシンプルな話なのですが、これをやってくれる人がいないと本当に回らないと実感しました。
“共通言語”がチームを変えた
アセット管理と連携の裏側
―今回、2Dモーションのゲームということもあってアセット管理や連携がかなり重要だったと思いますが、どのように管理していましたか?

Chino
全員の頭の中にはそれぞれイメージがあるけれど、それが共有されていないという状態が続いていたので、最初はスプレッドシートで構造を整理していました。A〜Dの4段階に分けて、「どこで使うのか」「どういうモーションなのか」を定義していったんです。画面の横から入ってくる演出なのか、ループするのか、そのまま捌けるのかなど、それぞれの粒度で分解して、振り分けを行ってから一気に開発が加速しました。
Egami
共通言語として、チーム内で「これはAだ」「それはCだ」みたいな会話が通じるようになりましたね。共通言語を浸透させるのはなかなか難しいんですけど……。
Chino
僕の声がでかいからですね(笑)。でも、構想自体はEgamiさんたちネイティブエンジニア側が作ってくれていて、「それが実現できるかどうか」の判断もしてくれてとても助かりました。
―Live2Dの管理はどうしていますか?
Chino
1つのキャラクターでも、ベースとなる素体があって、そこに衣装や傷などをパラメータで付け替えていく仕様……つまり、「一体のキャラ」ではなく「無限にバリエーションが増える構造」になっています。なので、誰が見てもわかるように画像や一覧で可視化して、「このキャラはこういうスキンで、こういうパラメータ」というのをチーム全体で認識できる状態にすることは意識していました。
Egamiさんは素材の多さに対応するためにツールを作ってくれていましたよね?
Egami
そうですね。イラストを作って、Live2DやSpineで動きをつけて、それをUnityで動かすというのが一連の流れになるのですが、その時に、最終的な形(A〜D)に変換する必要があるので、そのためのツールを用意しました。あとは、Unity上で確認できるツールも作っています。一番大きいのは、アドベンチャーパートの制作ツールですね。過去タイトルにもこのツールはあったんですけど、Unityの新機能であるタイムライン機能を使って今回は一から作り直しました。
あと大変だったのは、「AでできることはBでもやりたい」と必ず言われたことでしょうか……。
Chino
あ~、ありましたね。
Egami
A・B・C・D全部で同じことをやりたい。さらにそれをADVでもやりたいという要望がとても多くて。なので、基礎の仕組みは全部共通化しました。例えば、ポストプロセス(画面効果)をどのシーンでも適用できるようにして、ツールでも確認できるようにしました。正直、社内で使うツールなので、実装としては歪んでいる部分もありますが、「どこでも同じように使える」というのは結果的に効果的だったと感じます。
ただ、必要に迫られて後追いで作った部分も多く、デザイナーに負担をかけてしまった部分があるので、そこは反省ですね。
仕組みと属人のバランス
試行錯誤の末にたどり着いたチームの形

―属人的ではなく、仕組みでうまくいった事例はありましたか?
Egami
正直、最初からうまくいったものはないです。最初の半年間は、各セクションがやったことをスプレッドシートに書いて、毎週共有するようにしていましたが続きませんでしたよね。
Chino
書くのも見るのも面倒で、効率的ではなかったですよね。次に、リリースから逆算して「何をいつまでに実装するか」を全部洗い出して表にして、チーム全体で可視化できるようにする方法も試しました。ただ、これも追いかけることが大変で、長続きはしなかったです。
最終的には、Notionでチケット単位の管理に落ち着きました。それも「何をいつまでにやるか」という全体像と見比べながらチケットを管理する必要があるので、革新的な仕組みとは言えない状態です。ただ、一旦はそれがベストだなと思うので、チーム全体で共通認識にして、リリース後の運用でも使い続けています。
Egami
仕組みと言えるかわかりませんが、「タスクフォース」というチーム分けをして、担当業務を明確化したのは効果があったように感じています。
Chino
僕もそう思います。大きい機能がなかなか終わらないときに、「この人たちはこの機能だけやる」という小さいチームを作りました。他のタスクは一切振らず、外からの差し込みも基本的に遮断して、担当範囲に集中してもらうという小規模チームです。それをチーム全体が知っている状態にすることで、「この人に別の仕事を振るのはやめよう」という空気を同時に作ることができました。
Egami
任されたチームが範囲の中で責任を持つので、逆に前倒しで終わらせることもあったりして。「ここはこのチームがやっている」というのが見えることで、無駄な衝突も減りましたし、タスクが明確に見えることで、やっと全体像が共有されるようになった感覚がありました。
あと、タスクフォースごとにリーダーが立つようになったので、全体の管理が楽になりました。ネイティブエンジニアは12〜13人いたので、全員を僕一人で見ていたらそれだけで1日が終わってしまいますが、タスクをお任せして、各リーダーからフィードバックをもらう形にすることで「問題ないね」で回せるようになりました。
もちろん、自分のタスクもありますが。全部を抱え込むのではなく、誰かに任せることで自分がボトルネックにならず円滑に業務が遂行できる状態を作ることができたのは大きかったですね。
―逆に属人的な部分で工夫したところはありますか?
Egami
属人的になると、良くも悪くも本人のスキルによるところが大きくなるので、マニュアルや仕組みで解決がしづらいんですよね。気を付けていたこととしては、相手の立場に立って考える、事前に情報を集めるなど、基礎をしっかりとやるという意識を持つことですね。
Chino
お願いの仕方は大事かなと思います。単純に「やってください」ではなくて、「これをやるとこういうメリットがあって、こういう背景があって」というのをしっかりと伝えることで、受け取る側の温度感は全然変わってくると思います。同じ作業でも「意味がわからないままやる」のと「意味を理解してやる」のでは、クオリティもスピードも全然違いますね。

Egami
あとは、やらない判断も結構大事でしたよね。
Chino
大事でしたね。制作・開発期間に限りがある以上、やりたいと思ってもすべてはできないため、戦略的に「これはやらない」と判断すべきことがたくさんありました。
目指していたクオリティラインは4〜5年かけてできるくらいの規模感だったのですが、実際の開発期間は2年半程度しかなく、全部を実現しようとすると破綻してしまいます。なので、「やらない」判断と同時に、「どこを絶対に落とさないか」を決める必要がありました。
例えば、「ガチャで出てくるカードは動かないと寂しいから実装する」けど、「長押ししたときの細かい挙動は削ってもいい」。そうやって「やる」「やらない」を常に天秤にかけながら進めていました。内部でも「これやりたい」というのはいっぱい出てくるんですけど、「今じゃない」という判断は結構していました。
Egami
加えて、「なんでこれやらないの?」という不満が出ないように、やらないと決めたことをきちんと共有するのも大事でしたね。
Chino
そうですね。できるだけ「今はこれを優先しているからこっちはやらない」という理由説明は伝えるようにして、チーム全体が納得して進むように意識はしていました。
短期間でストア審査へ
事前登録までの舞台裏

―開発中、特に大変だったことを教えてください。
Egami
事前登録のタイミングですね。ちょうどChinoさんが入ってきてくれた時点では、機能開発の真っ只中で、ゲームアプリとしての成立はまだまだ先でした。でも、「翌年には事前登録を開始する」というスケジュールで進めていたので、そこから逆算して、ストア審査を確実に通過できる状態に仕上げなければなりません。短期間でそこまで持っていくのは、想像以上にハードな道のりでした。
Chino
実装ももちろん大変だったんですけど、プラットフォームごとの決まりが多くて、そこを理解してクリアしていくのにも苦労しました。Aはこれを入力しないとダメ、Bはこの書類がないと通らない、みたいな。そこはすでにリリース・運用している他プロジェクトに相談にのってもらいながらなんとか乗り越えました。
―短期間でストアに出すまでに、具体的に何をしましたか?
Egami
シンプルにひたすら作るというベースはありつつ、一番大きかったのは「完成していないように見せない」ことかもしれないです。例えば、UI上はあるけど押しても何も起きない状態のものは隠したり、プロトタイプとして作っていたものを一旦そのままアプリの画面ににつけて、最低限の動きにしたり。
Chino
一度、チーム全体で確認会をやって「どこを見せる見せない」の洗い出しもしました。フロントで隠す、ネイティブ側で出さないなど、細かく決めていきました。
Egami
ただ、そこは結構揉めましたね。やっぱりエンジニアとしては、最終的にいらなくなる作業には拒否反応が出るものです。でも、そこでChinoさんは強かったですね。「リリースのためには必要なんだ」ってかなり強い力で押し切っていました(笑)。
Chino
事前登録の日程をずらせず、完全に失敗できない状況だったんです……(笑)。ただ、事前登録後にアプリとして動くようになってから、一気に進みが早くなった感覚がありました。「出るんだ」というイメージが、チーム全体に湧いたというか。
あの瞬間が、初めてチームとして一体感が生まれたタイミングだったかもしれないです。
Egami
単純にうれしいですよね、自分たちが作ったものが形になるって。それまで結構しんどいことも多かったですけど、「あ、出るんだ」と思えた瞬間にだいぶ報われた感覚はありました。
より多くのユーザーへ楽しさを届ける
海外も視野に入れた次の挑戦

―今後、エンジニア人材もさらに必要になると思いますが、一緒に働きたいエンジニア像はどんな人ですか?
Egami
コミュニケーション能力が高い人だとうれしいですね。他チームとの連携やエンジニア同士の橋渡しなどの役割を担ってほしいですし、「任せたい」と思ってもらえることは非常に大事かなと思います。
もちろん、技術的に強い人も歓迎です。新しい技術を持ち込んでくれたり、「こうすればもっと良くなるんじゃないか」とプロジェクトを前に進めてくれたりする存在は一緒に働いていて楽しいですね。
あと、これはエンジニアに限らずだと思いますが、“明るい人”がいいです。理由があって厳しいのは全然いいんですが、理由もよくわからないまま頑固だったり、常に否定的だったりする人がいると、チーム全体がしんどくなってしまいます。そういう意味で空気を悪くしない人、前向きに関われる人がいるといいなと思います。
―最後に、今後取り組んでいきたいことについて教えてください。
Chino
まずは、リリースした新規タイトルが、より多くのユーザーさんに楽しんでいただけるように運用をがんばっていきたいと思います。様々な方に楽しんでいただけるよう、これからも改善を続けていくつもりです。
Egami
大量の素材の作成にリソースを割いた分、バトルの部分ではもっとできることがあると考えているので、今後はそこをしっかり補強していきたいです。
それから、2Dタイトルの表現が飽和してきている中で、今後出していくカードやコンテンツが市場に埋もれないようにするために、さらに表現力を磨いていく必要があると思っています。見た瞬間に「これいいな」と思ってもらえるような豊かな表現や体験を作り上げて、プロジェクトを後押しできるような開発をしていきたいと思っています。
Chino
将来的に目を向けていきたいのは海外です。海外のファンの方々にもお届けし、楽しんでもらいたいと思っています。
そのための仕組みや体験設計も含めると開発の範囲がかなり広がりますが、それができるタイトルとメンバーだと思っているので、プロジェクト一丸となって進化を続けていきたいです。

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