【歌で覚えた】やりきれない――ザ・フォーク・クルセダーズ『悲しくてやりきれない』
1 やり遂げることができない。
2 がまんできない。耐えられない。
辞書は「やりきれない」をこう説明する。
私がこの言葉を初めて耳にしたのは、ザ・フォーク・クルセダーズの『悲しくてやりきれない』だったと思う。幼稚園か、小学校に入ったばかりの頃だ。
家にはこの曲のレコードがあった。
A面が『悲しくてやりきれない』、B面が『コブのない駱駝』。
どちらも聴いた記憶はあるが、繰り返し針を落としたのは圧倒的に『悲しくてやりきれない』のほうだった。
私はこの曲で「やりきれない」という言葉を覚えた。
そして不思議なことに、その意味が分からなかったという記憶はない。
悲しくて悲しくて とてもやりきれない
このやるせないモヤモヤを だれかに告げようか
幼い私は、この歌詞を聴きながら、
「そうそう、やりきれないよねえ」
と思っていた気がする。
もちろん、辞書の意味を知っていたわけではない。けれど歌の流れの中で、「やりきれない」がどんな気持ちを指しているのかは、ごく自然に受け取っていたのだと思う。
改めて歌詞を見返していて、もう一つ気づいたことがある。
私は「もやもや」という言葉も、この曲で覚えたのかもしれない。
最近は「モヤる」という言葉をよく耳にする。
少し調べてみると、「モヤる」は三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2018」で第2位だったそうだ。「もやもや」は、SNSの普及とともに再び注目されるようになったらしい。
子どもの頃に何気なく耳にしていた言葉が、何十年もたってまた広く使われるようになっている。
そんなことを知るのも面白かった。
そして、この曲を思い出しながら、もう一つ気づいたことがある。
昔は今ほど簡単に言葉を調べられなかった。
分からない言葉が出てきても、そのたびに辞書を引くわけではない。
歌や小説やテレビの中で何度か出会いながら、「たぶんこんな意味だろう」と受け取っていた。
私にとっての「やりきれない」も、そんな言葉だったのだと思う。
そして、その理解は案外間違っていなかった。
サトウハチローの歌詞は美しい。
「胸にしみる 空のかがやき」
という歌い出しから、もう詩の世界が始まっている。
サトウハチローといえば『リンゴの唄』や『ちいさい秋みつけた』などで知られるが、この『悲しくてやりきれない』もまた、多くの歌手に歌い継がれてきた名曲である。
私はこの歌で「やりきれない」という言葉を覚えた。
子どもは言葉を学校だけで覚えるわけではない。
家で流れていたレコードやラジオ、ふと耳にした歌の中からも、少しずつ言葉を受け取っていく。
そうやって覚えた言葉は、意味を暗記したというより、生活の中にすうっとしみこんでいった。
そう考えると、私の中には今も、歌から教わった言葉がたくさん残っているような気がする。
追記
『悲しくてやりきれない』は多くの歌手にカバーされている。中でも私が好きなのが矢野顕子版だ。原曲とはかなり雰囲気が違うので好みは分かれるかもしれないが、この少し不思議な世界観もまた、この曲の魅力をよく伝えていると感じる。
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