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マンハッタン・トランスファー『Spice Of Life』――白馬の夏と、80年代の輝き

先日、フォローしている方々の記事を読んでいて、思わず手が止まった。

『A Nightingale Sang in Berkeley Square』
(邦題:バークリー・スクエアのナイチンゲール)

という文字が目に飛び込んできたからだ。

わあ、懐かしい!

気がつくと私は、「マントラ版が大好きでした」とコメントを書き込んでいた。

マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer)のことを、昔は仲間内で「マントラ」と呼んでいた。今もそう呼ぶのだろうか。

あれは大学一年か二年の夏だったと思う。
軽音楽サークルの合宿で長野県の白馬村へ行った。

白馬といえばスキーやスノボを連想するが、夏場の運用を考えてか、実は音楽スタジオを持つ宿泊施設が幾つかあるのだ。

合宿がどんなものだったかは正直あまり覚えていない。

どんな宿だったのか。
スタジオはどんな設備だったか。
何人部屋だったのか。そこはもう曖昧だ。

廊下でふざけてみんなで撮った写真は今もふと見返すことがあるが、
当時の記憶は戻らない。

でも、私は一つの場面だけは妙にはっきり覚えている。

夜だった。かなり遅い時間だったと思う。
もう寝ている仲間もいたかもしれない。

私と友人は小さな声で話していた。

ラジカセから音を流していたのか、それともイヤホンだったのか。
そこは思い出せない。

ただ、流れていた曲だけは覚えている。

『A Nightingale Sang in Berkeley Square』。

なんてすてきな曲なんだろう。
かっこいいね。

私たちはそんな話をした。

そして、

「コード採れるかな」と挑戦してみた。

結果は惨敗だった。ものの五分ほどで諦めてしまった。当時の私たちには(いや、今も?)難しすぎたのである。

その友人とはずっと交流が続いている。年に何度か会う大切な友人だ。

けれど不思議なことに、この思い出について話したことは一度もない。彼女が今でもあの夜のことを覚えているのかどうかは分からない。


そんなことを思い出しているうちに、もう一曲が頭に浮かんだ。

これも同じくマンハッタン・トランスファーの『Spice Of Life』である。

私にとって、この曲は80年代そのものだ。

キラキラ。
ギラギラ。
ゴージャス。

大きな肩パッドの入ったジャケット。
ふわりと膨らんだパーマのロングヘア。
ブルーのアイシャドウ、リップも濃い目の派手なメイク。

あの時代のいろいろなアーティストの、そんな姿が浮かんでくる。

シンセサイザーの輝くような音。
ホーンセクションの華やかな響き。

都会的な大人の世界がそこには詰まっていた。

もっとも、私が夢中になっていたのは、肩パッドや派手なメイクではない。マンハッタン・トランスファーの見事なコーラスワークだった。

ボーカルだった私は何度も真似して歌ってみたが、難しすぎてなかなかうまく歌えなかった。


この曲には、スティービー・ワンダーがハーモニカで参加している。

そういえば私は、ユーリズミックスの『There Must Be an Angel』のスティービーのハーモニカも大好きだ。あの音色には、どこか人の声に近い温かさがある。そして、聴いただけで、「あ、これ、スティービーだ」とわかるのもすごいよな、といつも思う。

今回あらためて調べてみて発見があった。

『Spice Of Life』の作曲者はロッド・テンパートンだったのである。

見覚えがある名前だった。
当時もレコードのクレジットで目にしていたはずだ。

誰だっけ、と思ったら、何と(!)マイケル・ジャクソンの『Rock With You』や『Thriller』を書いた人だった。えーっ、そうなの!?

さらに、一説には『Spice Of Life』そのものも、もともとはマイケル・ジャクソン向けに準備されていた曲だと言われているらしい。

そう言われると、マイケルが歌う姿がすごく想像できてしまう。たしかに、マイケルにぴったりの歌じゃないか!!

そして思わず笑ってしまった。

私の敬愛するパティ・オースティンにも、このロッド・テンパートンは深く関わっていた。すっかり忘れてしまっていた。

パティ・オースティン。
ジェームズ・イングラム。
マンハッタン・トランスファー。
マイケル・ジャクソン。

バラバラに好きだった音楽たちである。

当時はただ「好きだな」と思って聴いていただけだった。何十年もたってから振り返ると、自分の好きだった音楽の間につながりが見えてくる。

それもまた面白い。

以前、松原みきの『真夜中のドア』やロバータ・フラックの『Feel Like Makin' Love』を学生時代に歌っていたと書いたが、それはこの白馬合宿からさらに1~2年後のことだ。

そうそう。
私はあの白馬の夜、マントラを聴いていたのだ。

たった一つの記事との出会いから、忘れていた遠い夏の夜が戻ってきた。

今度あの友人に会ったら、聞いてみようか。
「バークリー・スクエアのナイチンゲールのこと、覚えてる?」

もっとも、答えはどちらでもいいのだけれど。
だって、私にとっては、あの夜はもう十分によみがえったのだから。


(おまけ)
私が好きだったもう一曲。


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