めいいっぱい深呼吸する。
「あっれぇ〜?たくやくん〜?めっちゃ懐かしいじゃ~ん♪元気ぃ?」
高身長・爽やかイケメン・頭もいい
好条件の男が突然声をかけられて振り向いた。
どうせ今頭の中では卒業アルバムを捲るように数々の女を検索してる。
「え…あー…ごめん!どこかで話したっけ?」
わからないとなると素直に下手に出る。好条件キープの彼なりの処世術に頭が下がる。
「あー、だいじょぶ、だいじょぶ。アタシそんなに話してないから記憶にないのもとーぜん。アリサって言うんだけど、急にごめんねぇ。友達が“たくやくん”って呼んでたから呼びかけちゃった♪」
私の自己紹介にホッとした表情の彼は、私の腰に手を回して近づいた。
「こんな可愛い子、近くにいたら俺から話しかけてるけど」
あー、やっぱり軽いなぁ……絵に描いたように軽い。
なんでこんなやつに………
「アタシも、実はたくやくんと話したかったんだ〜♪」
腰に回された手を気にすることなく、彼を見上げる。
負けるものか。
私は………
「ん~~、じゃ、これからどうする?近くで適当に食べる?」
下心の塊になっている彼が怖い。その怖れをひたすら隠し、私は彼にしなだれかかった。
「実はこれから家に帰るとこだったんだよね〜。自炊もたまにはしないと、お金ヤバイし」
「お、さっそく手作り食べれんの?ラッキーじゃん、オレ」
何故家に上がるのが当然の前提なんだ。
こちらとしては好都合なんだけれど。
適当な会話を交わし、家に上がりこんだ彼は図々しく部屋の奥へ座った。
私は料理を作り出す。
部屋を褒められたり
趣味を聞いたり
…………あぁ、
懐かしいなぁ………
「ねぇ、たぁくん」
話しながら近づいてきた彼が私に抱きつく寸前、私は振り返って彼に向かって行った。
「え???」
「たぁくん、私、ずっとたぁくんの事信じてたんだよ?」
「え……あ………」
声を戻し、話し方も戻す。
顔はもう戻せないけど、それでも彼には伝わってくれたらしい。
幽霊でも見た様な顔をして私の顔を見る彼のお腹には、私が深く深く突き刺した包丁が飾られている。
「あ、あさ、み………」
「嬉しい。覚えててくれたんだ。たぁくん、他の女とばっかり仲良くしてるから、私の事忘れたんだと思ってたの。たぁくん、私ね、たぁくんが他の女と仲良くしてるの見るの、もう嫌なの」
彼はもう床に倒れてしまって私の話など聞いていないのかもしれない。
「また、私の話聞いてくれないの?私が話すの、そんなにキライ?私は一生懸命、たぁくんのスキに応えて身体をあげていたのに?」
動かない彼を確認した途端、急にお腹が空いているのを感じた。
空腹を感じるのはどのくらいぶりだろう。
彼の白っぽいクリーム色のシャツに、滲んでいる。
その様子を見て。
私はミラノ風ドリアを食べに、サイゼリヤに行くことにした。
もう一つあります。
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