【創作大賞感想】『この先は、無しだ。』極夜さん
※この話は極夜さんの『この先は、無しだ。』の話を読んで感じたことを、私なりに考えた二次創作となります。
作者やファンの方との解釈が違う部分もあるかとは思います。
創作大賞2026 恋愛小説部門 応募作品
下記の私の記事にて、応募して頂いた作品となっております。
⚠️今回、原作の特徴上、色気のあるシーンや倫理観が揺らぐシーンが出てきますので、苦手な方はご自愛の上、それぞれの対応をお願い致します。
⚠️原作を踏まえての二次創作の構成・進行となっておりますので、この記事を読んだだけでは分かりにくいかと思われます。
是非、極夜さんの『この先は、無しだ。』を読んだ上で二つの作品の境界線を愉しんで頂ければ幸いです。
線を引く。
公の顔合わせよりも先に二人で会いたいと、指定された高級料理店の個室。
どこか遠い世界のお店だと思っていた場所に、来るとは思わなかった。
「あの……予約している、あ……えっと、浅川は……」
「浅川様ですね。お先にいらっしゃいますよ。ご案内します」
個室の前まで案内され開かれたドアの先には、これから秘密の関係が約束されている相手がいた──
──数日前──
「アサミ、決まったわよ!ドラマの主役!」
モデルから始まった私の、芸能生活念願のドラマの主役。
聞けば2時間ほどの単発ドラマの主役という話だったが、相手役は役者としての知名度と立場が不動のものになってきた、15才年上の俳優だった。
ネックは……
「……たし、かに、濡れ場のシーンもするとは言いましたけど……」
相手役とは別の俳優、私と同じくらいの若手俳優との濡れ場、つまり色気のあるベッドシーンのある原作だ。
実は私もこの原作は読んだことがある。
だから話を聞いた時の一番の懸念はそこだった。
「大丈夫。そこはスポンサーの影響でソフトめになるそうだから」
問題無しというようにウインクをされる。その軽い雰囲気に私は辟易した。
この世界は嘘が多すぎる。
覚悟して入ったものの、話をされて流せるほどまだ慣れてはいない。
「原作の人は大丈夫なのかな?意外とそこがこだわりだったりすると、あとが拗れるじゃない?」
「もー……アサミが気にするところじゃないの。……確かに、あまり大きな話題になると煽りを受ける事もあるけどね。今は、主役に集中」
マネージャーから励まされ不貞腐れていたが、マネージャーへ掛かってきた一本の電話が私のその後の芸能生活を変えることとなる──
祐 真
貴 里
・ ・ C
・ ・ A
・ ・ S
浅 ア T
川 サ
省 ミ
二
「はじめまして。“アサミ”と申します。この度は、ドラマの相手役、よろしくお願いします」
通された個室のテーブル席について、先にお酒を飲んでいたのはこの度のドラマの相手、祐貴役の浅川省二だった。
「よろしく、アサミさん。いや、これからは“真里さん”と呼ぼうか。僕のことは“祐貴さん”って呼んでよ」
手のひらで対面の席を指し示し着席を促す。……浅川さんは役作りへのこだわりが強いとは聞いていたけれど、単発ドラマでも手を抜かないとは思わなかった。
……彼も、やっと世間一般での知名度が定着してきたばかり。まだまだ、うかうかしていられないのだろう。
そうなると私なんて知名度の“知”にすら到達していないのだから、彼から色々学ぶのも悪くはないのかもしれない。
◇
何回かの密会と、ドラマの撮影の繰り返しが続く。
気がつくと、直樹役との最初の色気のあるシーンの撮影も無事に終わっていた。
もうすぐ、2回目でさらに激しくなるシーン撮影に入る。
ただその前に、祐貴の心理に迫るシーンの撮影が待っていた。
「メイク入ります」
メイクさんに連れられ、ロケバスへと乗る。
今からお酒に酔った真里を祐貴が送っていくシーンの撮影となる。
頬や首筋に赤みを出し……今から、祐貴の、浅川の視線に晒されるのだ。
……私は、今は真里。
深く酔っていて、視線には気づいてない。
「いつもメイクさんには驚くよ。本当に酔っているみたいだね」
浅川さんが私の手を取り、優しくエスコートする。私は導かれるままに店の会計の場所で、祐貴さんと共に撮影開始の声がかかるのを待っていた。
「酔っている真里さんも、可愛いよね」
耳元で、でもまだ親しみと呼べる距離で祐貴さんが囁く。
私は微笑んで、わざとふらつくフリをする。
「この間飲んで話していた時で精一杯です。あれ以上お酒が進むと、可愛くなくなりますよ、私」
祐貴さんが微笑み返して、ふらついている私の肩を引き寄せた。
「可愛くない真里も、見てみたいよ」
今度は僕も飲もうかなと囁かれた言葉に昂ぶった気持ちをそのままにして、撮影が始まった──
◇
「今回のスペシャルドラマはなんと、実力派俳優の浅川省二さんと、モデルから俳優業へと活躍の場を広げている若手女優、アサミさんとの共演とのことです」
ワイドショーのコーナー内で流れる番宣のトーク撮りが始まった。
浅川さんとの“密会”も続いていて、このトーク撮り中もうっかりと距離が近くなりそうでそれを「サービスショット」として演出する方へと意識を集中させていた。
おかげで、世間の声は「原作どおりの二人の雰囲気がドラマを観る前からすごい」と話題になっていた。
「“浅川さん”、先ほどの撮影、少し距離が近すぎじゃなかったですか?……これ以上、浅川さんのファンの批判は受けたくないですよ?」
あくまでも苦笑しながら、浅川さんへと進言する。
番宣撮りが終わって、私たちはこれからドラマの撮影へとスタジオへ向かうため、エレベーターに乗っていた。
「ドラマ撮影ではないのにね。世間の声が良くて、つい調子に乗ってしまう。ごめんね」
浅川さんも同じように苦笑して、私へと軽くお詫びをしてくれた。
見つめ合い、探り合う。
浅川さんの目が、私の唇から、顎、首筋、そして胸へと落ちるのをずっと見ていた。
「もう、着きますよ」
私の腰へ手を回そうと動いた彼を制して、私はエレベーターから降りた。
密会を繰り返して、わかった事がある。
私は、真里の心理がわからない。
浅川さんとの役者談義は楽しい。時々起こる色っぽい話も、これからこの芸能界で生きていくには必要なスキル習得だろう。
だけど──
対して浅川さんは、“祐貴さん”にどっぷりと浸かっているようだった。
……いえ、むしろ祐貴という人間のより内側なのかもしれない。
◇
直樹との2回目の、そして最も激しい濡れ場となるシーン撮影のためにスタジオに入った時だった。
「……浅川さん?」
私の戸惑いを察したように、監督が私の前に現れた。
「ごめんね、アサミちゃん。浅川くんがどうしてもって。私はアサミちゃんの事務所の意向で人払いしたい事をきちんと伝えたんだけど、浅川くんに『僕はアサミさんに演技指導もしているから、それの一環だと伝えて欲しい』って言われて……真里が、祐貴の存在を考えながら直樹としている部分を無事に演じられるように。って」
監督の言葉を考えつつ、スタジオの隅でパイプ椅子に座って台本を読んでいる浅川さんを観察する。
この単発ドラマ『この先は、無しだ。』の監督は以前この放送局で漫画原作ドラマを監督した女性監督だ。そのドラマでも浅川さんは主演の相手役だった。しっかりした人間関係を持っているはずの二人の関係性も考えつつ、このドラマの演出も考える。
「わかりました。私は大丈夫です。事務所側も、浅川さんならクレームにはならないと思います」
監督が私の腕を取り、耳打ちする。
「アサミちゃん、大丈夫?浅川くんになにもされてない?……少し、心配で」
「大丈夫ですよ。浅川さんは紳士に私に役者としてのお芝居の話をしてくださってます」
監督の不安を拭うように私はにこやかに答えて、部屋のセットへと足を運んだ──
「──っ──」
漏らす吐息
「は……っ……」
祐貴さん、の、視線
「……き」
助手席での、あの、目
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
カットの声がかかると、女性スタッフがすぐに私にバスローブを着せてくれた。
セットを後にしてスタジオを出ながら、浅川さんが座っていたパイプ椅子へと目をやる。
カットと同時にスタジオから出たのか、もう姿はなかった。
が、キラリと光るものが椅子の足元にある。
近寄って、手に取るとそれは、折れた安物のボールペンだった。
「………………ふふっ」
私はボールペンを持ったまま、スタジオを後にした。
次の日は、祐貴の緊迫のあのセリフの直前の講義のシーンだった。
物語の中の祐貴と同じように、近寄りがたい雰囲気の浅川さん。
ただ一度、私と目が合ったがそれだけだった。
私も、その場にいる誰もが、浅川さんと話そうとはしなかった──
◇
私の撮影はその後のシーンが先に行われた。
クランクアップ予定だったシーンも撮ったが、まだ撮影されていないシーンがあったので私のクランクアップは先延ばしになった。
……浅川さんの体調不良による、クランクアップの遅延。
密会もなく、2週間ぶりに顔を合わせた浅川さんは、初めて会ったときと同じようなスマートさを纏っていた。
「カット!!!」
監督の声が響く。
私は蒼白の顔で、安心した顔で、絶望した表情で、祐貴さんの乗ったレガシィを見送っていた。
「確認はじめます!」
自失の感情が戻らないまま、撮影確認に入る。
「大丈夫、これでオッケーだよ」
温かなコーヒーを差し出して、浅川さんは私に微笑みかけてくれた。
「ありがとうございます。祐貴さん」
微かなつぶやきを聞き逃さず、祐貴は真里の腰に手を回した──
「全撮影終了、クランクアップとなります!お疲れ様でした!」
拍手と花束。
主役として初めて迎えるこの光景に、私は達成感で打ち震える。
「お疲れ様、真里さん。いや、アサミさん」
「お疲れ様でした、浅川さん。短い間でしたが、ご指導ありがとうございました」
控室代わりの会議室へ戻ろうと、私たちはエレベーターで二人きりになった。
今度は逃さないと、浅川さんはすぐに私の腰に手を回した。
先ほどの祐貴さんの、最後の言葉が私の中で反響する。
「距離、近いですよ。祐……浅川さん」
「省二でいいよ。……アサミ、彼らには越えられなかった先に行かないか?」
私は、冷静にエレベーターの階数表示を見ていた。
「浅川さん。……ここまでです」
浅川さんの胸を押す。
エレベーターが指定階に着いた音が鳴る。
はっきりと、私の顔が見えるように浅川さんをまっすぐに見上げた。
「この先は、無しです」
先ほどの撮影時、祐貴さんが言った──浅川さんの演技プランとは違い、私はキッパリと、力強く口に出した。
まるで復讐のように。
まるで追憶のように。
後ろ向きでエレベーターを降りてから、浅川さんに背を向けて控室へと歩いていく。
連絡先も消そう。
私は、やはり最後まで真里にはなれなかった。
だって、妻子ある人なんだもの。
私は、お芝居が上手くなりたかっただけ。
……それだけだよ。
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