うちの義母はミニマリストにはなれない
夫の実家は、むかし家族が多かったので無駄に広い。
夫と付き合うようになってから、部屋数を聞いてみると5LDKだと言う。
居間とダイニングキッチンと、そのほかに5つの部屋(うちひと部屋が仏間)
生まれてからこのかた、賃貸を渡り歩いてきた生粋の借りぐらしには想像もつかない部屋数だった。
わたしに分かるのは3LDKまでよ。
夫が生まれる前に建てられたこの家は、もう40年ちかくも家族を包み込んでくれているのだ。
聞いたかい?
40年だってよ!
夫と結婚して数年。
だいぶ打ち解けてくれたころ、義母が突然鼻息荒く宣言してくれたこと。
「そらちゃん、私いま、断捨離しているからね!」
あ、はい。……なにを?
義母は主語を持たない女だ。
LINEでの連絡も「今作ってるからー!」と1文だけ届く。
ママン、なにができあがるんだい?
我が家は鍋たっぷりに、今チキンカレーをこさえているところだよ。
家じゅうにカレーの匂いが充満して、食べる前から幸せな気分になったころ。
「ごはん持ってきたよー!」と玄関で義母が吠えた。
誇らしく抱えられた鍋の中身は、ポークカレーだった。
そりゃもう、たっぷりの。
そうそう義母の断捨離だ。
わたしは夫の実家の2階にはほぼ登ったことがない。
そして2階には姪の部屋、義父の部屋、義母の部屋の3つがある。
夫が結婚前に暮らしていたのは、1階のダイニングの横の小部屋だ。
バスルームもトイレも1階にあるので、わたしも1階だけ定宿にさせてもらっていた。
2階にお邪魔する用事もなくここまで来てしまった。
そもそも階段は嫌いだ。
何年も夫の家族と付き合ううちに
どうやらこの義実家は、モノを溜め込む習性があるのではなかろうか。
と気づいてしまった。
義父
Amazonの、お買い物大好き!
「子どもの世代に家を遺すため、自分で用意できる修繕道具は全部Amazonとホームセンターで買えばいい」
つまりカネは減り続ける代わりに、モノが増え続けているんですね、パパ!
何も言えない嫁の心の声
義母
思い出溜め込むの大好き!
姪が学生時代に賞をもらった絵画や標語で壁という壁が溢れている。
サイドボードの上は小さい頃の姪の写真やグッズに覆われている。
思い出がいっぱいだなぁとドン引きする嫁。
断捨離するものはたくさんありそうだ。
捨てられるなら全部捨てたいけれど、自分ちじゃないし、そういうわけにもいかんよなぁとぼんやり思っていたところへ、義母はこう言った。
そらちゃん、これからうちのこどもたちが生まれてから成長するまでの写真をアルバムにまとめるね!?
この場合の「うちの子どもたち」は
我が夫である。
そして我が義姉上さまでござる。
場合によってはご姪御さまもお含みになっていらっしゃるかも?
聞けば、義母の部屋には義姉上や夫が生まれてから大きくなり続けている過程を収めたフィルムやらネガやら印刷された写真やらが眠っているらしい。
母は数百枚では効かないくらいの写真の束を、今から年代別、人別、エピソード別でアルバムに整理していくのだと言う。
ママン、多分それ、断捨離のなかでは優先順位高くないぜ。
「片付けるんだろ、捨てろよ全部」
過去にもモノにも頓着のない夫が吠えた。
正月で帰省していた義姉上が見かねて「だってお母さん大変でしょ」とフォローを入れた。
義姉上も過去を振り返って、思い出話しに花を咲かせるタイプではない。
目の前のドーナツをいくつ食べるか?には執着するけれど、家族のことには……
義母は共感されたと思って一瞬顔を綻ばせた。
が、義姉上はなかなかにサッパリスッキリとした、凛々しい気性の持ち主であるからして……
「大変なら捨てちゃえばいいのよ全部」
無情に告げた。
多分義姉上は、本気で義母が大変ならアルバムなんか要らんと思っている。
大変ならやらんでいいよ、という義姉上なりの優しさだ。
だけど、義母には伝わらない。
写真とネガを積み上げる義母の誇らしげな顔が、くしゃりと歪んだ。
「なんだぁ、そっかぁ。アルバム嬉しくないんだねぇ。やってあげたかったんだけどねぇ」
完全なるいじけモードだ。
自分が良かれと思ったことが受け入れられないと、どうにも義母はいじけてしまう。
還暦をとうにすぎても、どこか少女のような幼い可愛さがあるよね、と言っても、家族の誰にも同意してもらえなかった。
そう思っているのはわたしだけかなぁ?
結局この一件以来、義母はアルバムの話しをしなくなった。
まだわたしが登ったことのない階段の奥には、義母の部屋と義父の部屋がある。
断捨離に再着手したという話しはとんと聞かない。
義父は順調にAmazonで工具の買い物を楽しんでいるし、義母は思い出の品をなにひとつ捨てられずにモノに埋もれているらしい。
「両親が亡くなってから片付けるとお金かかるらしいよ」
Instagramのショート動画を夫にLINEを送ると。
夫
「今言ったって、もうわたしたちが死ぬと思ってるの?死んだほうがいいんだー!ってめんどくさいからさ。自分で命の危機を感じてもらわんとどうにもならんかもな」
夫は両親に対してめちゃくちゃ冷静だ。
わたし
「命の危機って不用品に押しつぶされるとか?」
夫
「そこまでゴミ屋敷ではないもんなぁ。病気で入院するとか、そのくらいの弱り方しないと人生の終わりに向けて整理しようって気にもならんのだろ。まあ、ほっとけ」
夫の実家の両親はめちゃくちゃ元気だ。
義父は病院が大好きで体のメンテに余念がない。
義母は風邪さえ引かない超健康体。
わたし
「そりゃあ、先が長いな」
夫
「どうせ未練だらけで大して捨てられないんだ。俺たちでゴッソリ捨てることになるだろうよ」
それは……
それは……
とても楽しそうですよね?
因果関係のないモノを捨てるのはただ楽しい。
スッキリできる。
義父母が要介護状態にさえならなければ、断捨離なんか後回しでいい。
みんな無事でいてくれよぉぉぉ!!
あのモノの多い家で在宅介護は、破綻するぞぉぉお!!!
(介護福祉士心の叫び)
末っ子長男のズボラ嫁の目線で義母を観察するマガジン。
本棚に本があってもわたしの脳みそは賢くなれない。
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