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桜城南署 交通課、本日も異常あり。〜腰元ダンサーズ、参上!〜

竜原県、桜城市(さくらじょうし)。

桜が、いつまでたっても散らない、
ふしぎな城下町。

きょうはそこで起きた、
ちょっと——いや、かなりおかしな事件のお話。

■ 第一章 交通課の朝

お城のふもと、
桜城南警察署・交通課。

今日も朝から、無線が鳴る。

「こちら桜城南124……りょ、了解や」

関西弁で返事をするのは、
交通課の桃井百々(ももい もも)巡査。

その隣で、書類の山を
しゅっ、しゅっと片づけているのが、
まき主任。

うちの事務所のマネージャー……
じゃなくて、この町の主任である。

ややこしくて、ごめん。

平和な町。

……の、はずだった。

最近どうも、おかしい。

町から、笑顔が消えた。

すれ違う人は、みんな真顔。

エレベーターでは壁とにらめっこ。

道をゆずっても、
「ありがとう」の代わりに、
空気だけが通り過ぎる。

なのに——。

郵便局のATMの前だけ、
満面の笑みで立っている男がいる。

「……あいつや。」

桃井巡査の目が、キラリと光った。

■ 第二章 容疑者・シオタイ

指名手配ポスターには、
こう書かれていた。

容疑者・通称『シオタイ』。

罪状。

笑顔の独り占め。

町じゅうの笑顔を、
年貢のように集めては、

ATMの前でだけ、
ひとりニヤニヤしているという、
前代未聞の男である。

しかも。

ATMから三歩離れると、
すん。

真顔。

五歩離れると、
さらに、すん。

もはや職人芸である。

「誰か、あの男を成敗せよ!」

桜城南署の署長——

令和の世の、
凛々しき女殿が、
高らかに叫んだ。

その瞬間。

パトカーのサイレンが、
桜吹雪を切り裂く。

降り立ったのは、
伝説の刑事。

人呼んで——

将軍。

決めゼリフは、
ただひとつ。

「成敗ぃ〜!」

かっこいい。

めちゃくちゃ、かっこいい。

……ただし。

ひとつだけ、
弱点がある。

ひとりでは、踊れない。

■ 第三章 参上、腰元ダンサーズ

「将軍、お待たせしました!」

桜吹雪の向こうから、

しゃなり。

しゃなり。

しゃなり。

腰元ダンサーズ、参上。

センターを務めるのは、
わたくし、みーちゃん。

現場を仕切るのは、
まき主任。

そして——

「王子様は、
ローラースケートでやってくる。」

シャーーッ!

教養派の腰元、
ぶっくんが華麗に滑り込む。

なぜローラースケートなのか。

理由はない。

かっこいいからである。

その瞬間。

テ、テ、テケテケ……

テケテケ……

音楽が鳴る。

将軍が、
ビシッと指を差す。

「シオタイ、覚悟ぉ!」

腰元ダンサーズが舞う。

桜が舞う。

パトランプが、
くるくる回る。

気づけば。

桃井巡査まで踊っていた。

「なんでやねーーん!」

とツッコミながら、

一番ノリノリである。

しかも途中から、

「交通整理より、
サンバ整理のほうが向いてるかもしれへんな!」

と言い出した。

仕事は大丈夫なのか。

たぶん、大丈夫である。

追いつめられたシオタイ。

逃げようとしても、

どこへ行っても、
サンバ。

右もサンバ。

左もサンバ。

前にもサンバ。

後ろもサンバ。

ついに観念した。

「……なんか。」

「……楽しい。」

笑ってしまった。

その瞬間だった。

胸にため込んでいた笑顔が、

ぶわぁっ……

と桜吹雪みたいに町じゅうへ飛んでいく。

道を譲る人が笑う。

店員さんが笑う。

子どもが笑う。

おばあちゃんが笑う。

笑顔が、
町へ帰ってきた。

■ 第四章 成敗のあとに

将軍が、
静かに言った。

「笑顔はな……」

「独り占めするもんやない。」

「みんなに配るもんや。」

「——成敗ぃ!」

シオタイは、
ぽろりと涙をこぼした。

「ATMにだけ……

見せてる場合やなかった……。」

その日から、
桜城市には笑顔が戻った。

そして。

ATMの前で
ニヤニヤしている人を見かけても、

誰も通報しなくなった。

「あぁ、
笑顔の在庫確認中やな。」

そう言って、
みんな笑う。

今日も桜城市では、
パトカーのサイレンより先に、

マツケンサンバが聞こえるという。

平和である。

〈おわり〉

🌸 腰元ダンサーズ、ただいま隊員募集中。

「わたしも舞いたい!」

そんなあなたは、
こっそり名乗りをあげてくださいませ。

次回、あなたの入隊、
心よりお待ちしております。

――――――――――

🌸 種明かし ― この物語が生まれるまで ―

この、しょーもなくて愛おしい事件は、
ぜんぶ実在の記事とコメントから生まれました。

・「シオタイ」の正体
 → 拙作『その笑み、半分ちょうだい。』


・ローラースケートの腰元・ぶっくん

 → 『王子様は、ローラースケートでやってきた。』


  


・「暴れん坊将軍」「成敗」の発端
 → さとりさんの、あたたかいコメントから。

・舞台の桜城市・竜原県警・桃井巡査・まき主任
 → 加古川あきらさんの『警察物語』の世界をお借りしました。

 あきらさん、すてきな町をありがとうございます🌸







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