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《ショートショート》自殺防止委員会

ゆっくりと、景色が通り過ぎてゆく。

目の前を横切る鳥。
僕を見つけて目を見開く、地上の人々。
急停止する自転車。

そして、迫ってくる地面。

今までに経験したことのない強さでコンクリートに叩きつけられた瞬間、視界が暗転する。



黒と白の垂れ幕。
僕の遺影を持つ父。
隣に寄り添う母。
蒼白な顔で俯く妹。


突如、母が崩れるように座り込んだ。
大声で泣き叫ぶ。

「どうして…どうしてあの子が」
「何も気づいてあげられなかった」

あとはもう言葉にならない。
もはや、人間の声ですらなかった。


てっきり、妹だけが可愛いのだと思っていた。
幼少期、母は僕よりずっと出来のいい妹にかかりきりだった。
僕が大学進学で家を出ることになっても、何も言わなかった。

母の背中をさする父も、後ろの妹もまた、大粒の涙を流していた。


こんなにも、こんなにも悲しむのか。


僕の胸が痛む。
「死にたい」と願った時よりも強く、強く痛む。
もうあるはずのない目から涙が溢れるーー。




気がつくと、僕は今まさに飛び降りようとしていたビルの屋上に立っていた。
顔から首にかけて、涙でびっしょりと濡れている。
そばにいる男が、ティッシュを渡してくれた。

「わかりましたか」

涙を拭う僕に、彼は優しく言った。

「あなたが死ねばご家族がどれほど悲しむことか。あなたはまだお若い。可能性は無限大にあるのですよ」

「…僕以外にも、こうやって見せているんですか」
「その通りです」

彼は微笑む。

「自らの死後の世界を見ることで、自殺を思い止まる方は非常に多いです。もちろん、ごくたまに…救えない方もいらっしゃいますが」
「見せてくれてありがとう。あなたは命の恩人です」
「私は職務を果たしただけですよ。考え直して頂けて良かった。それでは、どうぞ末永くお元気で」

そう言い残すと、彼の姿はかき消えた。

屋上には、僕一人。
今見たのは、束の間の夢か、幻か。
それでも僕の胸には、先ほどまでは全くなかった、生命の炎が燃え盛っていた。



僕は沈みゆく夕陽を、いつまでも、いつまでも眺めていた。





「はい、今回もうまくいきました。はい。…ええ、まったくです。助かりました。『もしもこのまま生き続けていたらどのような最期を迎えるのか』などと聞かれなくて」









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