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《短編小説》シャボン玉に乗って

シャボン玉に乗って、旅をしていた。


道端に倒れていた僕は、知らないお爺さんからこう言われたのだ。

「君に、アップグレードしたシャボン玉をプレゼントしよう」


薄い膜越しに見る景色は、いつもより少し虹色がかっていた。


入園式帰りだろうか。名札を下げた幼稚園児たちが、親と手を繋いで帰っていくのが見えた。
夕日が、子供たちの頬を赤く染める。


ふわふわと漂い、一軒の家の前を通った。
悲しいほどの懐かしさに襲われ、思わず近寄る。


開きっぱなしの窓から、中に入ってみた。
ひどく、荒れている。
まるで、強盗でも入った後かのようだ。
それなのに、人の気配が全くなかった。


激しく、脳内を揺さぶられている感じがした。
ここに、帰らなければならないような。

「待っててね」

自然と、そう声が漏れた。



家を出ると、いつの間にか夕闇が立ち込めていた。
ふわりふわりと、高度を上げる。

開けた公園の前を通った時、僕は息を呑んだ。


夜桜だ。


あまりの美しさに、僕は目を奪われた。
ずいぶん久しぶりに、きちんと桜を見た気がした。
花びらの一枚一枚が、月明かりを反射して輝いている。


こうやって、いつまでも空を自由に漂っていられたら。
僕は、そう願う。



その時、微かに泣き声が聞こえた。
僕は耳を澄ませ、声がする方向を目指す。


たどり着いたのは、先ほど入った家の前だった。
一人の女性が、身も世もなく泣き崩れている。
そばで背中をさする男性もまた、涙を流していた。


どうしてだろう。
どうして僕まで、こんなに悲しくなってくるんだろう。


ここにいてはいけない。
シャボン玉の中から、出なくてはいけない。

不意に、そう思った。


パチン。
シャボン玉が、割れる音がした。




病室に入った私は、ハッと息を呑んだ。
きびすを返し、宿直の医師の元へ走る。


「バイク事故で意識不明だった患者さんが、目を覚ましました」





今回のお題
・シャボン玉(書き出し)
・「待っててね」
・アップグレード
・名札
・夜桜




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