見出し画像

《ショートショート》輪廻

彼女は困っていた。

「だから、何でいちいちこんなもの書かないといけないんだって言ってんだよ!俺はただ腰が痛くて来ただけなんだよ!こんなものバカバカしくて書けねえよ!」
「ですから、小林様は初めていらした方なので、今かかってらっしゃるご病気ですとか、アレルギーですとかを、教えていただけたらと…」
「だーかーら、俺は腰が痛いだけなの!病気だあ?お前と話してる方が病気になるわ。そしたらお前責任取れんのか?ああ?」

こんな患者相手に「医療法第○条に基づいてー」などと言い返そうものなら、自分の首を絞めることになる。それくらいの教訓は、彼女の決して長いとは言えない経験からでも得られていた。



昼休み、彼女は銀行へ向かう。
携帯を変えたので、番号変更の手続きをしなければならないのだ。

「マイナンバーカードはお持ちでしょうか?」
「マイナンバーカード?落とすのが怖くて持ち歩いてません」
「それでしたら、運転免許証はお持ちでしょうか?」
「持ってません」
「恐れ入りますが、それでしたらこちらの本人確認書類の中から2点お選びいただき…」

そこで、堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしてよ!私は昼休みの合間を縫って、ここに来てるの!だいたい顔を見れば私だってわかるじゃないの!どうしてそんなめんどくさいことしなくちゃいけないのよ!」
「申し訳ございません。ですが、お客様の大切な情報をお預かりしている以上、ご本人様であることを厳密に確かめなければならないので…」
「この書類、全部役所の手続きが必要じゃない!どうやって役所に行けっていうのよ!私は平日、毎日仕事なのよ?だいたいあなたたちだって平日しか開いてないし閉まる時間も早いから、私の昼休みが潰れるんじゃないの!」

どんなに抗議しても、相手は「申し訳ございません」と繰り返すだけ。
銀行で手続きができなくて結局困るのは、自分なのだ。どんなに不満をぶつけても、最後は従うしかない。

ありったけの罵詈雑言をぶつけてから、彼女は銀行を出た。


どうして世の中、わからずやばかりなんだろう。

ああ、イライラする。

いいなと思ったら応援しよう!