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【実録】昭和〜平成〜令和サラリーマン生存記#6 「米国出張編1」

「米国出張編1」
〜サンノゼの嵐と、事務所からの「絶対同期」脱出作戦〜

シリコンバレーへの出張。それは、上司の機嫌を占う「気象予報」から始まった。エコノミー席での説教、ホテルの部屋番号を巡る大騒動。そして出張前夜、私は絶体絶命のピンチに陥る。「駅のホームにいる」という嘘を突き通すため、事務所の前後ドアを駆使した決死の脱出劇。心臓が止まりそうな、サンノゼへの幕開け。

〜米国出張の理不尽〜
ついに、米国出張の日がやってきた。目的地はシリコンバレーの心臓部、カリフォルニア州サンノゼ。ミッションは、米国ベンダーとのビジネスミーティング、そして相次ぐ故障トラブルへの「鉄槌」を下すことだ。
メンバーはF事業部長、T本部長、私の3名。現地でM駐在員と合流する手筈だが、出発前から不穏な空気は漂っていた。

〜上司の機嫌は「台風」のち「姑息」〜
出発前、T本部長から私のデスクに電話が入った。
「O君……今日、『あの方』の機嫌はどうかな? 晴れか、曇りか。それとも……台風か?」
「あの方」とは、もちろんF事業部長のことだ。もはや社内では神か天災のような扱いである。

「今日は『薄曇り』といったところでしょうか。普通だと思いますよ」
私はいつから気象予報士になったのか。すると本部長は、声を潜めて続けた。
「じゃあ、サンノゼでの会食人数を聞いてきてくれないか」
……それぐらい自分で電話して聞けばいいだろう。本部長ともあろうお方が、事業部長の地雷を踏むのを極端に恐れているのだ。

事業部長に確認すると「日米4人ずつの計8名だ」と即答された。さらに、意外な言葉が続く。
「飛行機は全員エコノミーでいいぞ。ビジネスはもったいない、節約だ」
立派な心がけです。社内規定では本部長以上はビジネス、それ以下はエコノミーと決まっている。
この「美談」を本部長に伝えると、彼は露骨に嫌な顔をした。そして、
「……事業部長には、『エコノミーが満席だった』ことにしておいてくれ」
なんという姑息な立ち回り。結局、私は板挟みの末、
「事業部長、本部長分のエコノミーの空きがございませんでした」と嘘をつく羽目になった。

〜三・二・一、脱出!〜
出張前夜、さらなる危機が訪れた。夜、事業部長から私の携帯に電話が入った。
「今、どこにいる?」
ここで「事務所です」と言えば済む話だった。だが、何か難解な宿題を今から出されるのを恐れた私は、とっさに「駅のホームです」と嘘をついてしまった。

「そうか。持っていくアニュアルレポートは何部持った?」
「……二部持ちました」
「二部でいいのかぁ〜〜」迫力ある声!
「………今から取りに会社に行きます」
「いや、俺が持っていくから」

血の気が引いた。事業部長室は私の部屋のすぐ隣だ。アニュアルレポートはこの部屋にある。事業部長がここに来れば、駅にいるはずの私と鉢合わせる。「嘘をついたのか!」と雷が落ちるのは明白だ。

逃げ道は一つ。事業部長がこの部屋の前のドアを開けて入ってくる「その瞬間」、私が後ろのドアから同時に脱出する。いわゆる、絶対同期のすれ違いだ。
私の感覚は極限まで研ぎ澄まされた。廊下からバタバタと事業部長の力強い足音が近づく。ドアの前で止まった。
(三、二、一……今だ!)

事業部長がガチャリと前扉を開けた瞬間、私は背後の扉を音を立てずに開け、廊下へ滑り出した。そのまま全速力で非常階段を駆け下りる。夜のオフィスビルに、私の心臓の音だけが響いていた。心臓が止まりそう。

後日談、次の日アニュアルレポートを五部渡された。
しかし結局、このアニュアルレポート使わなかったんですけど。。。

〜ビジネスの熟睡、エコノミーの説教〜
翌日、事業部長と本部長はビジネス席、私は一人エコノミー席でサンノゼへ。
到着後、優雅に降りてきた事業部長が私に声をかけた。
「よく眠れたか? 俺は熟睡できたぞ」
狭いシートで一睡もできなかった私は、正直に「あまり寝られませんでした」と答えた。すると事業部長は、したり顔でこうのたまった。
「修行が足りんな。そんなことでは一人前になれんぞ」とドヤ顔。

って……ビジネス席に乗っていれば私だって熟睡できましたよ! と叫び出したい衝動を抑え、ホテルの部屋に入るなり、
「チクショー、当たり前だろうが!」と叫んだ。
「王様の耳はロバの耳」を叫んだ理髪師の気分だった。

〜数字の「4」と「6」の迷宮〜
ホテルでのチェックイン時、M駐在員が「私が手続きしましょうか?」と事業部長に助け舟を出した。
だが、事業部長は、
「俺は自分でできる。他の役員と一緒にすんな」と突っぱねた。

各自で部屋に入り、夕食のために再集合。私がロビーへ降りていくと、そこには本部長と駐在員が血相を変えて走り回る姿があった。
事業部長の部屋の鍵が、どうしても開かないらしい。
「こんなホテルを予約しやがって!」と、事業部長の怒声がロビーに響く。

ホテルのスタッフを呼んで確認したところ、原因はあまりにマヌケなものだった。
フロントが手書きした部屋番号。米国人の書く「4」と「6」は判別しにくい。事業部長は「216」だと思い込み、力任せにノブを回していたが、実際は「214」だったのだ。確かに分かりづらい文字。

ただチェックイン時に口頭で確認するか、あるいは駐在員に任せていれば、こんな騒ぎにはならなかった。
「周りに手間をかけさせない、どうだ!」という変なプライドが、結果として最大の「超手間」を生んでいた。
サンノゼの夜風を浴びながら、私は深くため息をついた。
この出張、果たして無事に終わるのだろうか。

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