エルダーの庭~ローズマリー一家~ 第七話 ローズマリー一家
7 ローズマリー一家
長野の冬は厳しい。
特に標高の高いエルダーの庭は、冷たい風が吹き抜け、厳寒期には地面も凍り付いて霜柱が立つ。
でも、エルダーの庭の植物たちは、自力でその冬を乗り越えて強くなっていく。
「もちろん冬に耐えられない種類のハーブたちは、鉢にあげてビニールハウスに引っ越すんだけれど、耐寒性のある子たちには、その場でがんばってもらうんだ」
ローズマリーも、自力で冬を耐える種類のハーブなのだという。
だがその冬に耐えることができるのは、厳寒が訪れる前にしっかりと根を張ることができたものだけなのだという。
すでに立派に育っていたローズマリーのうちの一株が枯れ、そこに新たな子どものローズマリーがやってきたのが、去年の10月だった。
「隣りのローズマリーの枝を挿し木にして根付いた子だったの。だから、この子がローズマリーお母さんって感じかな」
形はいびつにはなっていないが、やや横広がりに葉を茂らせているのが、ローズマリーお母さんだった。
去年はいつまでも暑い日々が続いたかと思うと、突然秋が終わって冬になったような年だった。
「植物たちには、過ごしづらい環境だったと思う。特にローズマリーは暑さと蒸れに弱い。だから、この子どものローズマリーも、もしかしたら冬を越せないかもしれないと思っていたんだ」
特に冬のよく晴れた日の翌朝は、放射冷却で骨の髄まで凍り付きそうなくらいに寒くなる。
朝早くから植物たちの状態を確かめるため、見回りをしていた拓人と結は、ローズマリーの異変に気づいたのだった。
昨日まで元気に緑の葉を茂らせていたローズマリーお父さんの一部が、茶色くなって枯れていたのだ。
「でも不思議なの。庭の構造と風向きからいって、冷たい風はローズマリーお母さんと子どもに向かって吹いていたはずなの。それなのに、二人は無事でなぜかローズマリーお父さんだけが枯れていたの」
「それって、ローズマリーお父さんがお母さんと子どもを守ったってこと?」
「どうなんだろうな。でも、俺と結もそのとき直感的にそう思ったんだ」
言われて見れば、横に伸びたローズマリーお母さんの枝は、子どもを守ろうと必死に伸ばした手に見えた。
そして今は枯れたために切られてたローズマリーお父さんの枝は、さらに身を挺して寒風に立ちはだかった証拠なのかもしれない。
「お父さんとお母さんに守られて、大きくなった子なんだ。尊い子ですね」
杏樹がそう言った瞬間、頭の中に母と父の顔が浮かんだ。
苦しい荒波の中で、子どもが傷つかないように必死に守ろうとしてくれたのは、ローズマリー一家だけの話ではないのかもしれない。
わたしのお父さんとお母さんも同じように?
杏樹は今度こそ、父と母に本当の話を聞いてみたいと思ったのだった。
