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キャリアの転機を力に変える ~酒田市役所・役職定年・再任用職員研修会から見えた可能性~


はじめに:

こんにちは。青森大学の佐藤淳(さとうあつし)です。
このブログ「Unlearningから始まる自治のデザイン」では、地域や組織をかたちづくる“見えないOS(operating system)”に目を向け、そのアップデートを探求しています。

2025年5月28日、山形県酒田市役所にて、「役職定年・再任用職員研修会」が開催されました。対象は役職定年を迎えた、あるいは再任用となった市職員の方々で、当日は20名が参加。再任用後の働き方や職場内での関係性、そして自らの役割を見つめ直す時間となりました。
この研修が企画された背景には、役割や待遇の変化にともなうモチベーションの低下や、若手職員との距離感、また業務内容の変化に対する戸惑いといった、現場からの切実な声があります。これまで「管理職」として業務に携わってきた方々が、職場の一員として柔軟に動くことが求められる——そんな転換期に立つ職員にとって、自らの経験を再定義し、未来志向で働くための「心の棚卸し」が必要とされていました。

研修の内容と進行の流れ

今回の研修は、大きく三つの柱で構成されていました。
まず冒頭では、「同じ立場の仲間として、日ごろの苦労や想いを共有すること」、そして「これまでの経験を振り返り、これからの自分の役割を前向きに言語化するヒントを得ること」という、研修の目的を参加者全員で確認しました。
続いて、「酒田市人材育成基本方針」において定義されている、役職定年・再任用職員に求められる能力や役割を整理しました。たとえば「若手職員の模範となる姿勢を示す」、「組織運営への貢献」、「知識・技術の継承」など、これまで培ってきたキャリアをどう次世代につなげていくかという視点が、研修の重要なテーマとなりました。

酒田市役所人材育成基本方針より

また、講義の中では、私が担当している新任課長研修の現場で、「年上の部下との関わり方」に戸惑う課長が多くいることも紹介しました。再任用職員や役職定年後の職員の存在が、若手管理職にとってどれほど貴重な学びの機会になるか——そんな観点から、自らの立ち位置を再評価するきっかけになればという意図がありました。
後半では、対話の補助ツールとして「SOUNDカード」を活用し、「役職定年・再任用職員の役割とは?」というテーマで、参加者同士がざっくばらんに語り合う時間を設けました。「同じような立場の人と話すことで安心した」、「自分の強みや価値に気づけた」などの声も多く、対話を通じてお互いの存在がリソースになる実感を持てる機会となりました。

参加者の反応や声

研修では、参加者一人ひとりが自身の抱える戸惑いや悩みを、率直に言葉にして共有する姿が印象的でした。
・「給与や待遇が正規職員と比べて低いのに、業務の内容は変わらない。納得できない気持ちが正直ある」
・「再任用になってから、自分の役割がはっきりせず、やる気を保つのが難しい」
・「これまでは決裁者だったから、起票や起案なんてやったことがない。今さら聞けなくて、戸惑っている」
・「今どきの若手職員とどう接すればいいのか、正直わからない。距離を感じてしまう」
そんな本音が次々と出てきました。
一方で、同じ立場の仲間と語り合う中で、「自分だけじゃなかった」と安心する声や、「こういう話をもっとできる場が必要だ」との気づきも多く聞かれました。「役割があいまい」と感じていた参加者も、対話の中で「自分にしかできないこと」に目を向けはじめる様子があり、ただ愚痴を吐き出すだけでなく、これからの行動へのヒントを持ち帰る時間にもなっていました。

所感・振り返り

今回の研修は、私にとっても多くの気づきを得る機会となりました。役職定年・再任用という制度的な転機は、単なる雇用形態の変化にとどまらず、個々の職員のアイデンティティや職場内での位置づけに大きな影響を与えるものです。冒頭から感じていたのは、参加者の皆さんの表情にうっすらとにじむ「気まずさ」や「遠慮」でした。しかし、対話の時間が進むにつれ、少しずつ顔がほころび、「これまでとは違う形で組織に貢献できるかもしれない」という前向きな空気が会場に広がっていくのを感じました。
「年上の部下」とどう向き合えばよいか悩む若手課長がいる一方で、再任用となった側も「どう関わっていいかわからない」と感じている——。お互いに歩み寄る準備はできているのに、対話のきっかけがないだけなのかもしれません。
制度や立場の変化に対して、必要なのは「役割を割り当てること」ではなく、「意味を再発見すること」だと、改めて実感しました。その手助けとして、こうした対話の場の可能性はまだまだ広がると感じています。

おわりに:

役職定年や再任用という節目を、どのように迎えるか。その問いは、制度や処遇の問題だけではなく、「組織の中で自分がどうありたいか」「何を次の世代に手渡したいか」という、深い内省を促すテーマでもあります。
今回の研修では、制度の枠組みを超えて、参加者一人ひとりが自らの経験と役割を再定義し、未来志向の語りを始める姿が見られました。そこには、ただ「再任用された職員」ではなく、「今この組織に必要な知恵や視点を持つ存在」としての可能性が垣間見えました。こうした場は、どの自治体にも必要なのではないか——私はそう感じています。
立場が変わったからこそ見える景色や、そこから語られる言葉には、組織全体を支える力があります。同時に、それを受け取る若手や管理職にも、耳を傾ける姿勢と対話の習慣が求められます。
人が変わり、組織が変わる。その原動力として、「語り合う文化」をどう育てていくか。
この研修が、その一歩となることを願っています。

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