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ヒューマンドラマ×グルメ小説|タバスコが辛くなくて困る(2)|焼き肉ランチ

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【あらすじ】

 ライターの東海林しょうじ町子まちこは40歳独身女。花より団子の食道楽くいどうらく

 大学からの友人、芙由美ふゆみとまどかと3人で、独身を脱却するぞと宣誓するが、実は一人がまあまあ楽しかったりする。

 立ち飲み屋で楽しむビールと焼き茄子、激安スーパーで買った鶏ハツでスパークリングワイン——

 最高過ぎて、結局今日も一人飲み——?

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焼き肉ランチ


 平日の焼き肉にビールは罪深い味がする。
 町子は焼き肉屋のカウンターで肉を焼きながら、ジョッキのビールを飲んでいた。炭火の網の上で、肉がチリチリジュージューと音を立てる。肉の焼ける香りが広がり、煙ごと旨い。

 町子は在宅でライターの仕事をしていた。仕事の締め切りは今日の午前中。見事納期をクリアし、こうして優雅な午後を獲得した。

「町子さん、相変わらず旨そうに食べますねえ」

 焼き肉屋の二代目店主、うしお大和やまとがカウンターの中で言う。ちなみに店の名前は『やまと』。

「そう言う大和は暇そうだねえ」

 町子が言うと、大和は苦笑する。

「平日のランチなんてこんなものですよ。町子さんみたいに昼から呑んでる人のほうがレアですよ」と大和が言う。

 炭火で香ばしく焼けた肉をつつきながら、町子は「この罪深さが最高なのよ」と言った。新鮮なレバーを炙る程度で口に入れる。ほのかな苦味と豊かな甘味。シャキッとしつつも、とろりとした食感。それをビールでちびりとやる。ああ、最高。最高過ぎて肉の脂と一緒に溶けそうだ。たまに口直しで口に放り込むカクテキの味もまた、複雑な香辛料の中に、大根の率直さが感じられる。ああ、何という素晴らしいハーモニー。素晴らしい時間。

 町子はひたすら、その美食に酔った。自分が今こうしている間、多くの人間はやりたくもない仕事をやっているのだと思うが、今はそのことにセンチメンタルになるより、自分が選択した生き方が実現させた、この時間が愛おしい。

 町子は焼き肉の素晴らしさを噛み締めながら、お隣の同性カップルから頼まれた、ベビーシッターの仕事があったことをふと思い出した。ベビーシッターと言っても、相手はもう8歳の女の子だけれど。

「今の小学生ってどんなことに興味あるのかなあ」と町子がぽつりと言う。それは独り言というには少々声が大きい。

「小学生? 女の子? 姪っ子ちゃんとかですか?」とジョッキのビールを入れながら大和が言う。
「ううん。お隣の女の子なんだけどね。今度、ベビーシッター頼まれてて。何して遊べばいいのかなあと」
「何歳ですか?」
「8歳」
「それなら、もう、一緒に買い物とかでもいいんじゃないですか? 女の子は大人っぽいですから」
「なるほど。買い物か。ありかもね。あれ? 大和、そんな大きい子どもいたっけ?」
「子どもどころか、結婚もしてません。俺もたまに友達の子どもの遊び相手するんです。女の子は8歳くらいになると、むしろこっちが遊んでもらってる感じですよ」

 大和はそう言って笑う。何となく遊んでもらっている想像が出来る気がした。

「じゃあその子と遊んで、困ったら大和呼ぼうかな」
「え?」
「何よ?」
「いや。光栄ですけど」
「嘘よ。冗談。お肉とビールがあんまり美味しいから嫌がらせ」
「どういうことですか」と言って、大和がまた笑う。
「だってこんなに美味しいの、罪だわ。太っちゃう」
「そういう割に太ってないですよね」
「合間でYouTube見ながらピラティスやってる成果かな」
「さすが。今どきですね」
「YouTube様々」

 そう言って私は、「ご馳走様でした」と箸を置いた。昨年までならここで電子タバコの登場——となるが、禁煙したので、自宅の冷凍庫にあるアイスを食べることにする。
 町子は「また来るね」と言って店を出た。

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